学校法人 兵庫医科大学

集中力低下は「息を吸う瞬間」と関係していることが明らかに

研究

イメージ図:「物事に取り組んでいるとき、息を吸う瞬間は、集中力を低下させる」

兵庫医科大学(所在地:兵庫県西宮市、学長:野口 光一) 生理学 生体機能部門 助教 中村 望、自然科学研究機構 生理学研究所らの研究グループは、25名の男女の健常者を対象に研究を行い、「息を吸うタイミングにより、集中力・注意力を司る脳部位の活動低下に伴って、認知機能がうまく働かなくなる」ことを明らかにしました。

※本研究成果に関する論文は、日本時間2022年9月30日(金)に、国際的な学術誌Cerebral Cortexの姉妹誌「Cerebral Cortex Communications」の電子版に掲載予定です。

研究概要

本研究では、これまで認知機能低下の原因の一つが、“呼吸”であることを発見しました。今回はさらに、その息を吸う瞬間に「脳の中ではどのようなことが起こっているのか」を調べました。ヒトの脳活動を経時的に3D撮像することのできるfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いた結果、脳内では、記憶力そのものよりも集中力が散漫になっていることがわかりました。

これにより、ヒトは息を吸う瞬間に集中力・注意力が途切れてしまい、その結果、記憶力の低下、さらには、判断力低下など、さまざまな認知機能の低下を引き起こすことが考えられます。

今後、記憶力や認知力を向上させる取り組みとして、呼吸をうまく主導することで、集中力や注意力を改善し、最終的に、日常生活や仕事、勉強だけでなく、スポーツや車の運転など、あらゆる分野でのパフォーマンスの向上に役立つことが期待されます。

研究背景

呼吸は人々が生活する上で最も基本的な活動の一つですが、呼吸のリズムやその位相の違いは、身体や脳にさまざまな影響を及ぼすことが知られています。特に、外部からの感覚情報を獲得したり、自発的な運動を行った場合、呼吸位相は「大脳皮質活動に伴ってある特定のタイミングで調節されること」が知られています。

前回の我々の研究グループでは、記憶想起を吸息開始(EI転移期)にかけて行うと、パフォーマンスの低下が引き起こされることを明らかにしました。そして今回、「記憶想起におけるEI転移期と脳活動の関係性」を明らかにするために、ヒト脳活動を経時的に3D撮像できるfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて実験に取り組みました。

研究手法と成果

25名の男女の健常者は、fMRI(3T Magnetom Verio, Siemens)計測の際に呼吸圧センサーカニューレを鼻に装着し、気流量の変化を同時計測しました。被験者は、見本合わせ再認記憶課題を行い、連続的に提示される形状、色、数、位置の情報を併せ持った4つの図形画像を記憶した後、10回提示されるテスト用の図形画像について「記憶したものと同じ画像が提示されたかどうか」をボタン押しで回答しました。fMRI画像データは、大脳皮質CO2変動や呼吸パターンの影響を受けるため、Multirun ICA-FIXとAFNI's RetroTSプログラムを通して、Denoise処理を行いました。その結果、記憶想起の際にEI転移期が入り込むと、右側頭頭頂接合部(TPJa)、右中前頭回(MFG)、背内側前頭前皮質(dmPFC)で活動が低下しましたが、記憶獲得や記憶固定のときよりも有意に高い値を示しました。

これらの脳領域に関わる機能から、EI転移期は「記憶そのものというよりもAlertnessやAttentionなどの情報処理に作用すること」が考えられます。これらの結果が示しているのは、呼吸のタイミングとこれらの脳ネットワークの協調がカギとなり、それが脳機能を制御し、結果としてパフォーマンスに影響を及ぼすことが示唆されました。

研究費等の出処

・Hyogo Innovative Challenge事業(共同研究者 中村 望)
・生理学研究所共同利用研究(代表 中村 望)
・武田科学振興財団(代表 中村 望)
・科研費(15K12055 代表 越久 仁敬)

図A:「記憶課題として用いた図形を使った遅延見本合わせ課題」

図B:「再認記憶の親近性を示す指標、識別度。EI転移期(息吸う瞬間)が入り込むと識別度低下」

図C:「fMRIによる脳画像。IE転移期(息吐く瞬間)は、EI転移期(息吸う瞬間)と比べると、右側頭頭頂接合部(TPJa)で活動増加)」

今後の展望

今回の研究では、「息を吸う瞬間に、脳の中では、記憶力そのものよりも集中力が散漫になっていること」が明らかになりました。
今後、記憶力や認知力を向上させる取り組みとして、集中力を高めるためのより効果的な呼吸法について明らかにしていきたいと考えています。

掲載医学誌(予定)

発表論文情報

・論文タイトル
「Respiration-timing-dependent changes in activation of neural substrates during cognitive processes」

・著者
中村 望(※1)、福永 雅喜(※2)、山本 哲也(※2)、定藤 規弘(※2)、越久 仁敬(※1)

※1 兵庫医科大学 生理学生体機能部門 
※2 自然科学研究機構 生理学研究所 心理生理学研究部門

本リリースに関するお問い合わせ先

学校法人兵庫医科大学 総務部 広報課
TEL:0798-45-6655(直通)
FAX:0798-45-6219
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