研究業績

過剰な内臓脂肪が心大血管手術後の骨格筋減少リスクに ― 大学院生の研究成果が学術誌に掲載 ―

兵庫医科大学大学院 リハビリテーション科学研究科 病態運動学分野(内部障害)博士後期課程1年 清水 和也さん、兵庫医科大学 リハビリテーション学部 理学療法学科 准教授 松沢 良太、教授 玉木 彰らの研究グループは、心大血管手術前のルーチン検査であるComputed Tomography(CT)検査により評価した過剰な内臓脂肪が、術後の骨格筋減少を助長するリスク因子であることを明らかにしました。
本研究論文は、Journal of Parenteral and Enteral Nutrition (2024 JOURNAL IMPACT FACTOR: 4.1)に掲載されました。

熊本県で開催された第12回日本サルコペニア・フレイル学会大会にて (左)玉木 彰教授、(左から2番目)清水 和也さん(右)松沢 良太准教授

論題

Preoperative visceral fat and muscle loss after cardiovascular surgery: A retrospective cohort study

著者名

清水 和也 兵庫医科大学大学院 リハビリテーション科学研究科 病態運動学分野(内部障害)博士課程1年
松沢 良太 兵庫医科大学 リハビリテーション学部 理学療法学科 内部障害理学療法学 准教授
玉木 彰  兵庫医科大学 リハビリテーション学部 理学療法学科 内部障害理学療法学 教授

研究の背景

心大血管手術は、その多くが動脈硬化性疾患を対象としています。本邦の患者は欧米と比較して肥満度が低い傾向にありますが、Body Mass Index(BMI)が正常範囲内であっても内臓脂肪が過剰に蓄積している「内臓脂肪型肥満」の割合が高いという特徴があります。過剰な内臓脂肪の蓄積は慢性炎症の基盤となっており、侵襲の大きな心大血管手術においては術後炎症反応を増幅させ、タンパク質の異化(分解)を加速させることで、急激な骨格筋減少を招く危険性があります。このような術後の骨格筋減少は、入院期間の長期化および死亡リスクの上昇に直結するため、ハイリスク患者を早期に特定し、対策を講じることが重要です。
そこで我々は、内臓脂肪量を正確に定量できる術前CT検査を活用し、過剰な内臓脂肪の蓄積が術後急性期の骨格筋減少を引き起こすリスクになるかを検証しました。

研究手法と成果

対象は単一施設で待機的心大血管手術を受けた159名とし、術前および術後1週目のCT画像から、内臓脂肪面積と骨格筋量の指標である大腰筋面積を算出しました。本研究では、術前と術後の大腰筋面積の変化率を算出し、術後急性期の骨格筋減少を評価しました 。解析対象者の69.2%(110名)が、術前CT評価において内臓脂肪型肥満(内臓脂肪面積≧100cm2)に該当しました。
内臓脂肪の蓄積が術後の骨格筋減少に与える影響を評価するため、相関および多変量解析を行いました。術前の内臓脂肪面積は、術後炎症反応の指標であるCRP値(r=0.361)および骨格筋減少率(r=-0.374)と有意な相関を認めました。さらに、ロジスティック回帰分析の結果、過剰な内臓脂肪の蓄積は、年齢、BMI、手術の種類およびEuroSCOREⅡ(※)等の臨床的特徴を調整してもなお、独立して術後骨格筋減少と関連することが明らかになりました。これらと対照的に、皮下脂肪面積は、骨格筋減少との間に有意な関連は認められませんでした。
本知見は、慢性炎症の基盤となる内臓脂肪が 、手術侵襲によって過剰な炎症反応を増幅させ、タンパク質の異化(分解)を加速させることで、急激な骨格筋減少を惹起した可能性を示唆しています。
手術決定から実施までの1~2か月間は、術前介入を行うための貴重な機会となります。術前CTを用いた内臓脂肪評価は、骨格筋減少のハイリスク患者を早期に抽出し、適切な治療介入の適応を判断する上で有用である可能性が示されました。

今後の展望

本研究により、過剰な内臓脂肪蓄積が炎症反応とタンパク異化(筋分解)を加速させるリスク因子であることが明らかになりました。この知見は、周術期や集中治療領域における骨格筋温存戦略の立案に寄与するものです。将来的には、内臓脂肪型肥満に対する周術期の骨格筋温存をターゲットとしたプレハビリテーションの効果を検証し、術後の予後改善に貢献しうる治療戦略を確立したいと考えています。

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