木田 萌瑛さん(第2学年次)

汕頭大学留学を終えて

私は2018年12月1日から12月8日までの8日間中国の汕頭に留学しました。以前から留学に興味があり、また、自分と同じように将来医師を目指す海外の学生との交流があるこのプログラムに魅力を感じ、参加したいと思いました。そして現地では数々の貴重な体験ができ、このプログラムに参加する機会を頂けたことに本当に感謝しています。

まずは初日、関西国際空港を出発し、広州で乗り継ぎ、汕頭に向かいました。日本を出発した時にはまだこれから留学するという実感が湧きませんでしたが、乗り継ぎをする広州に到着した途端、一気に自分の中で緊張感が高まるのがわかりました。そんな緊張感の中、これから1週間留学するんだという強い気持ちを持ちました。汕頭に到着すると現地の先生が迎えに来てくださっており、とても安心できました。私たちをウェルカムパーティーで歓迎してくださいました。中国の方はとても話し上手な方が多く、共通の話題を見付けて話に花を咲かせるのがとても上手だという印象を受けました。

2日目は農村の貧困地域に汕頭大学の医学生とボランティア活動に行きました。農村地域では今まで見たことのないような光景が広がっていました。例えば、一言に家とはいっても板一枚だけで外と内を区切っていたり、とても生活感が感じられないような家だったり、水周りの環境も決してよいものではありませんでした。日本での日々の暮らしがとても特別なことに感じられました。同時にそこで生活する人々の温かさに触れることもできました。自然に囲まれ、穏やかに暮らしていらっしゃる方もいました。

私は汕頭大学の学生数人とその地域の家を訪ね、「無料で問診しています」と中国語の地方語で女性にパンフレットを渡しに行くという経験をさせていただきました。定期的に地域の方の健康診断、問診をボランティアでされているそうです。汕頭大学の学生さんはとても優しく、何度もその地方語を教えてくださり、「これを言えたら後は私たちが話を繋ぐので大丈夫ですよ」と現地の方と話す機会をたくさん作ってくださいました。最後には自分から話にいくことができるようになり、パンフレットを笑顔で受け取ってくださった時は本当に嬉しかったです。訪問するまでの道中、汕頭大学の学生とたくさんの話をすることができました。その会話の中で印象的だったのがたくさんの人に日本の大学でもよくこのようなボランティア活動をしているのかと聞かれたことです。正直、狼狽えました。日本にいる時はそのようなことを自分が考える余裕もなく、どのような活動があるのかさえよく分かっておらず、答えられませんでした。汕頭大学ではこのようなボランティア活動をよくされているそうです。今後海外の学生と医療ボランティアについて話す機会があれば日本ではどのような活動があるのかしっかりと英語で説明できるようになりたいと思いました。

3日目はホスピスに従事する医師、看護師と家庭訪問に行きました。貧しく、医療が受けられない家庭への訪問でした。癌に苦しむ患者さんで痛み止めなどの薬を処方されていました。訪問に伺った時の患者さんや家族の安心された顔を今でもよく覚えています。訪問は定期的に行われ、症状や薬の服用状況など細かく医師が確認し、看護師は家族や患者さんに寄り添い、励ましていました。患者さんや家族にとってホスピスの訪問はとても大切な心の支えになっていることを感じました。

4日目、汕頭大学附属医院に見学に行きました。日本と明らかに違い、驚いたのは、病棟は入院患者であふれかえっていて、病室が足りず、廊下にまでベッドを設置し、廊下で患者さんやその家族が過ごされていたことです。日本ではとても考えられないような状況です。このことに限らず、医療分野においては特に、国や地域によって常識がこれほどまでに異なることは国際化が進む現代において問題意識を持たなければならないことのひとつではないかと思いました。またこの日、私たちは汕頭大学の見学に行きました。汕頭大学の施設はとても充実していて、特に図書館はすごい迫力で圧倒されてしまいました。自習スペースはびっしりと学生で埋まっていて、皆さんとても熱心に学習されていました。吹き抜けになっていて開放的な空間でした。他にも医学生をはじめ一般の方も入ることができる人体生命博物館には、寄付によって提供されたご献体や模型など解剖学アトラスが目の前に立体的に浮かび上がってきたような空間がありました。また医学生が臨床のシミュレーションに使用できる人形や機械も多数設置されていてとても驚きました。これらの充実した施設は大変素晴らしかったです。

5日目は田舎の眼科病院に行きました。白内障の手術を主に行っているようでした。ですが、医師不足という問題を抱えており、とても深刻でした。日本で地域の医師不足が問題視されているのと同様でした。その後、潮州観光に行きました。城壁やお寺、古い町並みや商店街を歩きました。買い物をするときにお店の人に先生が値切ってくれるよう交渉してくださるのを見て、日本にはあまりない光景で新鮮でした。先生方や生徒の案内のおかげでとても楽しむことができました。

6日目は口唇口蓋裂、NICU、感染症、精神科病棟の見学に行きました。特に心に残っているのが口唇口蓋裂の治療をされている先生の話です。それは妊娠している子供が口唇口蓋裂とわかったとき妊娠を継続するかどうかという議論です。医師としては中絶に反対することも勧めることもできない、ただ事実を伝えることしかできないとおっしゃっていました。生命倫理に関わる答えのない難しい議論で私自身答えを出すことができませんでした。ですが、先生はたくさんの口唇口蓋裂の子供達の手術を成功され、健康に生きる子供達の姿を誰よりも近くで見られているのにも関わらず、一歩も譲らず医師として中立の立場でいられることに尊敬の念を抱きました。

またその後、NICU行きました。これほどまでに近くで新生児を見るのは初めてでした。たくさんの装置や機械につながれて必死に生きる新生児を見て心打たれました。生きようとする強い生命力を感じました。事情は違いますが、口唇口蓋裂の子供を持つ親の視点を考慮した議論をした後だったので、親の気持ちや産む前、産まれた後の心境などを自然と考えました。また子どもが口唇口蓋裂と分かり、中絶される命がある一方、生まれてハンディキャップを抱えながら生きる命もあり、医師としては双方の道を受け止めなければならないという先生の言葉を思い出しました。大変考えさせられました。

いよいよ最終日となり、観光や卓球など最後に様々な文化体験ができました。食べ歩きをしながら、博物館に行ったり、郵便局にいって日本にハガキを出したことはとても楽しく、また良い経験となりました。お土産を見にたくさんのお店をまわったことも良い思い出です。最後に皆で卓球をするときには1週間で、私たちをサポートしてくださり、関わってくださったたくさんの先生方、そして学生さんが来て一緒に遊んでくださいました。改めて、多くの方にお世話になったのだと感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。最後の中国での一日を満喫することができました。

こうしてあっという間に1週間が過ぎ、日本に帰る日となりました。今思い返してみても、濃厚で充実した時間を過ごすことができたと思います。そんな時間の中で、汕頭大学の医学生との交流により気がついた自身の視野の狭さ、目の当たりにした地域格差の問題、議論した世界で共通する永遠の課題である生命倫理、医師不足の問題、そして文化や常識の違い、これらのような汕頭への留学で学んだことや感じたこと、また課題に思ったことは将来必ず活かし、還元したいと思います。

現地の先生方、汕頭大学の学生さんやスタッフの皆さんのおかげで毎日がとても充実していました。数々の貴重な経験ができたことをとても嬉しく思います。改めて、今回の研修の機会を頂けたこと、またプログラムに関わり、サポートしてくださった全ての方に感謝申し上げます。本当に有難うございました。