国際・国内交流
廣本 よし乃さん
ラトガース大学での臨床実習を終えて
2025年4月7日から5月2日までの4週間、アメリカ・ニュージャージー州にあるRobert Wood Johnson Medical Schoolにて臨床実習を行いました。私は大学入学当初から英語の勉強が好きで、この5年間、医学の勉強に匹敵するほど英語学習に力を注いできました。そのため、この海外実習にはどうしても参加したいという強い思いがありました。貴重な機会に恵まれ、非常に充実した1か月を過ごすことができました。
実習開始の3日前にニュージャージーに到着し、まずは13時間の時差と戦うところからスタートしました。昼夜が日本とは真逆のため、これからの1か月への楽しみも相まって、最初の数日はなかなか寝付けない夜もありました。実習前にはDr. Angelaにラトガース大学をご案内いただきましたが、その広さには大変驚かされました。キャンパスが複数あり、キャンパス間の移動は大学運営の学生用バスを利用しました。大学内には映画館やレストラン、テニスコートに加え、牧場まであり、まるで一つの街全体が大学のような印象を受けました。私たちが滞在していたPiscatawayという町から病院のあるNew Brunswickまでは、バスと徒歩で30~40分かかりましたが、毎朝ニュージャージーの街並みを楽しみながら通っていました。
臨床実習では、1週目に糖尿病・内分泌内科、2週目にFamily Medicine、3・4週目に外科をローテーションしました。
1週目の内分泌内科では、朝8時から夕方まで主に外来診療の見学を行いました。アメリカでは日本とは異なり、患者さんが診察室で待機し、医師が各部屋を回るスタイルが一般的です。患者さんの多くはアメリカ以外の出身で、アジア系やヨーロッパ系の方々や、南米出身のスペイン語しか話せない方も多くいました。そうした患者さんには電話を通じて病院常駐の通訳が対応する仕組みが整備されており、多様なバックグラウンドに対応する医療のあり方を目の当たりにしました。
また、外来が無い時には、内分泌科の教授から課題として、教授が執筆した論文を読み、それをもとにパワーポイントを作成し、翌朝に英語で発表するというプレゼンテーションが課されました。英語で医学論文の内容を発表するというのは日本ではあまり経験がなく、1日でまとめるのは大変でしたが、海外実習ならではの貴重な体験となりました。
2週目はDr. LinのもとでFamily Medicineを見学しました。Family Medicineとは、子どもから高齢者まであらゆる年齢層に対応し、幅広い疾患や健康問題を診る総合診療の専門分野です。私が外来を見学した際には、小児のADHD、成人の肥満、慢性疼痛、足のむくみなど多様な主訴があり、それに一人で対応されるDr. Linの知識と経験に大変感銘を受けました。
また、この週にはPromise Clinicの見学もありました。Promise Clinicとは、ホームレスや不法移民など保険を持たない方々のために、学生主体で運営されている無料クリニックで、週に一度開かれています。1~4年生の学生がチームを組み、問診からカルテ作成、治療方針の決定まで全てを学生たちが主体となって行います。スペイン語しか話せない患者さんのためには、チーム内の学生が通訳を担当し、1.2年生が問診して、その補足を4年生が行うなど、学生それぞれが役割を持って動いていました。皆がまだ学生とは思えないほどのスムーズな診療に大変驚きましたし、その知識と対応力に刺激を受け、私自身もより一層努力しようと感じました。さらに、現地学生との交流を通じて、アメリカ特有の医療保険制度や移民問題についても学び、日本の医療制度との違いを強く実感しました。
3・4週目は心臓外科を中心に、脳神経外科、一般外科を回りました。主な実習内容は手術見学で、手術が無いときは検査見学や病棟回診、カンファレンスへの参加を行いました。
まず驚いたのは、手術開始時間の早さです。心臓外科では朝6時45分に患者が手術室へ入室し、10時ごろには1件目の手術が終了していました。脳神経外科では朝6時からカンファレンスがあり、7時半には手術が始まっていました。アメリカの病院は非常に朝型で、1日に複数の手術を行い、かつ医療者が早く帰れるようにする工夫がなされていました。心臓外科では冠動脈バイパス術や大動脈弁置換術を執刀医のすぐ近くで見学でき、非常に学びの多い経験となりました。
外科には日本人の先生方も多くいらっしゃり、アメリカで働くに至った経緯やUSMLEについてのお話を伺うことができました。先生方は私たちを自宅に招いてくださったり、食事に連れて行ってくださったりと交流の機会も多く、アメリカでの医師生活についてリアルな声を聞くことができました。また、先生方から、「自分の興味のあることは何か、何をしている時が楽しいか」を考えることの大切さを教えていただきました。6年生となり進路を考える中で、女性としての働きやすさや医療ニーズなど、現実的な視点ばかりに目が向いてしまい、自分が本当にやりたいことを見失いかけていた私にとって、この言葉は大きな気づきとなりました。どんな医師になりたいかを改めて考えるきっかけをいただけたことは、今回の実習で得た学びの中でも特に心に残る出来事となりました。
週末は実習がお休みだったため、ニューヨークをはじめ、PrincetonやワシントンD.C.など、さまざまな場所を観光しました。日本とはまるで異なる景色や街並み、そして治安の違いを体感し、アメリカ観光を楽しむと同時に日本の良さにも改めて気づかされました。
病院関係者に限らず、現地の方々も非常にフレンドリーで、困っているとすぐに助けてくださり、初めてのアメリカでも大きなトラブルなく1か月を無事に終えることができました。また、ラトガースの学生たちとの交流を通じて、物事の捉え方や考え方の違いにも触れ、もっと広い視野で世界を見たいと強く感じました。
今回の海外実習は、間違いなく私の学生生活の中でも最も印象に残る経験の一つとなり、参加できて本当によかったと心から思っています。
留学に参加させてくださった吉村教授、石戸教授、国際交流センターのスタッフの皆さま、現地でお世話になった多くのドクター、学生の皆さん、たくさん助けてくださった日本人の縁子さん、そして共に実習に参加した高さん、このプログラムに関わってくださった全ての方々に、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。