浅野 祐矢さん(第5学年次)

異国の地での1ヶ月間

今回、クロアチアのリエカ大学の留学プログラムへ応募し、ありがたいことに留学させて頂ける貴重な機会を得ることが出来ました。しかし、応募した時は、クロアチアの事は正直何も知らない状態でした。なので、まずはクロアチアの観光のための雑誌を購入する所から今回の留学は始まりました。そして、クロアチアの場所、気候、観光地などの情報を知りました。今まで、海外で長期間過ごしたのは高校2年生の時のオーストラリアでのホームステイの機会しか無かったので、楽しみであると同時に、現地で1ヶ月過ごし、さらには臨床実習まで行うことに多少の不安も感じていました。

現地での臨床実習は、リエカの中心地から近いKBCrijekaという病院で行われました。その病院には全ての診療科が揃っているわけではなく、整形外科や小児科といったような、そこに無い診療科はバスで行ける範囲の他の病院にあるといった感じでした。私は今回、糖尿病・内分泌代謝内科と血液内科でそれぞれ2週間ずつ実習させて頂きました。

始めの2週間は糖尿病・内分泌代謝内科で実習させて頂きましたが、主に病棟の回診、現地の患者さんの血圧測定、インスリン製剤の勉強などをさせて頂きました。また、一番良い経験になったのが、実習初日に教授から頂いた、がん患者のステロイドの副作用による糖尿病の治療法についての英語の論文2つを1週間でスライドにまとめるといったことです。当然、発表のスライドも英語で作らなければいけないので大変でした。発表する時も教授とレジデントの方の前だったので、とても緊張しました。

次の2週間は血液内科で実習させて頂きました。血液内科では、無菌室を含めた病棟回診や、外来見学、腹部診察の実習、骨髄穿刺などの処置の見学をさせて頂きました。白血病に対しての化学療法などの専門的な内容についても当然英語で話されているので、そもそも話を理解するのが難しく、さらには意見を言わなければいけないので大変でした。レジデントの方もとても親切で、血液内科とは関係の無い救急の処置室が見たいと言えばわざわざ見せて頂けました。

今回、このように1ヶ月間クロアチアの文化や医療を目の当たりにしてきましたが、様々な点で良くも悪くも日本との違いを感じました。

まず、すぐに感じたのは、施設の規模の違いでした。普段の兵庫医大の大学病院をイメージしていたのですが、病床数から比べても比較的小規模な病院でした。しかし、備え付けてある医療機器に関しては、今回見学させて頂いた所に関しては、ほとんど日本と変わらない印象を受けました。また、先生方もエビデンスに基づいた治療をされていました。確かに、病院の施設の規模や先進性、清潔さといった点では日本の病院の方が正直優れていると思いましたが、実際に行われている治療に関しては、医療機器や薬剤に多少の差はあったとしても、日本とあまり変わらない印象を受けました。しかし、クロアチアの医師の給料は周りの国と比べると低く、医師免許を取ったとしてもイタリアをはじめとした他の国に働きに行くことが多いことから、クロアチア国内の医師数は足りていないという話を聞きました。現に血液内科の外来を循環器内科の方が担当していらっしゃる状況でした。日本では医師数が過剰になるといった話もある中、クロアチアでは全く真逆のことが起きているということにも驚きました。

また、文化による違いも感じました。一般的な日本の病院であれば、病室のベッドはカーテンで仕切られていますが、現地の病院では全く仕切りが存在せず、プライベートな空間は全く無い状態でした。また、ベッドサイドには治療内容などを記した紙が置いてあり、正直誰でも見ることが可能な状態になっていました。すなわち、先生方の声も大きく、回診などの時にも隣の患者さんの情報が筒抜けで聞こえてくることになります。正直、日本では考えられない状況だと思いました。クロアチアの方々は、みなさんとてもフレンドリーでした。私が患者さんの血圧測定が上手く出来ない時には、聴診器の位置を動かしてくれたり、助けられた時もありました。また、「医学生の実習で来ました。」と言うと、診察なども嫌がらずに実習をさせて頂けました。そのようなクロアチアの方々のフレンドリーさや、海外の方特有のあまり人を気にしない精神というものが、ベッドの間の仕切りが無いことが受け入れられている理由なのではないかと感じました。

また、実習中に教授から何回も「何がしたい?」と聞かれました。実習初日にそれを言われて、驚いたのと同時にそれにすんなりと答えられない自分がいて、何とも言えない気持ちになりました。今までの日本の実習では基本的には、1日のスケジュールが完全に決まった状態で、やることが常に与えられている状態でした。海外では、何かやりたいことがあるから病院に来ていると常に考えられていて、何となく病院に来ている様では意味が無いといった考えが根本にあるのではないかと感じました。その代わり、今回血液内科の実習中に救急を見せて頂けたように、やりたいことをきちんと意思表示すれば可能な限り何でも実習させて頂ける環境でした。海外では、日本人のように相手の気持ちを察するといったことはあまりなく、きちんと自己主張していく必要があり、その重要性を改めて感じる良い機会となりました。また、勉強したい人はどんどん伸びていき、日本より格差の出来る環境ではないかと感じました。同時に日本の実習では全員伸ばそうとしていると改めて感じ、私には日本の実習の方が合っているとも思いました。

このように1ヶ月間、人生で初めて海外で生活、実習しましたが、改めて日本との医療、文化、考え方の違いなどをひしひしと感じることが出来ました。また、英語でしか意思疎通の出来ない状況で生活することは、自分の英語力の向上にもつながったのではないかと思います。さらには、自分の中で考え方や価値観が変わった所もあると思うので、それを今後の人生の中で活かしていきたいと思います。最後になりましたが、今回、留学の機会を与えて下さった兵庫医科大学、リエカ大学の先生方、全ての方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。