川本 聡さん(第5学年次)

リエカ留学を終えて

私は1か月間クロアチアのリエカ大学にて実習を行ってきました。そのことについて報告させていただきます。リエカ大学はその名の通りリエカというクロアチアの第三の都市の中にありますが、大学の規模としてはクロアチアでは二番目の大学(一番は首都ザグレブにあるザグレブ大学)です。リエカはクロアチアのイストリア半島の内部にあります。イストリア半島も見どころがたくさんあり非常に面白い場所でした。私は2週間を小児科、さらに2週間を整形外科にて実習を行わせていただきました。

初めの2週間は小児科で実習を行いました。小児科は市中にある大きな大学病院とは別にリエカ市街地からバスで20分程度の港町Kantridaという小さな町にあります。担当していただいたのはDr.Bonac教授で小児科の中でも主に肺疾患を扱っておられる先生です。小児科実習では小児呼吸器、循環器外来の見学や、小児ICU施設の見学、病棟回診などを共にさせていただきました。さまざま経験させていただいた中でも特に嚢胞性繊維症の患者を診ることができたことが心に残っています。嚢胞性繊維症は日本人には人種的には少ない疾患ですが(2018年5月現在全国に50人)、ヨーロッパ人には出生3000人に1人と日本に比して頻度の高い疾患です。全身の塩化物イオンの輸送能力が先天的に弱いために小児のころから感染を繰り返す非常に治療の難しい病気であるということでした。この疾患の患者さんを実際に見ることができたとともに、この疾患の診断をするために汗中の塩化物イオン濃度を測定する検査を行っていました。日本では見学することがおそらくないであろう非常に珍しい検査を見学させていただきました。また、小児循環器の外来では、Dr.Alexから実際に大動脈弁狭窄症や動脈管開存症患者の心音を聞かせていただいたり、心ドップラーエコーの所見を英語で説明をしていただきました。非常に実臨床に沿った医療を英語で体感したりすることができて、素晴らしい経験となりました。カンファレンスでは小児の治療に難渋している好酸球性肺炎について疾患の背景から最適な治療は何か、ということを現地のドクターたちと一緒に考察したこともとても良い経験となりました。好酸球が上昇しているときにクロアチアでは寄生虫感染を積極的に疑っていく必要があるということもおっしゃっていて、その点においても日本との違いを実感しました。

後半の2週間は、リエカ大学の整形外科にて実習を行わせていただきました。整形外科はリエカ中心地からバスで40分ほど走った場所にあるLovranという街の中にあります。Lovranは観光都市として有名なOpatiaという街を経由して向かうので、バスからの車窓もとても美しく、毎朝楽しみながら病院に向かっていました。Lovranにある整形外科は、もともとホテルを改装して作ったということもあって、見た目はまるで病院とは思えないような高級なつくりでした。ここで私を担当してくれたのはDr.Borjanです。整形外科は私たちの大学から学生の実習で何度か参加させていただいているので、初めて会った時も毎年来ているから、もしクロアチアでの生活で何かあったときはいつでも連絡してね、とおっしゃってくださいました。Dr.Borjanは実習後には私たちを自宅でのバーベキューに招待してくださったり、バスケットボールに誘ってくださったり、非常にフレンドリーに私たちに接してくださいました。整形外科では毎朝のカンファレンスに始まり、そこから手術を見学したり、外来を見学させていただいたりしました。クロアチアは食生活の影響のもあり、肥満の人が多いため、変形性膝関節症が多いとおっしゃっていました。日本の先生の膝関節に関する学会での発表は毎回面白くて感動させられ、日本の関節疾患に関する医療のレベルはとても高いとおっしゃっていました。

手術見学では変形性股関節症に対する股関節置換術や前十字靭帯損傷に対する手術を見学させていただきました。また、少しではありましたが、患者さんのベッド移動を手伝ったり手洗いを先生と一緒に行ったり、現地の医療に参加させていただきました。クロアチアでの手術も日本と同じように清潔に厳しく徹底されていました。手術センターには休憩室が併設されていて、手術の間に先生方や看護師さんが休憩に来られ、食べ物や飲み物をいただきながら談話できたこともいい思い出です。クロアチアの方々は国民性として非常に話すことが好きです。空き時間があれば政治、医療の話題からプライベートな話題まであらゆる話をして笑いあっているという印象が強かったです。そのため、よそ者である私たちにも何度も話を振っていただき、輪に入りやすかったです。この談話室でも同じように先生方との会話に何度も入らせていただきました。その中で印象的だったこととして、クロアチアでの医師の働き方の話があります。クロアチアは数年前EUに加盟し、EU国内では同盟国で得た医師免許は効力を持つので力を持った若い先生方はより良い職場、教育環境を求めてドイツやオランダなどに向かう一方でアルバニアやルーマニアなど異なる文化の国からの医師がクロアチアには数多く流入してくるとおっしゃっていました。この制度はより能力の向上を目指す先生にとってはよいことであると同時に、ルーツの異なる医師が文化の異なる環境に育った患者を理解しなければならない難しい点もあると語っていたのが印象的です。私を担当してくださったDr.Borjanもマケドニアをルーツにもち、リエカで医師として働かれている先生で、バーベキューではマケドニアの料理であるIvarをいただきました。クロアチア国内でもお土産としてIvarは販売されてはいるのですが、先生の家でいただいたIvarは本当に絶品でした。

実習以外においても非常に充実した時間をクロアチアで過ごすことができました。何より驚いたことは、クロアチアではほとんどの方が本当に流ちょうに英語を話すことができます。私たちももっと英語を話せるようになる必要があると実感しました。観光の面においては、クロアチア屈指の観光スポットであるドゥブロブニクやプリトヴィチェ、またイストリア半島の町であるポルチェやロヴィニュなど各都市にそこを支配していた国の歴史を感じさせる街並みとなっており、クロアチアの文化も存分に満喫することができました。また、クロアチアはコーヒー文化が盛んで、少しでも空いた時間があれば、診療科を問わず実習先の先生方がコーヒーを飲みに行こうと誘ってくださいます。これはクロアチアのひとつの文化であるらしく、どの町に行ってもコーヒー店が数多くあり、また病院の中にも喫茶店があったりコーヒーの自動販売機もあったりして面白いなと思いました。どの店で出されるものもすべてエスプレッソですが、これはイタリア文化を引き受けているとのことでした。

最後になりますが、まだまだ書ききれなかったくらい本当にたくさんの素晴らしい経験を1か月間で得ることができました。この経験はこれから医師として、医学生として過ごしていくうえでかけがえのないものになりました。リエカ大学で私を受け入れてくださった先生方や事務の方、交換留学生のIgor,Alex,Barbaraをはじめ、兵庫医科大学の国際交流センターの方などこの留学にかかわってくださった皆様に感謝しています。本当にありがとうございました。