福司山 裕貴さん(第2学年次)

中国・汕頭大学留学を終えて

私が最初にこの中国・汕頭大学への留学のプログラムがあることを知った時、参加には消極的でした。なぜなら、何を学び、それを日本で自分が医師になった時にどう活かせるかが見出せなかったからです。しかし、実際に留学された先輩方の発表や報告書を読むことで、このプログラムの内容を知り、実際に中国で行われている医療の現場を自分の目で見て、日本との医療や思想などの様々な違いを理解したいと考えたため、強く参加したいと思いました。実際に留学させていただき、その中でも私が特に印象に残った4つのことを報告させていただきます。

1つ目は、中国の医学部のカリキュラムについてです。中国の医学部は5年間でカリキュラムが組まれており、私たちと同様に基礎医学から学んでいき、卒業試験や国家試験に相当する試験もあるようですが、日本との違いは英語水準試験が実施されており、ある一定以上の英語力を身につけておかなければ卒業試験などの受験資格すら与えられないとのことです。この制度は、中国に来る外国人に対応するためだけでなく、中国の医学の質を向上させるために積極的に海外への留学ができるための必須能力として課せられているということでした。また、汕頭大学内の見学をさせていただいた時に、大学の設備は日本のものよりも充実しており、質の高い医師を育てる環境が整えられていました。私たちが見学させていただいたものには、実際の患者さんを診断するように、リアルに心音・心疾患・不整脈・呼吸音をシミュレーションされた人形を使用して、正しい位置に聴診器を当てることで病態ごとの心音・呼吸音の違いを体験し、習得させるコンピューターや、臨床医になった後に使えるバーチャルでの模擬手術も行うことができる施設がありました。模擬手術はコンピューターの調整中とのことで体験することはできませんでしたが、本物のヒトのような反応を再現しているそうです。

2つ目は汕頭大学の医学生の意識の高さです。中国の医学部は日本ほど人気がなく、定員割れの大学も存在するほどです。この理由には、日本や欧米とは異なり中国の医師の地位・収入があまり高くないことにあるそうです。また、医師はサービス業のひとつとみなされており、患者を多く診なければならないため、非常に重労働であることも不人気の理由だそうです。私はこのような留学前の情報から、日本ほど中国の医学生の意識は高くないと考えていました。しかし、私が会った汕頭大学の学生達は2日目の貧困地域の医療見学をした時、診療所もない地域に月に1回のペースで診療所を仮設して地域の方の血圧や視力などの検査を行ったり、必要な処置を無料で提供するなどのボランティア活動をしていました。私は学生と一緒に近隣住民に対して無料診療所のパンフレットを配布して健康への意識を持っていただく啓蒙活動を行いました。その時に学生から聞いた話では、中国の医学部では入学自体はさほど難しくはないけど、入学後の勉強での本当に苦労が絶えないと言っていました。けれど、彼らの医学への情熱・海外への留学思考・僻地医療への関心は日本よりも高いと感じました。

3つ目は中国の医学へのアプローチの違いです。中国の医療技術は発展途上であるため、他国に比べて低く、富裕層では高水準の医療技術を求めてアメリカなどへの医療ツーリズムが流行っているそうです。そのための医療技術向上への対策としては、医師の待遇の改善よりも、コンピューター・テクノロジーによって医療の質を上げようと考えているそうです。そのため、中国ではAI(人口知能)をはじめとするコンピューター・サイエンスが盛んで、優秀な人材は皆医学部ではなく、工学部などの他の理系学部に進学を希望するそうです。そのため、医療ロボット開発が盛んなことから学校の設備にも繋がっているのだと感じました。医療以外でも、中国のコンピューター・テクノロジーは日常生活にも多く活用されており、料金の支払いはクレジットカードではなく、スマートフォンによる電子マネーによる決算がほとんどで、現金の持ち歩きも減っているそうです。

4つ目は、中国の漢方薬についてです。中国の薬剤について、西洋医学と東洋医学とで薬局も分類されており、薬剤師免許も別々で国家試験があるそうです。私たちは東洋医学の漢方を扱っている薬局を見学させてもらいました。日本では、例えば葛根湯のように製薬会社が数種類の生薬を製剤化して、錠剤や顆粒剤としたものに効能・効果が付いており、医師が症状に合わせて処方して服用しています。しかし、中国では製剤化前の生薬を個人の状態に合わせて薬局で組み合わせ、患者に渡していました。服用方法は、お茶に煎じて飲むことが一般的だそうです。日本でも中国の様な漢方専門薬局がありますが、漢方に精通していて、個人に合わせて調合するなどの知識を持つ人は決して多くはありません。また、日本では漢方は西洋薬に比べて効果が弱いというイメージがあることも、中国ほど漢方薬が使用されていない要因だと考えます。

今回の留学で、私は日本ではできない多くの貴重な経験をさせていただきました。この経験は今後の学生生活はもちろん、医師となってからの自分にも大きな影響を与えてくれると感じています。末筆ながら、今回の汕頭大学留学の企画・行程をお世話してくださった方々に感謝しております。本当にありがとうございました。