国際・国内交流
渡海 詩野さん(第6学年次)
Rutgers Robert Wood Johnson Medical School実習を終えて
4/1から4/26までの4週間、アメリカのニュージャージー州にあるRutgers Robert Wood Johnson Medical Schoolにて臨床実習をさせていただきました。入学したころから在学中の低学年の間に海外留学をしてみたいという気持ちはありましたが、新型コロナウィルス感染症の影響で難しい状況でした。6年生の4月の時期にこのプログラムへ応募することはとても難しい決断でしたが、ここでチャレンジしなければ一生後悔すると考え、海外留学することを決めました。私はまだ将来進む診療科を決めていませんが、私の目指す医師像とアメリカにおけるFamily Medicineの考え方に重なる部分が多くあったため、ぜひ本場を体験したいと思いこのプログラムに応募しました。この1か月はとても刺激的で忘れられない1か月になりました。
前半2週間はFamily Medicineの医師であるLin先生につき、病室での診察や外来だけでなく、大学の授業にも参加しました。大学病院やオフィスはNew Yorkから電車で1時間ほどにあり、私が過ごしたアパートからは徒歩で通学していました。Family Medicineの外来は様々な主訴をもつ患者さんが来院してきます。患者さんの年齢層も幅広く、0歳の赤ちゃんから90代の高齢の方までFamily Medicineの医師が診ます。年齢層だけでなく話す言語も様々です。英語しか話せない患者さんもいれば、スペイン語しか話せない患者さんや中国語しか話せない患者さんなどアメリカらしく多様性にあふれていました。時にはタブレットを用いて通訳者を介して問診する場面もありました。日本では、腹痛なら消化器の先生、鼻詰まりなら耳鼻科の先生と臓器ごとに診ますが、Family Medicineの先生は腹痛もめまいも鼻詰まりの患者さんもすべて診ます。その圧倒的な知識量に驚きました。また、日本の国民皆保険制度のような制度はアメリカにはないため、治療方針を考える際は医師と患者さんがどの保険でどこまで治療が可能なのかを話し合っている姿が印象的でした。病気だけでなくこれからの人生における予防についても話し合っており、日本との医療に対する意識の違いを感じました。大学では、Lin先生の専門分野である鍼灸についての講義を受けました。学生本人が疑問に思ったことはその場で先生に質問を投げかけ、質問することで学生自身の理解も深まっており、積極性がいかに大事かを実感しました。また、Promise clinicも見学することができました。Promise clinicとは無保険の人に対して医学生が診察、検査、投薬を含めてすべて無料のプライマリケアを患者に提供する学生経営のクリニックです。医学生は1~4年生のそれぞれ1名ずつの4人でチームを組み患者さんを診察します。1.2年生がメインとなって診察し、3.4年の学生が教えながらチーム医療を行う仕組みであり、見学していて私には彼らがとても学生には見えませんでした。英語が話せない患者さんに対しては通訳としての学生がつき、社会的支援に関して学んでいる学生が社会的支援をフォローする等すべてが学生主体でした。学生は自分で問診や診断、今後のプランや投薬内容を考え、簡単なプレゼンテーションを医師の前で行います。そこでは診断内容だけでなく薬の分量やコストの問題などいろいろな背景を考慮して判断を行っていました。一人の患者さんは同じチームが継続的に診察する仕組みになっており、患者さんにとっても治療継続がしやすいようになっていました。すべて学生が主体となって行っている姿を見て、アメリカの医学生の意識の高さや知識量に圧倒されましたし、とても刺激を受けました。
後半2週間は心臓胸部外科の池上先生を中心に日本人医師が働いている脳神経外科、臨床病理、基礎研究、一般外科を見学しました。今まで記事など、海外で働いている日本人医師の話を見る機会はありましたが、ずっと遠いところの話だと思っていました。しかし実際にお会いすることでどれだけ大変だったのか、日本人が海外で働くにはどうしたらよいのかなどたくさんお話を聞くことができ、自分の将来に大きく影響を与えた出会いでした。心臓胸部外科では年間およそ1700件もの手術を行っており、多い時には1人の医師で1日4件の手術を行うこともあります。そこまでたくさんの手術を行うことを可能にしているのは、Physician Assistant/PAといった准医師やNurse Practitioner/NPといった特別な試験をクリアした看護師の存在が大きいと思います。日本では執刀医の助手は医師が担うのが一般的ですが、アメリカではPAやNPが行います。そのため手術を行う医師は執刀医1人で成り立つため、多くの症例を行うことを可能にしていると考えます。また、一般外科ではレジデントの医師がロボット手術の執刀医を任されていました。このようにして若い段階から執刀経験を積むことができるのだと実感しました。手術見学だけでなく、基礎研究の先生のラボを見学させていただき、臨床病理では病理解剖も見学することができました。
この1か月様々な経験をしました。実は一人海外、一人暮らしと初めてのことが多く渡米前は不安しかなく、渡米後数日は慣れるのにとても苦労しました。しかし、Lin先生をはじめ医療スタッフの皆さんや、学生のみんなに支えていただき充実した楽しくて刺激的な1か月を過ごすことができました。アパートでトラブルがあった際にはLin先生にたくさん助けてもらいました。学生は、車のない私のためにスーパーに連れて行ってくれたり、週末New YorkやPrincetonに観光に行ったり、一緒にpickleball(テニスに近いスポーツで、最近アメリカで流行っているそうです)を楽しみました。また、私事ですが誕生日を迎えた日には学生のみんながケーキをサプライズで準備してくれました。英語でのコミュニケーションに苦労する場面もありましたが、たくさんの方々のやさしさのおかげでとても充実した1か月を過ごすことができました。
1人でのアメリカは大変なこともたくさんありましたが、毎日が新しいこととチャレンジの連続で刺激的な1か月でした。このプログラムに参加したことは私の人生に大きな影響を与えたと感じています。あの時一歩踏み出してこのプログラムにチャレンジすることを決めて本当に良かったと思っています。この留学の機会を与えてくださった兵庫医科大学の先生方や国際交流センターの皆様、Lin先生をはじめRutgers Robert Wood Johnson Medical Schoolの学生・先生方、池上先生をはじめRobert Wood Johnson University Hospitalのスタッフの皆様、そして支えてくれた家族や友人に感謝申し上げます。この経験を胸に、これからも様々なことにチャレンジしたいです。