推薦図書リスト5(2012年)

by Author NameSept 8th, 2018

「寺子屋」免疫生物学 推薦図書

教科書の外にも学びたいことは沢山あります。「寺子屋・免疫生物学」では読んでみたい本の推薦もしています。いずれも手に入りやすい本で、多くが生体防御学研究室や図書館に収められています。

国会事故調 報告書(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会:徳間書店)
「福島原子力発電所事故は終わっていない」という書き出しで始まる報告書は592ページにも及ぶ.報告書は今回の事故を「人災」であると結論したうえで、将来にむけて7つの提言をする.スリーマイル島事故やチェルノブイリ事故から多くを学んだはずの私たちが、なぜ無防備なまま3.11の日を迎えることになったのか.私たちはこれから何をなすべきなのか.私たちは、生活者として、また薬学を修める科学者として考えたい.なお、本報告書は下記からも入手できる.
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/index.html

病気はなぜ、あるのか –進化医学による新しい理解―(ネシー&ウィリアムズ著・長谷川眞理子ら訳:新曜社)
ヒトの体はよくできている.学べば学ぶほど、その精緻さに驚くばかりである.そうであるにもかかわらず、ヒトは「病気」にかかる.著者らは自然淘汰の選択圧が子孫の繁殖を促すように働くことに立脚し、進化的な「成功」と私たちの「健康」が同義ではないことをあぶり出す.ヒトの体が進化の産物であるにも関わらず、私たちは身体に潜む「進化の真意」を見過ごすことがあるように思う.私は「免疫記憶は年老いた個体を防御するためにではなく、母体の防御記憶を胎児・乳児に伝えるためにあるのだ」と看破した碩学に唸ったことを思い出す.

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた(山中伸弥・緑慎也著:講談社)
山中先生の2012年ノーベル医学生理学賞受賞を日本中が祝福したことは記憶に新しい.本書では山中先生が「iPS細胞ができるまで」と「iPS細胞にできること」を読者に語りかけるように綴っている.「人間万事塞翁が馬」「VisionとWork Hard」「プレゼン力」のお話しやiPS細胞樹立に至るドラマが率直に、そしてフェアに語られる.本当に素晴らしい.通勤の電車では英語の勉強もされているともあり、ほっとしたりもする.下記から参照できる高校生にむけた講演もお奨め.
http://ocw.kyoto-u.ac.jp/center-for-ips-cell-research-and-application-jp/02/video

私はなぜ「中国」を捨てたのか(石平著:ワック文庫)
著者の石平氏は北京大学を卒業後、神戸大学大学院に学び現在は日中関係に関する論客としてメディアでも活躍する.本書には「毛沢東の小戦士」そして「民主化運動世代」として育った著者が、中国共産党を鋭く批判し日本に帰化するに至る「心の記録」が克明に記される.著者と私(田中)は1歳違いの同世代であり、本書に記された彼の国の実相に目をみはり、改めて近くて遠い隣国であることを思い知る.彼の国での出来事には今なお議論が多いが、著者の記録には強い説得力を感じる.