国際・国内交流
樋口 祐希さん
この1か月間、クロアチアの病院で実習に参加できたことは、私にとって一生忘れられない大きな挑戦になりました。言葉も文化も異なる環境の中で学ぶことは想像していたよりずっと大変でしたが、それ以上に得られるものが多く自分自身の成長を強く実感した時間となりました。このような貴重な機会を与えてくださったすべての方々に心から感謝しています。
初日は不安と緊張でいっぱいでした。英語でのコミュニケーションにも自信がなく、現地ではクロアチア語が飛び交う中で、最初は周囲の動きを見ているだけで精一杯でした。そんな私に「What do you want?」と声をかけてくれた先生の言葉が印象に残っています。その一言をきっかけに、受け身ではなく意思表示をして自ら学ぼうとする姿勢の大切さに気づかされました。疎外感は自分の中から生まれていたことに気づき、勇気を出して質問したり英語が喋れないスタッフにも笑顔で挨拶することを心がけるようになると、少しずつ先生やスタッフとの距離が縮まりました。「How do you say ‘Hello’ in Japanese?」と聞かれ、毎日「こんにちは、Yuki!」と声をかけてもらえるようになったことは何より嬉しく、英語での会話にも自信が持てるようになりました。
最も印象に残っているのは1週間の婦人科実習での出来事です。初日にDr.Kristoficが「国は違っても、あなたがこれまで学んできたことはここでも同じだから恐れないで」と言ってくれた言葉が胸に残りました。彼女はその言葉どおり、国籍や立場に関係なく接してくださり、手術の意義や手技のコツ、クロアチアの医療についてまで幅広く教えてくださいました。外来見学では内診の機会まで与えていただき、内診をさせていただいた患者さんから「I wish you all the best in your future」という言葉をかけていただいた時は感動して涙が出そうになりました。患者にも学生にも常に誠実に向き合う彼女の姿を見て、医師としてだけでなく人としても尊敬の気持ちを抱きました。
産科実習の1週間では、1日平均2件の経膣分娩と帝王切開を見学する機会がありました。命の誕生は何度見ても胸が熱くなるものであり、父母の表情やスタッフの温かい声かけに毎回心を打たれました。日本での病院実習では分娩に立ち会う機会がなかったため、実際の現場で生命が誕生する瞬間を目の当たりにできたことは、私にとって非常に貴重な経験となりました。
一方、心臓外科での2週間では、毎日2件ほどの手術を見学しました。日本では冠動脈狭窄に対して開胸によるバイパス手術は現在では比較的少なく、血管内治療が主流だと聞いていましたが、クロアチアでは依然として開胸での冠動脈バイパス手術が日常的に行われていました。実際に何度も手術に立ち会い、術式の違いやチーム内の役割分担を間近で観察できたことは、今後の学びに大きな刺激となりました。なかでも最も印象に残っているのは、大動脈弁狭窄症の患者さんに対する緊急手術です。手術室には緊張感が張り詰め、普段は穏やかなスタッフが一瞬で真剣な表情に変わりました。執刀医、麻酔科医、看護師、技師などすべてのメンバーが患者さんを救うという同じ目標に向かって集中し、一切の無駄のない動きで手術を進めていく姿に深く感銘を受けました。その場の空気には言葉を超えた信頼関係と見事なチームワークが感じられ、医療の本質は「人と人との信頼の積み重ね」にあるのだと実感しました。
実習や交流を通して、日本との医療の違いも多く感じました。日本では、医師と患者の関係は一定の距離を保った、礼儀を重んじるものが多く患者の中には医師に話しづらいと感じる方もいると思います。一方、クロアチアでは医師と患者がより親しみのある関係を築いており、患者が自分の意見をしっかり伝えたり納得いくまで質問を重ねたりする姿が印象的でした。そのような会話を通して、信頼関係が自然と生まれているように感じました。また、患者同士の関わり方にも文化の違いを強く感じました。日本の病院では病棟がカーテンで仕切られ、受付では名前の代わりに番号で呼ばれるなど、プライバシーを守る配慮が徹底されています。婦人科の待合室でも、患者同士が顔を合わせにくいように前向きに椅子が並んでいるのを見たことがあります。しかしクロアチアでは病棟にカーテンはなく、回診の内容が周囲に聞こえる環境の中で、患者同士が声をかけ合ったり、時には回診の話に加わったりする姿が見られました。婦人科の待合室では円形に椅子が並び、女性たちが談笑しながら順番を待っており、その明るく開かれた雰囲気がとても印象的でした。こうした経験を通して、医療は文化や価値観と共に形を変えるものであり、それぞれに合った最適なあり方を模索するべきだということを学びました。
生活面では、日曜日に多くの店が閉まり家族と過ごす時間を大切にする文化が根付いていることにも感銘を受けました。忙しい中でも人とのつながりを大切にする姿勢は、医療にも通じる考え方だと感じました。海辺の街プーラ、夕陽や石畳の街並み、歴史ある建物などすべてが新鮮で学びの合間の癒しとなりました。言葉が通じなくても笑顔や仕草で心が通じ合う瞬間があり、人と人との温かい関係は国を超えて共通するものだと実感しました。
この1か月を通して、医学的知識だけでなく「人としてどう患者と向き合うか」を学びました。どんなに忙しくても患者の目を見て、声をかけ、心を寄せること。その積み重ねこそが医療の本質なのだと感じました。この1ヶ月で出会い、とても優しくしてくださった先生方のように誠実で温かく、相手に安心感を与えられる医師になりたいという目標がより明確になりました。
海外で学ぶことは決して簡単ではありませんでしたが、世界の広さと多様さに触れることで、日本の医療の良さも再認識することができました。この経験を糧に、これからも挑戦を続け、将来は医師として再び海外で学び、今度は誰かに安心と学びを与えられる存在になりたいと思います。