肝臓部分切除後の癒着形成

肝臓がんに対する肝切除術では、ほぼ全例で術後に残存肝と近傍の消化管または膵臓との強固な癒着形成がみられます。そのため、再手術を困難にしています。さらに、生体肝移植は健康人ドナーに部分肝切除術を行いますが、術後癒着形成に伴うイレウス、胆管閉塞、腹痛が大きな問題となっています。さらに、このような術後癒着に伴う合併症と再手術に係る医療費は膨大です。
しかし、部分肝切除術後の癒着形成の発症機序と予防法の研究は全く行われていませんでした。

私たちは、先に述べたのと同様に、マウス肝臓の左葉外側部80mgをバイポーラ電気メスで用いて部分切除し、閉腹することで、1週間後に残存肝は近傍の消化管または膵臓との強固な癒着を形成するマウスモデルを確立しました。
その発症機序を解析した結果、術後腸管癒着と同様、NKT細胞欠損マウスとIFN-γ欠損マウスに加え、PAI-1欠損マウスでも癒着はほとんど認められませんでした。すなわち、肝臓部分切除後の癒着形成にも「NKT細胞—IFN-γ—PAI-1」という免疫系と血液凝固系が働いていることが判りました。さらに、HGF蛋白を術前に投与すると癒着を完全に抑制できました。
私たちは、ヒトの肝臓部分切除術でも、術後3時間目にはその断端部にNKT細胞が著明に集積し、IFN-γとPAI-1のmRNA発現が上昇していることも確認しています(Br J Surg, 2014)

現在、私たちは学内の臨床教室(外科学、内科学、放射線科学)と共同で、ヒトの肝臓部分切除術後の癒着形成の程度を超音波エコーとMRIでスコアー化する診断技術の確立と、HGFを含む癒着形成予防薬の開発を行っています。

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