アメリカでの臨床実習を終えて

 4/1から4/30までの4週間、アメリカ、ニュージャージー州のRutgers大学医学部であるRobert Wood Johnson Medical Schoolで臨床実習をさせていただきました。入学当初から海外留学に興味があり、アメリカでの臨床は夢だったので思い切って今回このプログラムに応募しました。将来糖尿病内分泌内科を志望していることから、前半の2週間は糖尿病内分泌内科、後半は心臓血管外科を中心に脳神経外科、病理をまわらせていただきました。一生忘れることのできない充実した1ヶ月を過ごすことができました。

 病院はNew Yorkから電車で1時間ほどのNew Brunswickという街にあり、1ヶ月過ごしたアパートから毎日バスで20分ほどかけて通学していました。困っていたら周りの方が助けてくださり、バスの運転手さんはバス停がないのに病院の近くまで行って降ろしてくださったり、温かく思いやりに溢れた町でした。

 前半2週間の糖尿病内分泌内科では、毎日外来での実習と週に1度のチームでの病棟回診、木曜日の午後は肥満、代謝の研究をされている坂本先生のラボに伺わせていただきました。糖尿病はもちろん、甲状腺疾患、下垂体腺腫、骨粗鬆症、肥満、FNA clinic、インスリンポンプ指導を見せて頂きました。外来は朝8時から夕方6時頃まであり、最初の数日は見学メインでしたが、それ以降は患者さんへの問診を任せていただきました。まず患者さんの待っておられる診察室へ1人で行き問診し、その内容を指導医に伝え、治療方針をどうすべきか提案し指導医と話し合います。その後指導医と一緒に診察し、終了後にもう一度フィードバックをして下さいます。学生はただの見学者ではなく、チームの一員として診察に参加します。診察室の中では、指導医の先生が診察している間も、患者さんと直接お話したり質問したり説明することが許されています。先生の後ろに座り、静かに外来見学をするのがスタンダードだと思っていた私は、「診察中は見てるだけじゃなくて、もっと患者さんと話したり質問してみて」と言われ最初は驚きましたが、患者さんも先生方も本当にフレンドリーでしっかり教えて下さるのですぐに慣れていきました。またNew Brunswickはヒスパニック系やインド系、中国系など様々な人種が集まる街であり、中には英語が話せない患者さんも多くいらっしゃいます。突然スペイン語や中国語で診察が始まることもあり、とにかく新鮮で刺激になることばかりでした。

 後半の心臓胸部外科では、毎日CABGなどの手術見学と小児のcode blueケース、そして滅多に見ることのできない心臓移植を経験させていただきました。6人の執刀医のうち3人が日本人であり、池上先生をはじめ、砂川先生、武部先生の3人の先生にお世話になりました。この2週間では全ての手術で術野に入らせていただき、実際に冠動脈石灰化の部位を触れることもできました。手術は毎朝6時45分にスタートし、1人の執刀医が昼までに2.3件手術を行い、心臓胸部外科全体で年間1000件以上の手術を行っています。なぜアメリカではこれだけの手術を行えるかというと、アメリカにはPA(Physician Assistant)、NP(Nurse Practitioner)という医師と看護師の間に位置する職種が存在するためです。PA/NPは診察、薬の処方、静脈グラフト採取、手術助手、胸腔ドレーン、術後患者の管理、院内当直など日本では医師しか権限のない仕事まで行うことができます。医師とPA/NPとの信頼関係が成り立っており、この職種が存在することで医師の手術以外の診療業務が減り、より手術に集中し沢山の症例をこなすことが可能となります。アメリカでは人種、学閥関係なく若いうちから執刀経験が与えられ、外科医として成長できる環境が特に整っていると感じました。
 この実習の中でも、特に印象深かったのは心臓移植のプロキュア(ドナーの心臓を取りに行く手術)に同行させていただいたことです。夜に病院を出発し、車で1時間ほどのフィラデルフィアの病院へ向かいました。そこにはSouth CarolinaやBostonから肺チーム、肝臓チームも来られていて3チームで午後11時から手術を行いました。ドナーの心臓とレシピエントの心臓は適切な時間に取り出されなければならず、また4時間以内に移植されなければなりません。私の役割は何時に手術が始まったのか、何時何分に血流を止めてクランプしたのかなど池上先生に状況を伝えることでした。手術中余裕がある時は、スクラブインさせていただき、近くで手術を見学しそれぞれのチームの先生が解剖や手術について教えてくださいました。午前1時半に手術が終了しすぐにロバートウッドへ戻り、すぐ移植手術が始まりました。移植した心臓が拍動することを確認し手術が無事終了しました。Robert Wood Johnson University Hospitalでも年間10件ほどしか行っていない心臓移植を経験させていただいたことは忘れられない経験となりました。

 また脳神経外科と病理でも3日間実習させていただきました。脳神経外科では朝5時にカンファがスタートし、人生で初めての開頭術や救急で来られた脳動脈瘤破裂患者さんの処置を見学しました。また、日本では臨床検査・輸血部門は独立していますが、アメリカでは病理診断部門と臨床検査・輸血部門の2つから病理は成り立っています。顕微鏡を使った細胞学実習や輸血の授業をレジデントの先生方と受講し、ラボ中心の生活も経験することができました。

 この1ヶ月間、ソーシャルライフも充実したものとなりました。医学部のキャンパスは病院から車で20分程離れたところにあり、4月は病院内に学生はいなかったので、友達は自分から積極的に作る必要がありました。糖尿病内分泌のAmorosa先生が内科研修医プログラム説明会に招待してくださったり、Lin先生が医学部生やinternational studentsのイベントを紹介して下さったお陰で、医学部だけでなく、海外からの工学部・経営学部大学院生とも知り合うことができました。医学部生は忙しい中でもBBQやホームパーティなどを企画してくれたり、観光に連れて行ってくれたり、車のない私のスーパーの買い物まで手伝ってくれました。週末はお休みなのでNew YorkやPrincetonに観光に行ったりと楽しい週末を過ごすことができました。

 1人でのアメリカは初めての経験で慣れないことも多々ありましたが、沢山の方々に支えられながら、新たな挑戦の連続で一生忘れられない1ヶ月を過ごすことができました。この留学の機会を与えてくださった小山先生、廣田先生、石戸先生、吉村先生、現地でお世話になったLin先生、Gitau先生、糖尿病内分泌内科のAmorosa先生、Wang先生、Kim先生、心臓胸部外科の池上先生、砂川先生、武部先生、脳神経外科の長浜先生、病理の松田先生、応援してくれた家族、友人、現地で温かく迎えて下さった方々に感謝申し上げます。この1ヶ月の貴重な経験を胸に、夢に向かってこれからも精進してまいります。