五十嵐 深月さん(第2学年次)

中国・汕頭大学留学を終えて

2019年11月9日から16日の8日間、中国の汕頭大学に留学させていただきました。現地の病院や訪問診療などを見学するという大変貴重な体験ができました。

1日目は、ほぼ飛行機での移動でした。関空の飛行場でドローンらしきものが飛行していたらしく、出発は若干遅れましたが、無事ウェルカムパーティーに間に合いました。出国してから耳に入ってくるのは英語か中国語がほとんどだったので、汕頭の空港で程先生夫妻に日本語で話しかけていただいた時はとてもほっとしました。空港からホテルに移動するバスの中で、今中国で泥棒が減っているのは、キャッシュレスが進んで家にあまり現金を置かないからだと程先生に聞きました。この1週間でよく見られたのが、スマホ決済とQRコードでした。現地の人は現金やカードではなくスマートフォン1つで支払いを済ませることが多く、財布を持ち歩かなくて良いのは便利だと思いました。また、お菓子の箱や看板などいたるところにQRコードがついていました。ウェルカムパーティーの前に李嘉誠基金と汕頭大学について説明を受けました。汕頭に滞在中にいただいた料理は日本のものとは異なる味付けでしたが、どれもとっても美味しかったです。

2日目は、無料健診と貧しい家庭の訪問診療を見学しました。地域の中学校の体育館で、無料で血圧や血糖値、視力などを測定したり、医師に相談したりできるスペースを設けていました。たくさんの学生ボランティアが活動に参加していました。また、汕頭大学医学院の高学年の学生が英語で丁寧に健診の説明をしてくれました。中国の方言は違いが大きく、学生ボランティアが患者さんの話を聞き取るのが難しいこともあるようです。

貧困家庭の訪問診療では、足が悪い、お金がないなどの理由で病院に来ることができない人の家に訪問して診察をし、必要があれば病気の治療や薬の処方を行っていました。また、訪問時に油5ℓとお米10kgを渡していました。のちに油5ℓが数万円で販売されているのを見ました。お昼にお弁当のチャーハンとスープをいただいた後、午後はテーマパークに行きました。中国では満腹を表すために少しだけ残すのが良い、と聞いたことがあったのですが、実際に質問してみたところ、昔はそういう風習もあったけれど、今は残さない方が良いと教わりました。

3日目の午前中はホスピスの在宅ケアに同行しました。末期がんの患者さんのところに医師や看護師が訪問し、診察や痛み止めの処方、薬の副作用である便秘に対する食事指導を行っていました。病院が患者さんにホスピスの在宅ケアを紹介するとき、病院側の負担はゼロだそうです。私が見学した患者さんは末期の肺がんで、家族や親せきにも病気を抱える方が多く経済的に厳しい状況にあるようでした。単に診察して薬を処方するだけでなく、患者さんやその家族の話を時間をかけて丁寧に聞いている様子が印象的でした。午後はホスピスセンターで説明を受けました。現在汕頭のホスピスセンターでは約120名の患者さんを担当していて、50代以上の比較的高齢の方が7割を占めるそうです。患者さん自身のケアはもちろんですが、患者さんを世話する家族の心理的なケアもこのプログラムに含まれています。介護できる人が家族や親戚にいない場合は、代理の世話人を紹介することもあるそうですが、今の中国では文化的に兄弟が多いため、基本は家族や親せきが介護するようです。

4日目の午前は口唇口蓋裂治療センターとアイセンター、感染症病棟、精神病院、睡眠センターなどを見学しました。

口唇口蓋裂は中国では1000人に1.62人が発症する病気ですが、必ず治療できます。しかし、口唇口蓋裂の赤ちゃんが生まれると自分の祖先が何か悪事を働いたからではないかと考えて子供を隠したり、寺に捨ててしまったりするケースもあるそうです。口唇口蓋裂の治療には段階的な手術とスピーチトレーニングが必要で、李嘉誠基金はその治療費を負担しているそうです。 アイセンターでは網膜の画像から39の病気の診断ができるAIや網膜の研究の説明をうけました。網膜の研究では網膜の機能が失われる過程を研究しており、治療につなげることを目的にしているそうです。研究者の方が流暢な英語で情熱的に説明してくださったのが印象に残っています。豚の目やVRを使って白内障の手術の練習をしている様子も見せていただきました。精神病院では隔離病棟や娯楽室などを見学しました。

5日目は歯科口腔外科と汕頭大学の見学をしました。歯科口腔外科では、3Dプリンターを使って義歯を作っていました。また、ここでもVRによるシミュレーションを導入していました。VRで模型を削ると振動が手に伝わってきて、まるで実際に削っているように感じられました。

汕頭大学には、御献体が展示されている人体生命科学館や美しい図書館、問診や入院、救急、出産のシミュレーションルームがありました。人体生命科学館では人体の構造が様々なパターンで展示されていて、とても分かりやすかったです。

6日目は地方の眼科の病院を見学した後、潮州を観光しました。 見学した病院では白内障の手術を主に行っていました。他の地域からも手術を受けに来るなど白内障の手術件数が多いため、治療のレベルは高いと聞きました。 100万人くらいの町なので、うち1万人ほどが白内障だと予想されていましたが、実際に受診するのは3000人ほどだそうです。この理由として白内障の症状を老化のせいにするなど健康への関心が低いことが考えられるようです。

午後に観光した潮州は長い歴史を持つ都市で、お店には茶器やお茶、刺繍などが売られていました。刘先生に「中国の人は熱いお茶を1日に何回も飲むので食道がんが多い」と聞きました。確かに汕頭では食事の時に冷たいお茶が出てきたことがないなと思いました。

7日目は市中観光のあと、夜は皆で生地から餃子を手作りしました。食堂の方がものすごい速さで片手で餃子を握っていて驚きました。手作りの水餃子は生地がもちもちでとてもおいしかったです。

お忙しい中、見学に同行してくださった程先生、楊先生、刘先生や引率してくださった国際交流センターの鳥井さんをはじめ、留学に関わってくださったすべての皆様に心から感謝いたします。