李 佳禧さん(第2学年次)

汕頭留学で学んだこと

2017年11月11日から18日までの8日間、中国の広東省にある汕頭に短期留学に行きました。汕頭は中国南部に位置し、非常にあたたかい気候です。11月にもかかわらず、日中は28℃まで気温が上がり、夏服で過ごしました。

初日は、出発前からメールのやり取りをして下さった程継東先生が空港まで迎えに来られて、ホテルでWelcome dinnerがありました。そのとき、Law先生から汕頭大学の説明とLi Ka Shing Foundation(李嘉誠基金)の説明がありました。李嘉誠基金による莫大な補助で汕頭大学は建てられ、また数多くの医療が行われていることが分かりました。

2日目は、貧困地域へのボランティア活動を見学しました。貧困地域のボランティア活動では、思いのほかたくさんの方が訪れてきました。医師や薬剤師、看護師学生がボランティア活動に参加しており、日本ではあまり見られない風景だと思いました。汕頭大学の医学生のほとんどがボランティア活動に参加するそうで、これは強制ではないそうです。日本ではこれほど活発にボランティア活動が行われていないので、学生の意識の高さを感じました。そこでは簡単な検査や子供たちの身体検査などが行われており、薬も無料で配布されていました。また、家まで訪問して米と油を配布する活動もありました。貧困地域の住民にとって不可欠な場であることが分かりました。

3日目は、汕頭大学に行きました。とても大きく綺麗な大学で、特に印象に残るのは図書館と医学部の建物でした。図書館はアジア一美しいとも言われており、自習環境としても最高だと思います。医学部の建物は中央が空いている特徴的な形状で、一度見ると忘れられない建物でした。中には人体生命科学館という博物館があり、その中でも講義が行われますし、上の階には臨床技能センターがあり、全ての科の模擬室が完備されていて、勉強するための環境が整っていました。これらも全て李嘉誠基金によるものです。学生が英語で様々な説明をしてくれ、同年代の医学生のレベルの高さを感じ、英語の勉強意欲も強くなりました。

4日目はホスピスとして訪問診療に行きました。汕頭大学の第一附属病院が行っているホスピスは、外来だけでなく、患者さんの家まで車で向かい、本人やご家族の方とお話したり、薬の処方を行うものもあります。外来の相談室は、温かい雰囲気で、患者さんやそのご家族の方の不安を和らげる工夫のひとつです。治療はすべて無料で行われるので、患者さんの状態・家の状態・家族の能力等が評価対象になり、末期のがん患者や、慢性の中~重疼痛を抱える患者、経済困難な患者などが多いそうです。特徴的だなと感じたのは、問診から診察までの時間が長いことです。これは本人やご家族の不安をまず和らげているようにも見えました。言葉は分かりませんでしたが、互いに目をみて何度も頷きあい、ご家族にも薬の飲み方や困ったときの連絡方法など、丁寧に説明する様子が見られました。

5日目は、眼科の見学に行った後、潮州に観光に連れていってもらいました。眼科のチョウ先生に話を伺いました。チョウ先生は白内障手術のスペシャリストで、現在外来が年間10000人を超え、白内障手術は年間1200件ほどだそうです。患者の病気はほとんど解決しますが、数十例は汕頭大医学のTumor Centerへ紹介するそうです。この病院がない頃は失明しても仕方ないという患者が数多くいたので、革命的な病院と分かりましたが、その病院も眼科医4人、看護師3人しかおらず、まだ医師・ベッドが足りないという事実をわかってほしいとおっしゃっていました。観光では、外国人観光客ではなく中国人の観光客が多く見られました。たくさんの伝統的なお寺や神社を見ましたが、その中に「順雨」「調風」とかかれた鳥居があり、これは汕頭地方に台風が来ないように祈られたものだそうです。

6日目は、汕頭大学第二附属病院に見学に行きました。ここでは私が一番深い興味を持っていた口蓋裂・口唇裂について学びました。専門のCleft lip &Palate Treatment Centerがあり、これは李嘉誠projectにより2007年に設立されたものです。中国では1.62人/1000人の確率で口蓋・口唇裂の患者さんがいて、これは日本でも割合は同じくらいだそうです。割合が比較的高いにもかかわらず患者さんをあまり見かけない理由の一つに、治療が早く行われることが挙げられるそうです。実際手術は体重が5kgを満たす生後3か月ごろから行う事が出来ます。また口蓋・口唇裂の治療は、それ自体の手術だけにとどまらず、最も重要とされるSpeech Trainingや、歯科矯正、形成外科など段階的なアプローチが必要なことが分かりました。特にSpeech Therapyは欠かせず、2歳から6歳ごろまで行われるそうです。未来に希望のある子供たちの口蓋・口唇裂を治せたら、という思いから李嘉誠基金によるRainbow Projectというものがあり、莫大な治療費の負担をしているそうです。他に、精神科や眼科、NICUなどに見学に行きました。NICUでは極低出生体重児がたくさんいましたが、救う基準が中国と日本で異なるようでした。倫理観は個々で異なりますが、国単位でも違いがあり、難しい問題だと改めて感じました。精神科病棟では多数の患者さんが同じ空間で過ごしており、芸術的な作品をたくさん残していたり、脳のトレーニングをしたりして治療していました。

7日目は、婦人科の見学に行きました。婦人科の診察では、前の患者さんが診察中にも関わらず割り込む方がいたり、いつの間にか3組の患者さんで医師の話を聞いていたりとプライバシーの問題が日本よりまだまだ重視されていないと感じました。夜には餃子パーティーを開いていただきました。地方特有の餃子で、皮の作り方から包み方まで丁寧に教えてもらい、楽しい時間になりました。7日間でお世話になった先生方も集まってくださり、日本語が上手な先生ばかりだったので、医療の話から大学の話まで幅広い話をしました。

1週間はあっという間で、非常に充実したものでした。小児科の服部益治先生が引率についてくださったので、まだ低学年の私たちも少しながら臨床への知識を得る事が出来ました。また、程先生をはじめ奥様の楊先生や、感染症専門のリュウ先生にも大変お世話になりました。言語の壁があまりなく、医学を外国で学ぶことが出来たのは先生方のおかげです。この留学を通して、改めて日本の医療環境は整っていると身に染みて感じましたが、私には見えていないだけで、日本が抱える問題は必ずあると思うので、それを勉強したいと思うようになりました。