Rutgers Exchange

今回3/31から4/29までの1ヶ月間、アメリカニュージャージー州にあるRutgers Robert Wood Johnson University Hospital (RWJUH)で臨床実習をさせていただきました。私は将来日本だけでなくアメリカでも臨床ができたらという夢があり、今回アメリカの医療の現場や文化を学び、その夢の実現に向け少しでもステップアップをと思い、この留学に応募しました。小学生以前にアメリカに住んでいたことがあり、日本の外で生活することにはほとんど抵抗なくすんなりと入っていけました。また数年間4、5月に来てくださっているDr. George Meyerのお宅にホームステイし、1日大学のレクチャーやシンポジウムに参加させていただいた事もあったため、少しの自信を持って出国しましたが、やはり医学生として臨床現場を見るとなると同時に不安もありました。病院はNew Brunswickという街にあり、一ヶ月間過ごしたアパートはそこからキャンパス内のバスに乗り20分弱のPiscataway Township、Busch Campusにありました。日本では桜が散りかけているというのにニュージャージーでは雪が降る日もありましたが、春を感じる清々しい日も多くありました。週末にはニューヨークやナイアガラの滝など多くの観光地に行き、充実した1ヶ月を過ごしました。

1、2週目は面接をしてくださったDr. Linが休暇中であったため、心臓胸部外科の池上先生にお世話になりました。池上先生は日本で医学部を卒業後、アメリカのいくつかの大学で心臓外科医として経験を積まれました。海外で研究者としてではなく臨床医として働くには、アメリカの医師国家試験に合格する必要があり、日本で国家試験勉強に追われながら同時にするのはとても難しいことです。その中で今回池上先生の経験談を多く聞くことができたのはとても幸いに思います。

アメリカの手術は医師や看護師以外にも多くのスタッフが関わっており、physician assistantという日本にはない職種の人が助手を務めていました。執刀医の他に外科医はいませんでしたが、ひとつの施設で1年間に4人で1000件程度の手術を行うとのことで、1日に2、3件もされていました。そのため大変忙しく、心臓自体の手術はもちろん執刀医の先生がされていましたが、皮切や開胸、閉胸などはphysician assistantの人がして、外科医は次の手術に向かうという日が何日かあり、夜中まで手術をされていました。非常に過酷なスケジュールだと思いましたが、日本ではそこまで多くの症例を扱っている病院はそうたくさんはないと思います。また日本では施設に手術適応の患者さんが紹介され医局内で分担して手術するというのが一般的なようですが、アメリカでは完全に個人宛に紹介が来るため、自身のスキルや信頼が大きく反映されます。外科医として技術を磨き成功するためには、アメリカで、というのが聞いた限りで感じたことであり、希望です。 また心臓胸部外科の手術日以外には麻酔科の先生について、脳神経外科の手術も見学しました。awake craniotomy という患者さんを覚醒状態のまま病変部にアプローチする手術で、日本では見た経験がなく今回初めて見学することができました。覚醒状態であるため普通よりもさらに大きな不安があるのではないかと思いましたが、無事に成功されて症状もよくなったと後日聞きました。

3、4週目はDr.Lin についてFamily Medicineを見学しました。日本ではあまり行われていませんが、アメリカでは一般的で、子供から高齢者までが学校の検診のため、喘息のため、気分障害のため、腰痛のためなど幅広い目的のために来ます。日本の国民皆保険制度と違い、保険制度が人によってまちまちであるので、どの患者さんにも何の保険に入っているのか聞いていたのが印象に残っています。診察の仕方は日本のスタイルとは少し異なっており、患者さんが部屋で待っていて医者が部屋に行きます。まず受付で看護師が症状を聞き、レジデントの先生が受け継ぎます。一通りの問診をして診療の手順を決めるとレジデントの先生がアドバイザーのDr.Linや他の先生に自分はこんな疾患だと思う、方針はこうしていこうと思う、と言ったことを患者さんごとに報告に来ます。Dr.Linがそれについて質問をし、方針が正しいと判断するとレジデントの先生と一緒に患者さんに伝えに行きます。Dr.Linも自分の患者さんの時には診察を自分で行っていますが、中国人の患者さんの時があり、中国語での診察を見ることができました。日本ではほとんど見ることのできない光景で、言葉の理解はできませんでしたが貴重な体験だと思います。

Dr.Linは鍼治療を専門にされていて、多くの患者さんが腰痛や肩の痛みのために鍼治療を受けに来ていました。中国で数千年の歴史を持つ鍼治療はアメリカの保険制度でも適応するものが多く、治療効果が高いため、利用する患者さんも多くいます。1ヶ月に何度も訪れている人もいるようで、多くの患者さんが鍼治療の良さについて話していました。

他の日には産婦人科のワークショップに参加したり、EBMのレクチャーに参加したりしました。産婦人科のワークショップではIUD(子宮内避妊器具)のメーカーが何社か来ていて、使用した際の作用の仕方、種類、副作用、使い方などについて話をしてくれました。モデルが用意されていてそれを使って練習しました。またキウイをモデルに使っての練習もあり、楽しくワークショップができました。EBMのレクチャーでは論文の信用性の種類についての講義とプレゼンの発表があり、residentの先生たちが自分の興味のある分野のテーマについてエビデンスに基づいた研究の発表を行っていました。日本でもEBMはとても重要になって来ていますが、アメリカでも同様な考え方をしているのだと知ることができました。

この4週間を通して様々な人と交流することができました。患者さんとして来ていたある方は市の国際交流に貢献されている方でした。兵庫医科大学はRobert Wood Johnson Medical Schoolと交換留学を行ってる日本で初めての大学です。福井市はNew Brunswickと姉妹都市であり、その方と福井大学の学長や国際交流センターの方達がRutgers大学と交換留学の提携をするのに一緒に参加しました。そこで初めて日本人としてこの大学に来た福井の日下部太郎について聞き、100年以上も前から日本とこの大学に交流があったことに驚きました。また、自分も短い期間ながらその一員となれたことに誇りを持ちたいと思います。そしてこの留学の機会を与えてくださった三輪先生、鳥井さん、Dr.Lin、池上先生、留学に携わっていただいた方々に感謝申し上げたいと思います。この1ヶ月間の留学を通して日本にいるだけではできない体験を多くさせていただき、より医学への興味が大きくなりました。今度またお会いする機会があれば、その際はひとまわり大きな自分になってお会いしたいと思います。