国際・国内交流
高 春香さん
ラトガース大学での実習を終えて
私は今回、2025年4月7日から5月2日までの4週間、アメリカのNew Jersey 州にあるRobert Wood Johnson Medical Schoolで臨床実習の機会を頂きました。
医学部に入学した当初、英語は全く話せず、留学など私とは全く無縁のものだと思っていました。しかし、大学4年生の時に本学に来ていたアメリカやドイツからの交換留学生と偶然友人となったことがきっかけとなり、本格的に英語の勉強を始め、そして次第に「実際に海外で医療を学んでみたい」という気持ちが芽生えたことで今回のこのプログラムへの応募に至りました。
このプログラムに参加したことで、日米の医療制度だけでなく、医師と患者の関係性や、医学教育の方法など、さまざまな面で日本との違いを肌で感じることができました。そして何よりも、たくさんの人々との出会いや新しい挑戦の機会に恵まれ、非常に充実した時間を過ごすことができました。
今回の実習では、1週目に糖尿病・内分泌内科、2週目にFamily Medicine、3〜4週目に心臓胸部外科・脳神経外科・一般外科をローテーションしました。
1週目の糖尿病・内分泌内科では、Dr. Wang、Dr. Amorosaのもとで外来見学やZoomによるケースカンファレンスへの参加、論文に関するプレゼンテーションなどを行いました。外来見学において特に印象に残っているのは、医学生の積極性と診察技能の高さです。基本的に、医師が診察を行う前に、医学生が1人で患者への問診を行っており、その内容を簡潔にプレゼンした上で医師とともに診察に入り、治療方針まで議論していました。
学生は常に積極的に患者さんと関わりを持ち、また、患者も学生を信頼し、自分の病歴や生活について率直に話している様子が印象的でした。日本では、外来で学生が積極的に患者と関わる機会はあまり多くないため、とても驚きました。
また、Dr. Wangが執筆された論文を自分たちで読み、パワーポイントにまとめて先生に対して発表する機会も頂きました。日本ではこのような経験はしたことがなかったため、論文のどこに着目すべきか、どのようにまとめたら良いかも分からず、共に実習に参加していた廣本さんと、たくさん悩みながら作成を進めました。発表後にはDr. Wangがまとめ方についてフィードバックをくださり、論文の読み方についても丁寧に教えてくださいました。そして最後に、「完璧にできなくていいんだよ。とりあえずやってみてから、分からないことはどんどん聞いていけばいいんだよ」と言ってくださり、その言葉にもとても励まされました。この経験を通して、ただ知識を積み重ねるだけでなく、1つひとつの課題に前向きに取り組む姿勢の大切さを改めて実感しました。
2週目は、Dr. Linのもとで、Family Medicineについて外来見学などを通じて学ぶことができました。慢性疾患の管理からメンタルヘルス、そして婦人科的な相談まで、診療内容が非常に幅広く、Family Medicineの果たす役割の大きさを実感しました。
また、Dr. LinはRutgersで唯一の鍼灸治療を行う医師であり、診療中に肩こりや腰痛、月経困難症、がん患者の副作用緩和などに対して鍼を用いる場面を何度も見学することができました。医師が病院で鍼灸を行う場面を日本では見たことがなかったため、とても新鮮で、東洋医学と西洋医学の融合についても考える機会となりました。診療の合間には患者さんと気さくに世間話を交わしながら信頼関係を築いていくDr. Linの姿勢にも深く感銘を受けました。
また、Promise Clinicという、様々な理由で保険に加入できず、十分な医療を受けられていない患者さんを対象に、学生が主体となって無料で診察や薬の処方を行うクリニックを見学する機会もありました。このクリニックでは、問診から身体診察、処方計画の立案までのプロセスのほとんどを学生が担っており、上級生が下級生に診察手技を教えながら診療を進める様子や、英語を話せない患者さんに対して学生が通訳としてサポートを行う姿が印象的でした。日本ではまだ学生がここまで主導的に診療に関わる場面は少なく、医学生としての学び方や姿勢についてたくさん影響を受けた貴重な経験となりました。
一方で、アメリカの保険制度の影響により、必要な医療を受けられない人々がいる現実に課題も感じ、日米それぞれの医療制度の在り方についても考えさせられました。
3週目・4週目は、心臓胸部外科、脳神経外科、一般外科をローテーションし、池上先生、砂川先生、北方先生、長浜先生のもとで手術見学やカンファレンスに参加しました。手術室でも、麻酔管理が麻酔科医だけでなく専門資格を持つ看護師によって行われていることや、麻酔科医が複数の手術室を担当していること、日本にはない職種の医療従事者が多く存在することなど、さまざまな違いがありました。医師や看護師以外にも多くの職種があり、それぞれの役割が明確に分かれているため、外科医は手術に集中でき、非常に合理的で良いシステムだと感じました。
また、この2週間は、アメリカで臨床医や研究医として活躍されている日本人の先生方から、アメリカでのキャリアや生活について様々なお話を伺うことができ、自分がこれからどんな医師になりたいのか、何を大切にして医療に携わっていきたいのかを深く見つめ直すことができる時間となりました。
さらに週末には、New York やPrinceton へ出かけたり、Rutgersの学生たちに食事に誘ってもらったりととても楽しい時間を過ごすことができました。
渡航前は楽しみな気持ちと同じくらい「本当にやっていけるだろうか」という不安もあった今回の留学でしたが、現地で出会った素晴らしい先生方、学生のみなさん、Dr.Linの紹介で知り合い、滞在中たくさんお世話になった日本人のエンコさん、一緒に暮らしたインド人女性のShamaさん、数えきれないほど多くの方々の温かいサポートのおかげで、とても充実した、かけがえのない時間になりました。
最後に、このような貴重な機会を下さいました吉村先生、石戸先生、Dr.Lin、国際交流センターの皆さま、応援してくれた家族、友人、そして共に参加した廣本さんにも心から感謝しています。本当にありがとうございました。