クロアチア・リエカ大学での研究留学を終えて

 私はクロアチアのリエカ大学医学部にて約3週間、研究留学を行いました。はじめに、研究留学の参加にあたり支えてくださった方々、またこのような素晴らしい機会を与えてくださったすべての方々に心より感謝申し上げます。本学で初となる“研究留学”、ワクワクと期待があった反面、緊張の気持ちでいっぱいでした。しかしそのような気持ちを上回るかのようにリエカ大学での研究留学は、私の人生において非常に実りのある経験となりました。

 私は、免疫学・生理学・病態生理学の3部門が統合している研究室に所属させていただきました。 Lučin教授率いる研究室では主に「サイトメガロウイルス」に関する研究が行われています。このウイルスは未感染の妊婦が感染すると胎児に感染が及んで巨細胞封入体症、また日和見感染でウイルスが再活性化すると網膜炎、間質性肺炎、腸炎などを発症します。サイトメガロウイルスは2本鎖DNA、正二十面体のカプシド、エンベロープなどの構造を持っており、感染すると感染細胞内の膜系を作り変え、ウイルスが細胞外に出るための経路を確保し、さらにエンドソームなどの働きをうまく利用しウイルス粒子を組み立てて排出します。現在は、サイトメガロウイルスがどのように感染細胞内の膜構造を再編成しているのか、またウイルスの排出経路の詳細を明らかにすることに焦点をあて、治療標的になる構造やプロセスを見つけることを最終目標として研究が行われています。私はこの研究の中で実施されている一般的な実験を拝見・経験させていただきました。

 最初の1週間はSDS-PAGEやウェスタンブロッティング、免疫蛍光染色、細胞数計算、細胞培養、3D Cell Explorerを用いた細胞内のウイルス蛋白の経時的な観察、ウイルスのコロニー数を数える実験をしました。特に印象に残っているのは細胞培養です。前から挑戦してみたかった実験の1つであり、先生に「やってみる?」と聞かれたときは大変嬉しく、やる気に満ち溢れていました。しかし実際にやってみると容易にはいかない実験でした。というのもクリーンベンチ内で電動ピペッターやシャーレなどあらゆる道具を使用して、NIH3T3という種類のマウスの線維芽細胞を培養するのですが、その際に細胞が常在菌などに感染してしまう可能性が潜んでいたからです。初めて培養を行った私は不慣れで、いくら注意をしてもシャーレやピペットの触れてはならない部分に触れてしまい、幾度かやり直しをすることになってしまいました。思うようにいかず苦戦している私に対して、先生は嫌な顔をせず「最初は失敗するものだから気にしないで!」と励ましてくださいました。先生が優しく丁寧に教えてくださったおかげで、顕微鏡で線維芽細胞がシャーレの中で上手く培養できている様子を観察できた時は、感染せずに培養できて良かったという安心感と自分の手で培養できた嬉しさや達成感がありました。他にも本学の生化学実習では経験したことがなかったSDS-PAGEで使用するゲル板の作成や、授業でしか見たことのなかった血球計算盤を実際に用いて細胞数を数えた実験は大変興味深いものでした。

 次の1週間は、感染細胞内に存在するウイルス蛋白やカプシドの免疫蛍光染色を行い、蛍光顕微鏡と共焦点顕微鏡で観察をしました。共焦点顕微鏡はより詳しく観察したい細胞や構造をズームしてみることができ、高分解能でコントラストの高い画像を取得できます。そのため今回の実験の目的であるウイルス蛋白がサイトプラズマや核のどの位置に存在しているのか、あるいはそれらに存在していないかを鮮明に調べることができました。実験中、ウイルス蛋白がサイトプラズマや核に存在しないのはなぜか先生と話し合いをし、また考察をしたことは非常に有益な時間でした。他にもSDS-PAGEとウェスタンブロッティングを最初から最後まで自分自身で行いました。ウイルスの増殖や成熟を阻止する阻害剤を用いたサンプルと用いないサンプルで実験をし、阻害剤を用いるとウイルス蛋白のマーカーが薄くなるという私の推測通りに結果が出たことや、先生からうまく実験できているねと褒めてくださったことは大変嬉しかったです。

 最終週は研究以外に、3年生の講義に参加する機会を頂けました。授業の内容は免疫学の抗原や抗体、免疫応答、抗原抗体反応を用いた検査についてでした。授業形式は全授業スライドの内、1~2枚を生徒1人ずつが担当して各自15分で要約し発表するというスタイルで、日本ではこのような授業形態ではないため最初は戸惑いましたが、生徒自身が自発的に学び発言する、また先生が問いかけるとすぐに回答をする私と同学年である医学生の積極的な姿勢には非常に刺激をもらいました。

 平日の夕方からはフリータイムのためリエカの町やオパティヤ、バカールとなどの近隣の町で観光を楽しみました。また週末にはザグレブやドゥブロヴニク、プリトヴィッツェ国立公園、ロビニなどの有名な観光都市を訪れ、クロアチアの自然や文化に触れたり伝統的な料理も堪能したりしました。さらに、今年度本学にやってくる留学生や様々な国から来たリエカ大学の医学生と国際交流もでき、非常に有意義な時間を過ごすことができました。

 この3週間を通して、留学前は日本とクロアチアでは異なるのではと考えていた、目的や仮説を立て、実験を行い、結果から考察し、次の実験を考えるということは、研究環境や使用する道具は異なっていてもやはり同じであることに気づきました。また、クロアチアの医学生を見ていて、私はこう考える、こういうことがやりたいと自分の意見を伝える積極性が大切だと学びました。そして彼らと話している中で、今よりももっと自分の意見を英語で伝えられるようになりたいと感じました。そのため、英語力をより一層向上していきたいと思います。

 最後に改めて、留学するにあたりご支援いただいた本学の先生方、伊藤さん、リエカ大学医学部のLučin教授をはじめとする研究室の先生方、Paolaさん、3週間一緒に過ごしてくれた三井くん、そして関わってくださったすべての方々に感謝致します。今後もこの留学で経験したことを活かし、何事にもチャレンジ精神をもって積極的に取り組んでいきたいです。