樋口 勝大さん(第2学年次)

汕頭大学留学で学んだこと

私たちは今回2019年11月9日から16日までの8日間、中国の広東省にある汕頭大学の留学プログラムに参加させていただきました。今回の留学が私にとって初めての海外渡航で不安でしたが、とても楽しみでもありました。応募を申し込んだ時点では留学に対してそれほど興味を持っていませんでしたが、今回の経験で留学に対する私の観点は大きく変わりました。2019年度の留学プログラムは以下のスケジュールでした。

1日目:中国到着、ウエルカムディナー
2日目:貧困地域での医療ボランティア見学
3日目:ホスピス見学(訪問診療への同行)、現地医学生とのディスカッション
4日目:口唇口蓋裂治療センター、汕頭大学NICU、感染症科、アイセンター(JSIEC)、精神科見学
5日目:汕頭大学中心研究所、口腔問診科、腫瘍医院見学、汕頭大学医学院見学
6日目:三饶医院見学、潮州観光
7日目:汕頭市中観光
8日目:帰国

1日目は朝早くから関西国際空港に集合し、出発が少し遅れたものの、広東で乗り継ぎをし、無事、午後4時半頃には汕頭に到着しました。渡航経験がなかったので、飛行機の乗り継ぎや入国検査というものも初めてのことで、変な緊張がありました。汕頭空港からホテルに向かう途中での交通状況を目の当たりにして、日本とのギャップを感じました。車間距離はできるだけつめて、信号は主要交差点以外になく、ヘルメットをかぶってバイクを乗っている人を見つけると感動するくらいでした。人が多すぎるあまり警察官が足りておらず、整備が行き届いていないとのことでした。ホテルでのウエルカムディナーでは、李嘉誠基金の会長の方をはじめ、今回の留学でお世話になる方々との食事をしました。汕頭は地理的に海に近いため海鮮料理が有名らしく、とても美味しくいただきました。日本で食べられる中華・中国料理とは少し違った味で、今までに食べたことのない料理が数多くありました。

2日目は農村地域でのボランティアに参加させていただきました。ボランティア会場での活動としては、身長・体重を計測したり、血圧・脈拍を測定したり、視力検査を行っていたりと様々でした。また、会場に来ることが難しい方の家庭を訪問し、問診や薬の処方まで行うだけでなく、米や調理油といった日用品の提供もしていました。会場では血圧測定を体験させていただきました。医学部に入って初めて患者さんとの交流を中国の留学中に経験するとは思っていませんでした。2年生のうちにボランティアという形で患者さんと触れ合う機会があるというのは、より良い医師になるための経験として大きなアドバンテージであると感じました。兵庫医科大学のカリキュラムでもECEⅡという形で患者さんと触れ合う機会がありますが、患者さんに関わっていこうという積極性の点では汕頭大学の医学生たちには残念ながら劣っていることを実感しました。この積極性を見習ってこれからの患者さんとの交流を大事にしていこうと思いました。貧困地域でのボランティア活動の現状を見て、医療従事者が患者さんに対して常にどのような態度でいなければいけないのかが分かったような気がしました。

3日目は訪問ホスピス看護に同行させていただきました。訪問診療のスタッフと患者さんとの会話は言葉が分からず、詳しい内容は分かりませんでしたが、互いにコミュニケーションを慎重に丁寧にしていることや、患者さん本人だけでなく、患者さんのご家族の方にも誠実に説明をして不安を少しでも和らげようとしていることは伝わりました。実際に、患者さん本人だけでなく、親族の方を含めケアをしているという話も聞くことができました。治療は李嘉誠基金の下で行われるため、患者さんの症状はもちろん、患者さんのご家族がいかにケアに参加できるか、ケアに参加できる余裕があるのかということまで加味されます。というのは、医師は24時間患者さんに付き添うことはできないので、患者さんの周りにいる人の助けは必須であり、ある程度の医学的知識を患者さんに付いてくれる人に教授する必要があるためです。これらのことは日本の緩和ケアについても共通することで、患者さんの親族のケアへの参加は避けられません。ここで重要なのは、緩和ケアへの参加の責任を親族に委ねるのではなく、参加を促す責任が医療従事者にあることを自覚することだと思いました。

4日目はまず口唇口蓋裂治療センターを見学しました。口唇口蓋裂は治療後発音などの機能低下が見られるが、100%治療できるらしく、中国でも日本でも患者さんの発生率は変わらないそうです。NICUでは、実物で初めて極低出生体重児を見ました。こんなに小さくても生まれてくることができる生命の尊さと、生きて生まれてくることができる奇跡を目の当たりにしました。日本で人工中絶手術が認められているのは妊娠22週未満ですが、NICUで見かけた極低出生体重児の中にはその時期に近い子もいて、胎児の生きる権利について考える機宜でした。その後アイセンターを見学しました。私は眼科について興味があるのでここを一番楽しみにしていました。ただ、施設内での説明がすべて英語で、専門的な内容であるためかほとんど何を言っているのか分からず自分の英語力を悔やみました。話の内容は分からないことが多かったことは残念でしたが、豚の眼を使って手術の練習をしている様子を見学したときは心が躍りました。臨床の知識は全くないので、どれだけすごいことをしているのかを理解するに至りませんでしたが、3年生になり、臨床について学んだ際には今回の留学を振り返り、臨床の専門的内容と英語との繋がりを意識した学習を心がけたいと思いました。精神科では、精神疾患の患者さんを隔離している病棟があり、鉄格子で閉じ込められていました。ある程度危険でない患者さんの隔離はそれほど厳しくはなかったが、隔離されている建物に入ると少し怖い雰囲気がありました。精神疾患のケアの方法は様々あり、パソコンを使って記憶試験をしたり、脳波測定による精神状態の検査など多岐にわたっていました。

5日目は、まず研究棟を見学させていただきました。研究棟では遺伝子の解析やPCR法など色々な研究内容を見学しました。設置されていた設備はSHARPのものが多く、本学でも見かけたことがあるものも多かったです。口腔問診科、汕頭大学医学院の施設の設備もとても整っていて、本学の設備と比べてしまい、羨ましく思いました。口腔問診科では、VRの練習用の器具を実際に使わせていただきました。顔と歯だけが人間と近い状態の擬似患者との練習ができる練習用器具がいくつも置いてある部屋があったり、VRの器具はとても精巧で、削る器具の手応えが本物と類似しすぎていて本当に驚きました。その後、少し歩いて、漢方を処方している薬局のようなところに行きました。中国では漢方の分野が医療現場に根付いていて、日本とは違う医療の発展を見ることが出来ました。伝統的な漢方医学が重宝されていることを感じました。その薬局では漢方薬が個装されていて、蝉の抜け殻の漢方薬を堀君がもらっていました。蝉の抜け殻以外にも薬理学の授業で習った附子(トリカブト)、ムカデ、サソリなどがあり、日本ではなかなか見ることができないのでとても心が弾みました。汕頭大学内では、まず医学院の建物内にある人体生命科学館に行きました。そこでは人体の構造や胎内での胎児の成長の過程などを学べる展示物が数多くありました。展示されているすべてが本物のご献体から作られているものであるので、模型とは違い臓器の大きさや筋肉の分厚さなどに個人差があり、教科書や参考書で見るものとも違っていて、人体について深く学ぶ環境があることを羨ましく思いました。その次に医学院施設内を色々と見回りました。臨床練習用の器具をいくつか見た中で、呼吸の様子や脈拍、縮瞳、散瞳、までも再現されている人形があり、技術の進歩にとても驚きました。産婦人科の母親と子供の人形に特に驚きました。汕頭大学のキャンパスは広く、別棟の図書館にも行きました。図書館の前には小人が巨人を見上げるオブジェがあり、遠近法を使った写真を皆で撮りました。図書館の中は広く、自習室や自習スペースの確保がきちんと為されていて、とても羨ましい環境だと思いました。

6日目は潮州の病院(三饶医院)までホテルから約2時間で、途中、高速道路に乗りながら向かいました。そこでは院長先生から話を伺い、中国の地域医療の現状について知ることが出来ました。この病院は地域一帯の白内障の患者さんをゼロにするべく建てられましたが、他の地域からも患者さんが来たりしており、本来の国際的調査に基づいた計画からは大きく外れた現状にあるらしいです。地域病院から潮州観光まで向かう間、地道での運転に肝を冷やしました。これまで車移動していた市街地とは異なり、田舎地域であったので交通整備や道路整備があまりなされていませんでした。対向車線が来ていても抜かそうとする車がいたり、一車線道路にも関わらずまるで二車線道路であるかのように、追い抜かすために何台も連続で対向車線を使っている様子は怖かったです。対して高速道路では対向車線が中央分離帯で区切られており、対向車との正面衝突などあり得ないので、地道より高速道路の方が安全なように感じました。潮州観光に向かう道中で少し川沿いを歩き、露店が長く連なる伝統的雰囲気のあるエリアのなかでショッピングをしました。汕頭では刺繍が有名らしく、質の高い伝統的な刺繍技術を見て感動しました。

7日目は汕頭の市街地観光をしました。ホテルの近くにあった博物館で汕頭地域の歴史などを学びました。午後に行ったショッピングセンターでは、日本とあまり変わらないスーパーの様子や、よく見ると偽物と分かる洗練された商品を見て観光気分を味わうことが出来ました。最終日の夜は餃子パーティーをするのが恒例らしく、今までお世話になった方々と中国の医学生の方と一緒に餃子を作り、みんなで作った餃子を食べました。焼餃子と違って皮の包みが甘いと中身が出てしまうらしく、包み方のコツを教えていただきました。今まで一緒に過ごしてきた皆との作業は楽しく、食べるために作っているということを忘れてしまうほどに夢中になっていて交流の楽しさを実感しました。

この1週間は私にとって一生忘れることのない充実感と、これからの勉学に向けてより前向きな姿勢になることの決意を感じました。留学の機会を与えてくださった李嘉誠さんや、暖かみのある優しさを与えてくれた中国で会った多くの方々や、たくさんの手続きをしてくださり同行してくださった国際交流センターの鳥井さんなど、数えきれないほどの支えに感謝しながら邁進していきたいと思います。