山本 まるみさん(第5学年次)

リエカ留学を通して

リエカで過ごした1ヶ月間は、私にとってかけがえのない経験となりました。

今回、私達は9月16日から10月15日までクロアチア共和国のリエカ大学に留学させて頂きました。5年生で参加可能な留学プログラムがあると知って以来、リエカに行くことは私の目標のひとつとなっていました。念願の合格通知を受け取り、私の心は期待と不安で溢れていました。日本からの直行便はなく、羽田とパリで乗り継ぎし、首都のザグレブからお迎えの車で約2時間走った後、リエカに到着しました。寮は昨年に新しく建てられたようで、清潔感があり、モダンな建物でした。

実習の前日に交換留学の学生が色々な手続きや実習場所の案内をしてくれました。リエカ大学の国際交流センターのMs. Valentinaはとても優しく、滞在期間中、私達の様々なサポートをして下さりました。そして、私はFamily Medicineを選択していたので、病院ではなく、街中の小さな診療所のような場所に案内されました。中に入ると、ピンクの壁紙と暖色の照明の優しい空間が広がっていました。ドキドキする胸の鼓動を感じ、私は緊張していることに気づきました。学生達が指導医であるDr. Leonardo、レジデントの Dr. Martina、看護師のMs. Ruzicaを紹介してくれました。私は彼らに会った瞬間に、何かに締め付けられていたような身体が自由になったことが分かりました。彼らはとても素敵な笑顔で迎えてくれて、私はずっと前から知っているような感覚になりました。

実習1日目。実習スケジュールは、月・水・金曜日は朝7時半から14時まで。火・木曜日は13時から19時まででした。その日は火曜日だったので、お昼ご飯を早めに済まし、実習に向かいました。診療所は寮から歩いて約20分の所に位置しています。高層ビルはなく、広い空に見守られながらの通学時間は日々の小さな悩みなどから解放される時間となりました。診療所では前日に出会った先生方に加えて、レジデントのDr. Leaに出会いました。彼女は非常勤で、週に2-3回出勤しているそうです。 毎日の実習は基本的に外来・処置見学で、朝から開いている曜日は採血がありました。

さて、初めての外来見学です。Dr. Martinaが主に診察し、私の横にDr. Leaが座り、すべての会話や患者さんの説明を英語でして下さいました。頭痛や咽頭痛といった症状を主訴に訪れる人、会社や学校に病気で休んでいたことを証明する診断書をもらいに来る人、高血圧やワーファリンの定期受診、病院で癌の治療をし、その後の経過観察に来る人など、様々でした。私はクロアチアの医療制度について先生に質問したところ、患者さんはまず、かかりつけのFamily Medicineを受診し、紹介状を持って病院に行くシステムとのことでした。日本では基本的には自由に病院や診療所を受診すると伝えると、大変驚いていらっしゃいました。

数日、実習を行っていくうちにレジデントのDr. Koraljkaや看護師のMs. Zdenkaにも出会いました。また、処置見学は初めのうちは本当に見ているだけだったのですが、抜糸や注射を実際にさせていただく機会を頂きました。採血でさえ、患者さんに行ったことがないのに、ましてや、針を刺すことに加えて、薬剤を注入することが私にできるのだろうかと不安になりました。クロアチアでは予防接種以外のすべての注射を臀部に打っていました。Ms. Ruzicaは臀部を4分割した外側上部に刺すこと、そして、針を刺すときは躊躇してはいけないことを教えて下さいました。左手で皮膚を固定し、右手は鉛筆を持つ様に注射器を握り、ダーツをする様に針を刺しました。持ち替えて、薬剤を注入し、無事に終了しました。処置の間、私は息が止まっていた様で、終わった瞬間に肺の中の空気を緊張と共にゆっくり吐き出しました。他にも採血、耳の洗浄等、様々なものを経験しました。そして、先生や看護師さんは初めての私にも理解できるようにいつもゆっくり、丁寧にやり方を教えて下さいました。

英語を話すことができる患者さんには症状について問診をすることもありました。しかし、90%はそうではない方なので、私はどのようにコミュニケーションをとるべきなのか悩みました。私は日々の自分の行動からアイデアが浮かびました。挨拶と笑顔かもしれない、と。実習初日からクロアチア語での挨拶や自己紹介を少しずつ覚えていきました。しかし、実際に使うのは照れくさくて、英語で会話をしていました。まずはその部分を変えていけばいいのではないかと考えました。そして、患者さんが診察室に入ってきた時は“Hello”ではなく、“Dobar dan”と言ってみました。患者さんは笑顔で“Dobar dan”と返して下さいました。私はクロアチア語で意思疎通できたことがとても嬉しくて、その日以来、様々な挨拶をクロアチア語で伝えました。そして余裕が出でくると、私の表情は自然と笑顔になっていました。私はこの土地に来てから何度も笑顔で助けられました。実習の初日も、街で道に迷い途方にくれた時も、リエカの人々の笑顔は温かく、心を穏やかにする力を持っているように感じました。私は実習だけでなく、街中でも笑顔で挨拶することを欠かさないようにしました。最終日には、まるでここはホームタウンなのではないかと思うまでになっている私がいました。

今回の留学を通じて、臨床実習はもちろんのこと、人との関わりについて深く考えることができました。医師になるにあたって、最も大切な事はコミュニケーションだとよく言われます。その中でも、きちんと挨拶すること、優しい気持ちで、笑顔で人として接することは基本であると改めて実感しました。

最後になりましたが、いつも優しく、まるで家族のように接して下さった Dr. Leonardo、Dr. Martina、Dr. Lea、Dr. Koraljka、Ms. Ruzica、Ms. Zdenka、そして、留学前より支えてくださった辻村教授、古瀬先生、鳥井さんに心からの感謝を申し上げます。リエカ留学で経験したことを生かし、これからも勉学に励み、毎日を大切に過ごしていきたいと思います。