藤井 紫乃さん(第2学年次)

汕頭留学を終えて

中国の都市部と農村部の貧富の差や、それによりどれだけ受けられる医療に差があるのかを、テレビや本などからの知識ではなく、実際に行き自分で感じたいと思い、今回の汕頭留学への参加を希望しました。

中国に着くと、とても大きくきれいな汕頭空港や建設途中の何練もの高層マンションや高速道路がある一方、少しバスで進むと古びた汚い建物があり、変化が激しく、開発の真っ最中なのだなと感じさせられました。

2日目には農村部地域でのボランティアに参加させていただきました。そこでは定期的に医学生や医師が訪れ、広場にテントを張り、血圧や視力測定、軽い問診と薬の処方がすべて無料で行われていました。私たちが水銀の血圧計を上手く使えずにいると、現地の女の子に「中国では2年生で診察の手技を習うからみんなできる」と言われました。基礎医学を先に習うのか、診察の手技を先に習うのか、どちらが将来的にいいのかはわかりませんが、モチベーションもあがりますし、このようなボランティアを多く必要としている中国では早く手技が出来るようになることが日本よりも重要なのかもしれないと思いました。農村地域の人は暗くて怖いのではないかと勝手な先入観をもってしまっていましたが、とても朗らかな人が多く、子供たちは広場にある卓球台で元気に遊んでいました。私も入れて!というと快く受け入れてくれ、一緒に卓球をしたり、追いかけっこをしたりして交流しました。日本の子供と変わらない元気とやんちゃぶりでした。でも環境は大きく違いました。近くに病院がなく、遠くまで行っても医療を受けるお金がない、急な怪我や病気になったら…貧富の差をなくすことは難しいですが、せめて生命に必要な最低限の医療だけは同じように受けられる環境が整わなくてはいけないと思いました。ボランティアの後、その村の中でも貧しいところを訪問しました。敵が攻めてきた時のための避難経路などがあり、戦争が激しかったときに住んでいた家が残っていて跡地なのかな、と思いました。しかし、進んでいくと洗濯物が干してあり、中から人が出てきたことに驚きました。それほど私には人が住んでいるとは思えない環境でした。農村地域から汕頭市内へ帰ったあと、ショッピングモールに行きました。このショッピングモールは日本とほとんど一緒でマクドナルドなどの知っているお店やゲームセンターがありました。兵医へ交換留学に来ることが決まっている女の子たちが中を案内してくれました。中国語が分からなかったのでとても助かりました。中国ではもうほとんど現金は使わなくなっているようで、バーコードを読み取ってスマホで支払っていました。日本にもLINE payなど同じようなシステムはありますが、ほとんど普及していません。保守的な日本人に比べ中国の人は新しいものを取り入れすぐに適応できるのかなと思いました。午前中の農村地域と午後からのキラキラしたショッピングモール、この日は本当に生活の差を痛感しました。

3日目はホスピスの見学と訪問医療をさせていただきました。これらも経済的に貧しい人に対して李嘉誠基金によって無料で行われていました。訪問医療では家や看護する家人の状況、患者さんの病状などをしっかりみて、ひとりひとりにあった指導をし、話すだけでも楽になるからと同調しながらよく話を聞いている医師の姿が印象的でした。

4日目は前日にオープニングセレモニーが行われたばかりの新しい口腔外科と腫瘍医院と汕頭大学を見学しました。口腔外科では3D機械でインプラントをつくり、たったの30分で完成するという早さに驚きました。学生の実習も見させてもらいましたが、シミュレーションの機械が多くあり設備が充実していると思いました。実際に3Dの映像で歯を削る体験をさせていただきましたが、何にもあたっていないのに感覚がリアルでとても練習になるだろうと思いました。腫瘍医院では最新の検査や治療の機械が置かれていました。また、病棟ではベッドが廊下にまであり、患者さんが溢れかえっている状態でした。汕頭大学は広大な土地で、立派な図書館に専門科ごとの臨床のシミュレーションができ、とても設備が充実していました。

5日目は李嘉誠のプログラムのひとつで作られた長州の汕頭国際眼科を見学しました。お金だけでなく教育を支援するために大学からも先生が来て教えたり、大学で手術の動画が見られたりするそうです。設備の提供だけでは続けるのは難しく、そのような教育があってレベルが上がってきたからこそ、信頼もあり、病院が維持されているのだと思いました。バスでは中国の女の子とポーランドの男の子2人と一緒に行った兵医生と国や言語を超えて全員でゲームをして楽しむことができて嬉しかったです。

6日目は口唇口蓋裂治療センターや新生児科や感染病棟や眼科や精神科の見学をしました。口唇口蓋裂は中国で多いそうです。これは超音波で発見できるため、中絶の問題とも大きく関わっていました。日本では中絶はよくないものとする考え方が多いですが、先生はそれとなく中絶を進めるそうで、実際に中絶をされる方も多いそうです。また中国では夫婦の両方の遺伝子に異常がある場合は子供の障害につながるため、社会のためと子供を諦めることもあるそうです。これは中国の伝統的な考え方なのか、一人っ子政策などによって中絶への抵抗が少ないのか、遺伝子解析が進んできた結果か分かりませんが、新しい考え方に触れるよい機会でした。ひとつの考え方にとらわれず、いろんな意見を聞いてしっかり中絶について考えたいと思いました。感染病棟はコンクリートの部屋の中にベッドが2つあり、入り口には柵がされており、まるで牢屋のようでした。なぜこんな粗末な扱いを受けているのかと悲しくなりました。眼科センターでは白内障の手術の練習を豚の目を用いてしているのを見せてもらい、白内障についての説明や手術についての話をしていただきました。中国ならではの針治療や漢方の蒸気による治療など伝統的な治療も多くあり興味深かったです。

7日目は観光したりお土産を買ったり、卓球をしたり、わいわい楽しく過ごしました。卓球王国の中国はやはり卓球が上手な方が多く、仕事帰りに多くの方が来られていました。

今回の汕頭留学では中国やポーランドなど違う国の人と話せたことで、さまざまな考え方や国による違いがあることも学べ、もっとしっかり話すために英語を勉強しなければと思いました。中国の多くの人が日本のアニメやドラマをすごく見ていて日本語がとても上手なことにも驚きました。その国に馴染むためにはその国の言語を学ぶことも大事だと思いました。期待していた以上に多くの経験と学習をさせていただいた、とても楽しく充実した1週間でした。日々新しい出会いと別れがあり、多くの人に支えられていたと思います。日本語のしゃべれる引率の方がついてくれていたのはとても安心でき、疑問やわからない事があったときにはすぐに聞ける心強い存在でした。私たちが知らない土地で安心して楽しむことができたのは、医学生や引率の先生方の優しさや気遣いのおかげです。感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。