腸管寄生線虫に対する宿主免疫応答の研究

一般的に蠕虫感染症ではTh2型免疫応答が優位となり、血中IgEや好酸球が増加することによって、感染に対して抵抗性を示します。
しかし、なぜTh2型になるのか、また感染によって宿主にどのような影響を及ぼしているのかは十分に解明されていません。

細菌感染の場合と同様に、細胞内寄生原虫の場合は、抗体あるは補体といった液性免疫はその防御効果を発揮できません。そのため宿主は、細胞性免疫の網を被せようとします。一方、蠕虫に感染すると一般にTh2細胞優位なアレルギー反応が誘導されます。その結果、血中あるいは局所でIgE抗体や、好酸球・好塩基球・マスト細胞の数が増加し、蠕虫の排虫が促進されます。

私たちは腸管寄生線虫の1種であるヴェネズエラ糞線虫というげっ歯類に感染する糞線虫や、Nippostrongylus brasiliensisという鉤虫の仲間を用いて寄生虫感染に対する免疫応答を研究しています。
これらの線虫は幼虫が皮膚から感染し、肺を経由して腸管に達して成虫となります。幼虫が肺を通過するときに、血管内から肺胞へ移動しますが、このときに組織を破壊するため、上皮細胞等から種々のサイトカインなどが産生されます。そのサイトカインの一つであるIL-33がグループ2自然リンパ球(ILC2)を刺激すると、この細胞は増殖してIL-5やIL-13といったTh2型サイトカインを大量に産生し、これらのサイトカインの働きで肺に好酸球を集積させるため、感染した宿主には、一過性に肺好酸球増多がみられます(Yasuda et al. PNAS 2012)

糞線虫感染によって増加したILC2は徐々にその数が減るものの肺に長期間存続し続けます。この残存ILC2の働きにより、糞線虫感染を経験したマウスは、排虫完了後2ヶ月以上経過しても、別種の腸管寄生線虫であるNippostrongylus brasiliensisの感染に対して抵抗性を示します。
その理由としては、一度感染により活性化したILC2は “メモリー” あるいは “trained” と呼ばれる状態になっており、次の活性化刺激に対して迅速かつ強力に反応することを見出しました(Yasuda et al. Front. Immunol. 2018)。そのため、感染初期から肺に好酸球が集積し、幼虫にダメージを与えているものと考えられます。このような抗原非特異的な生体防御機構は、多種の寄生虫が遷延する地域で生活するために有益な生体防御システムであると考えられます。

現在はこのメモリー様ILC2がどのように誘導されるのか、そのメカニズムについて研究を進めています。

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