藤原 里紗さん(第5学年次)

ワシントン大学での研修を終えて

私はこの度、ワシントン大学における1週間の研修プログラムに参加させて頂きました。このプログラムでは4日間で、ワシントン大学に始まり、こども病院、癌センター、救急病院、透析センターなどの施設を見学させて頂き、それぞれの施設でたくさんの先生方に講義をして頂きました。

最初の講義である、McCormic先生の生命倫理についての講義では、生命倫理を考えるにあたり必要な考え方となる、”Four Box Method”について学びました。”Four Box Method”はアメリカの医療現場で普及している、患者さんと向き合う際に漠然と考えるのではなく4つのポイントに絞って考えることで、患者さんやご家族の気持ちに寄り添った治療を行えるようにする、という考え方のことです。1つ目は患者さんにどのような症状があり、どのような処置が必要であるかという医療的な判断について、2つ目は患者さん自身が行う選択について、3つ目は患者さんのQuality Of Lifeについて、4つ目は法律やコストによる制限についてです。この考え方は後の小児科、腫瘍内科、ICU、腎透析科など様々な分野の講義のお話の根幹となるものでした。

施設見学の中で最も楽しみにしていた、Seattle Children’s HospitalではMcCormic先生の講義で学んだ”Four Box Method”を用いて、白血病になってしまったひとりの女の子を例に、緩和ケアの行い方について考える講義でした。治療を行ってから緩和ケアを行うのではなく、治療と緩和ケアを同時に始め、並行して行うことで、その子のQOLの向上を第一に考えた治療が行えるというお話でした。講義の後は施設内を見学させて頂きました。礼拝堂では様々な言語の聖書が置かれ、宗教画は宗教を不快に思う人のために取り外し可能となっていたり、病室にはテレビが2つ用意されており、入院している子供と付き添いのご家族が別のものを見られるように配慮されていました。施設内はとても広く、壁や扉にたくさんの絵が描かれ、温水プール、屋内と屋外のプレイルームもあり、すべてがこの病院にいる子供とご家族が快適に過ごせるように工夫されていると感じました。小児科医を目指す私は医師になったときに、不安を抱えている子供が少しでものびのびと育ちご家族と一緒に快適に過ごせるように、工夫し配慮する気持ちを持ち続けたいと思いました。

James Green先生は尊厳死についての講義をして下さいました。患者が安楽死を認められるには条件があり、余命が6か月だと診断された患者自身が安楽死を望むという意思表示を口頭で2回、文書で1回、計3回行う必要があります。医師は患者に薬を処方し、患者はその薬を飲み、亡くなります。不謹慎かもしれませんが、私は安楽死を行うということは、痛みなどの苦しみと戦い続け死にたいと願う患者の苦しむ姿を見なくて済む上に患者の願いを叶えられるので、医師として楽なのではないかと考えていました。しかし実際、安楽死のための薬を処方した医師は、しばらくはその薬を処方したいという気持ちにはならず、また、安楽死をよく思わない人達の中には”死の医師”といったイメージを持つ人もいるそうで医師は安楽死のための薬を処方したことを周りに知られたくないそうです。安楽死のための薬を処方する権利を与えられた医師にも相当な苦悩があるのだと知りました。

ご自身もChaplinでいらっしゃるKing先生は、Chaplinの役割についてお話ししてくださいました。私は当初Chaplinというお仕事に、宗教的な考え方を患者さんに伝えることで患者さんの死への考え方を変えるというイメージを抱いていました。しかし実際は、Chaplinは自分から宗教や病気について話をするのではなく、患者さんに自分が今までどのように生きてきたかということについて話して下さいと言います。患者さんは自分の人生について話しているうちに、思ったよりも自分が豊かな人生を送ってきたということに気付くことができるそうです。そしてChaplinはそのお手伝いをします。Chaplinという仕事が普及していない日本において、終末期の患者さんに病院で寄り添うのは医療者です。忙しい医療者が実現することは難しいと思いますが、患者さん自身が考えていることを話してもらい、その言葉に耳を傾けることができる医師になりたいと思いました。

また、講義では先生のお話を聞くだけでなく、もっと知りたいことがあれば質問し、皆で意見を出し合い、ディスカッションを行いました。大学ではディスカッションや質問の時間を設けられてもなかなか発言できなかった私も、積極的に参加することでいろいろな考え方を吸収でき、とても良い機会になりました。

研修以外の時間もとても充実していました。ワシントン大学は世界でもとても有名な大学で、休み時間に散策した図書館は歴史を感じさせられるとても美しいところでした。ウェルカムディナーやフェアウェルパーティーでは、拙い英語ながらも、ワシントン大学の先生方、学生さん、King先生のお子さんとたくさんお話しすることができました。King先生のお宅でのホームパーティーや、夕日を見ながらの湖のクルージングも最高でした。市内観光もシアトルで有名なマーケットやビルゲイツ財団にも行き、また空き時間にはホテル近くのスターバックス1号店やとても美味しいピロシキのお店、お買い物にも行きました。すべてが本当に素敵な思い出になりました。

最後になりましたが、関先生、蒲生先生、近藤先生、中村先生、枚方療育園の櫻井さん、梅澤さん、関先生の奥様、ガイドのよしこさん、通訳のTuridさん、現地コーディネーターのMcCormic先生、King先生、講義してくださった先生方、国際交流センターの鳥井さん、一緒に参加した皆、この研修に携わってくださったすべての方々に、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。