平石 江理奈さん(第2学年次)

汕頭大学への留学を経て

汕頭大学への留学をされた先輩方の感想文を読み、医療を受けたいのに受けられない貧困地域の人々や病室に収まりきらない沢山のベッドなど、中国の医療は日本と大きく異なると知り、実際自分の目で見て、患者さんからお話を聞いてみたいと思いました。また、日本の医療についてまだ知らないことばかりではあるものの、世界の医療を早い段階で見ることはこれからの学びに大きく影響を与えると考え、このプログラムへの参加を希望しました。

留学中、お会いする先生方はとても優しく、熱意にあふれた方ばかりで、空港に着いてから帰国するまで私たちを終始温かく迎えて下さいました。

初日のウェルカムパーティーで李嘉誠基金についてのお話を聞きました。李嘉誠基金の医療支援は1.貧困層へのボランティア2.無料のホスピスケア3.口唇口蓋裂患者の支援の3つに力を入れています。日本では李嘉誠基金のように大学や大学病院を含む大きなボランティア団体はなく、個人個人のボランティアや小さな団体しかありません。このように大きなボランティア団体の活動に参加することができ、とても勉強になりました。

汕頭大学の学生とバスで1時間半ほどかけて貧困層の多い村へボランティアに行くと、小学校の体育館に血圧測定、視力検査、身体測定、医師との面談、と大きく4つのブースが作られていました。医師との面談以外のブースでは学生が手伝うことができ、私も患者さんの血圧を測らせていただきました。日本でよく見る電子血圧計とは違い、水銀柱を使った血圧計でした。生理学の実習で一度使ったことはありましたが、実際に患者さんに使う事になり緊張しました。習っておいて良かったです。中国の学生は皆ボランティアの参加に慣れていて、水銀柱を使った血圧計を使いこなし、患者さんへの対応もとてもスムーズでした。医師と共にてきぱきと働く現地の学生は笑顔で住民と話していました。このボランティアは現地の医学生にとって自分が将来医師になるという自覚を持たせるのにも重要だと思いました。私にとっても大変素晴らしい経験になりました。

ホスピス見学では、末期肺がんの患者さんのお宅訪問に同行させていただきました。患者さんは初診で、医師から貧困者の保険の申請を行うことを勧められていました。中国の公的医療保険制度は本人が住んでいるのが都市か農村か、そして就業の有無によって分類されており、保険を申請しても、申請する人が多く、制限もあるためになかなか入れないそうです。ホスピス見学で私が最も注目したのは、問診時間が1人の患者さんだけで1時間以上ととても長いことです。訪問診療では電子カルテも十分な医療機器もないため、問診が今後の治療を決定するのにとても大事だそうです。医師は患者さんとその家族の目を見て話し、患者さんが安心されるまで相談に乗っていました。先生は時おり私たちに、今行っている治療や今後の医療方針を英語で伝えてくださいました。

貧しい村で一人暮らしをしており、病気のため家から出られない患者さんの訪問診療では、薬の補充のほかに油と米を配給していました。先生方はとてもやさしく患者さんに話しかけ、処方した薬をきちんと飲んでいるかを確かめていました。患者さんは、私たち学生が診察を見学することを勉強のためにと快く協力してくれました。

汕頭大学医学棟の見学でははじめに人体解剖学館に行きました。実際の人の臓器や筋肉、血管を剖出した模型があり、それらを使って学生は勉強すると聞きました。最上階には臨床技能センターがあり、受付を始め診察室、病室、手術室、ICU、分娩室などがあり、実際にOSCEでも使用するそうです。ICUでは患者の模型を使って心電図や瞳孔収縮をみたり、脈を測ったりしました。別の部屋では聴診器を当てると正常の心音や不整脈を聞くことのできる模型があり、聴診器を使って診察の体験をしました。実際の医療現場にできる限り近い環境で勉強できる設備が完備されていて、日本の大学でもこのように学べたらよいと思いました。診察室で学生が患者役、医師役をしてOSCEの対策をしていたり、ディスカッションルームで学生達が集まってディスカッションをしていたりと現地の学生の意識の高さを感じました。大学だけでなく、見学した汕頭大学の口腔外科センターにもシミュレーション室があり、眼科センターでは豚の眼球を使って手術の練習をし、技術を磨いていました。

また、汕頭大学病院には内科とは別に漢方内科があり、中国で漢方医学が進んでいるということを改めて感じました。薬局では受付のすぐ後ろで漢方薬の調合を行っており、棚には数えきれないほど多くの種類の漢方が並んでいました。ムカデやサソリ、セミの抜け殻なども漢方薬として使われると知り、とても驚きました。ホテル周辺を散策した際にも、ドラッグストアとは別に漢方の量り売りをしている薬局を見かけました。薬の処方の際に漢方薬を希望する人も多く、中国では一般的に漢方薬が浸透しているということを教えて頂きました。

都市部では高層マンションが立ち並ぶ一方、町はずれにある市場では生肉の上をハエが飛びまわっていたり、路上で魚をさばいて売っていました。ビニールの手提げ袋に買った魚をそのまま入れているのにはとても驚きました。貧富の差が激しく、生活の質を上げることは簡単ではありませんが、衛生面が問題だと感じました。

中国の医学を学ぶ環境は日本よりも充実しており、最先端の技術を持つ病院も多いですが、日本のほうが医療供給の面では進んでいると感じました。1週間の留学を通して、知識や技術の習得だけではない医療の奥深さに触れることができました。これからの勉強に繋げていきます。

最後に、留学の機会を与えて下さった先生方、現地でサポートして下さった汕頭大学の先生方に心から感謝します。帰国した今、かけがえのない経験をすることができたと感じています。ありがとうございました。