阿竹 優紗さん(第5学年次)

クロアチアリエカ大学での研修を終えて

今回私はクロアチアのリエカという都市にある、リエカ大学にて9月24日から10月19日までの1か月間、留学させていただきました。実習先は産婦人科にさせていただきました。産婦人科にした理由は、自分自身が将来の臨床科として考えていることがひとつ、そして言語の壁が比較的小さい科ではないか考えたからです。産婦人科は、リエカ大学のほとんどの内科と共に、寮から徒歩15分くらいのところにありました。産婦人科のスケジュールとしては、毎朝8時に産科と婦人科の合同のカンファレンスが20分間ほどあり、その後産科の先生方だけで分娩室のフロアにある小部屋にて再び30分間ほどカンファレンスを行います。カンファレンス後は、分娩が近い患者さんの人数によってその日の動きが大きく異なってきます。カンファレンス中に分娩が始まる患者さんがいて、バタバタとする日もあれば、カンファレンスを一通り終えた後、1時間ほどティータイムに移ることもありました。分娩台は、兵庫医大よりもかなり多く、6室ほどありました。その廊下で先生方や看護師、助産師が患者さんの様子を伺っているような体制でした。リエカ大学病院の産科では、緊急帝王切開になる症例が予想以上に多く、それがとても意外でした。そのためか、分娩室とオペ室は同じ建物の同じフロアにあり、患者さんは分娩台のままオペ室へ迅速に移動でき、医師も廊下を通りぬけるだけでオペ室に行くことができる、非常に合理的でコンパクトな造りとなっていました。帝王切開は何度も見学させていただくことができましたが、中でも最も印象的だったのは、166kgほどもある妊婦さんの帝王切開でした。この患者さんは緊急ではなく、予定帝王切開であり、朝のカンファの際に先生が「今日は日本では見ることのできない手術があるから見においで」とおっしゃってくださり、見学させていただくことができました。体位変換にも人手が必要であるため、手術室には沢山の人がおり、今までの帝王切開とは入室時から雰囲気が異なる、確かに日本では一生見ることができないであろう手術でした。手術室の広さは日本と同じくらいですが、兵庫医大では使わないであろう機器類は手術室の外の管理室においてある一方、リエカ大学では手術室内においてあるため、日本と比べて少し窮屈に感じました。手術後は手術室の隣にある休憩ルームでレジデントがカルテを書き、先生方はしばしリラックスします。休憩ルームにはミニキッチン、食器や冷蔵庫があり、食べたり飲んだりしながら先生同士談笑して疲れを癒しているのがとても魅力的だと思いました。

日本の実習は先生が作ったスケジュールに則って動くことが一般的ですが、リエカ大学では先生が「今日は何がしたい?」と私の希望を尋ねてくださり、それに則って私のその日のスケジュールが決まっていました。ある時などは、婦人科の手術も見たいと言うと婦人科の内視鏡手術でカメラを持つ助手の経験までさせてくださいました。しかし一方で、希望や疑問を伝えなければ何もすることがなく、受動的な日本での実習と比べると積極性が何よりも大事であるという点が異なると感じました。先生によっては希望を尋ねてくることもないので、そういう時は自分から「今日は何ができますか?」と尋ねていくことが必須でした。すると先生は明るく「今日は分娩室に2人いて、帝王切開は1件あるよ。分娩と帝王切開以外に何かしたいことがあったら言ってね。」といった具合に教えてくださいます。

病院の雰囲気も日本とはかなり異なります。回診に一緒に回る時に驚くことは病室にカーテンによる仕切りがないことです。一部屋に大体3人の患者さんが居ましたが、一人一人の患者さんの間に仕切りはなく、病院食も病室の中に置かれている1つのテーブルで3人一緒に食べていました。産後の患者さんも出産前の患者さんも皆同じ病室ですので、赤ちゃんが泣くと夜は皆眠れないのではないか?と疑問に思いました。先生曰く、皆あまり気にされていないそうです。職員の雰囲気も日本とは違います。産科では分娩室のフロアに小キッチンがあり、お昼は毎日助産師の方が小部屋にテーブルクロスを敷き、パンを切って食事を並べ、手の空いた職員から皆で食べるスタイルで、とても和気あいあいとしていました。クロアチア人の国民性なのか、皆明るくフレンドリーで、教授とレジデントのように上下関係がきっちりとあっても距離はとても近く、うらやましいと思いました。仲がいいからといえ、働くときはきっちりと、楽しい時間はおもいっきり楽しむメリハリを感じました。

クロアチアでの1ヶ月間、実習ばかりではありません。時間を見つけてはいろいろなところに行き、現地の友人と遊び、クロアチアひいてはヨーロッパ文化に触れることができました。まずリエカの町ですが、リエカはアドリア海に接する港町で、中心街も目の前は海、そして中心街には川が流れており、リエカ〈Rijeka〉という町の名前は川という意味だそうです。オープンテラスのカフェ・バーやレストランがあり、海を見ながら飲むコーヒーやワインは格別でした。クロアチア人はコーヒーを愛しているそうで、美味しいコーヒーの置いてあるカフェが多く、皆コーヒーを飲みながら談笑しています。天気が良く、分娩室が空の日などは先生が「外に行ってクロアチアを堪能してきなさい。」とおっしゃり、そういった日はバスでイストリア半島に出かけました。イストリア半島はリエカからバスでおよそ1~2時間のところにあります。イストリア半島はトリュフとオリーブオイルの名産地であり、また、イタリアの食文化の影響を強く受けていて、魚介とトリュフを使った美味しいイタリア料理が楽しむことのできるところです。週末は遠出も可能です。私は週末を利用してクロアチアからスロベニア、イタリア、ボスニアヘルツェゴビナなど他の国にも小旅行しました。

クロアチアで友人との交流もかなり深めることができました。交換留学で兵庫医大に来ていた学生と、その友人たちと食事をすることもありましたし、私は整形外科を回っていないのですが、今回一緒に留学に行った川本君が整形外科で2週間実習しており、私も整形外科の先生に誘っていただいて、先生のお宅でバーベキューをすることもありました。クロアチアの方は英語が堪能で私の拙い英語は恥ずかしいと一瞬思うこともありましたが、皆優しく聞いてくださり、とても明るいのでそんな恥のようなものは忘れてたくさん話すことができました。しかし一方で、やはり幼稚園から英語の教育をしっかりと受けているクロアチア人はとても流暢に話せることがとてもうらやましく、もっと英語の勉強を頑張りたいと奮起する大変良いきっかけとなりました。

この1ヶ月間で得たものは大変多きな財産です。海外の病院のリアルな様子をみることができたのことも得難い経験でしたが、何より私自身積極性を得ることができました。わからないことはわからないと言って教えてもらったほうが確実に楽しんで勉強できますし、やりたいことはやりたい、できないことはできない、でも挑戦できるなら挑戦してみる、当たり前に大切なことですが、どうしても言い出せないことばかりだった私を変えることができました。前向きな考え方がどれほど自分自身を向上させてくれるかを知りました。この前向きな気持ちを忘れずにこれからも頑張ります。そしてまたクロアチアを訪れたいです。

最後に今回このような素晴らしい機会を下さった、兵庫医大の先生方、国際交流センターの方、リエカ大学の方、現地で面倒を見てくださった友人、関わってくださったすべての方に感謝がつきません。本当にありがとうございました。