安井 謙太さん(第2学年次)

中国・汕頭大学留学を終えて

中国と日本の医療にどのような違いがあるのか、実際に現地に赴き、自分の目で確かめ、生の声を聴き、見聞を広げたいと思い、この留学に申し込んだ。医学生として海外の医学部に初めて留学し、そこで私が体験したことや、感じたことが少しでも伝われば幸いである。今回のプログラムではさまざまな医療機関に赴き、中国の医療の大枠を見学することができたが、その中でも印象に残っている4つのことについてこれから書こうと思う。

1つ目は、農村地域への医療ボランティアである。汕頭市の中心街から車で1時間半ほどの所にあり、収入が少なくて病院に行くことができない人々が一定数生活している。ここでは、汕頭大学の医学生に同行し、村の役場のような所で無料診察を行っていることを村民に知らせて、診察を勧める活動を行った。同行した学生の中にこの地域出身の学生がいて、地方語(方言のようなもの)を用いてコミュニケーションをとっていたことが印象的で、話しかけられた村民の方々もリラックスした様子で話を聴いていた。私も途中からその学生に「無料診察を行っているので、是非来てください。」を地方語で何と言うか教わって、村民の方に話しかけてみた。最初の方は発音が悪かったり、イントネーションが間違っていたりして、警戒されることが多かったが、上手く伝わったときは、どこから来ただとか、日本はどんなところかといったような話をすることができた。この体験は日本でも、その地方の方言を用いることで患者とのコミュニケーションを円滑にするといったことに生かせるのではないかと感じた。

2つ目は、口唇・口蓋裂治療センターである。ここでは、無料で口唇・口蓋裂の治療を行っており、多くの小児が入院していた。口唇裂は生後6ヶ月を目途に、口蓋裂は言葉を覚え始める1歳~2歳半を目途に手術を行い、その後はspeech therapy(言語療法)によって正常に発音できるまで回復する。ここ最近、中国でも口唇・口蓋裂が認知されるようになり、地方からの患者も増えたそうだ。しかし、十数年前は口唇・口蓋裂の小児を寺のお坊さんが連れてくることがしばしばあった。これは、両親が口唇・口蓋裂を知らなかったために自分の子供を寺に預けることが多かったことが原因だそうだ。私はこの話を聴いて、正しい知識がない患者が誤った判断をしないためには医師としてどういったことができるのか、改めて考えさせられた。まずは正しい知識を伝えることはもちろんだが、患者とその家族の社会的立場も考慮した上で的確なアドバイスをすることが重要であると感じた。 3つ目は、汕頭大学の医学部キャンパスの見学である。まず、キャンパスの敷地の広さに圧倒された。ひとつひとつの建物のスケールが大きく、設備も充実していて、医学を学ぶに十分な環境が用意されている。その中でも図書館と医療トレーニングを行う施設は印象的だった。図書館はアジア一美しいと評されるほどにデザインに凝っており、外装は美術館を思わせる造りであった。自習スペースではテスト中でないにもかかわらず多くの学生が黙々と勉強していて、中国の医学生の勤勉さを痛感した。医療トレーニング施設では、各科ごとに様々な臨床の手技を訓練できる設備が整えられていて、中にはVRを用いて手術をシュミレーションする機器なども多くみられた。

4つ目は、留学していて印象的だったことを書こうと思う。私は10年前に1度上海を訪れたことがあり、その時に感じた、中国は人が多く、ごみごみしていて、空気が汚いといったマイナスのイメージが正直留学前まであった。しかし、そのマイナスイメージはすぐに払拭された。それは空気がきれいだということだ。汕頭市は年間を通して温暖な気候で暖房がいらないため、空気が比較的きれいなのだそうだ。北京や上海といった中国北部の大都市では、冬場大都市周辺の地域が石炭を燃やして暖をとるため大気が汚染される。また、工業なども盛んなのでさらに大気汚染が進行し、深刻な環境問題のひとつになっている。汕頭では食材の旨味を生かした料理が多く、多くの日本人が想像する香辛料や唐辛子をふんだんに用いた中華料理とは正反対のものであった。特に汕頭は海に面しているので魚介類も豊富である。日本人の口にも合いやすいのではないだろうか。交通に関しては中国の国民性が表れているような気がした。ルールがあって無いようなもので、1台のバイクに5人で乗ったり、遅い車が前にいればすぐにクラクションを鳴らすといったようなものだ。車やバイクが多いので譲り合っていては永遠に目的地に到着できないことを考えると仕方ないように感じた。

今回の留学を通して、中国に対するイメージが180度変わった。現地で見るもの、経験することすべてが新鮮で、出会った人の多くが日本を本当に好きであることに驚きを隠せなかった。現地で見聞きしたこと、出会った人々との思い出は一生の宝物になると思う。最後に、この素晴らしい留学を計画して頂いた兵庫医科大学の先生方、お忙しい中留学前にさまざまな相談に乗ってくださった国際交流センターの鳥井さん、現地でお世話いただいた汕頭大学の関係者の方々、本当にありがとうございました。