L-PGDS(リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素)を介した脳の老廃物クリアランス機構と脳のホメオスタシスに関する研究
情報更新日 2025年12月26日
シーズ情報
キーワード
老廃物クリアランス、睡眠障害
分野
中枢神経系、脳梗塞、認知症
概要
脳梗塞など脳損傷では、細胞死に陥った死細胞の残骸はミクログリア/マクロファージ(MG/MΦ)によって貪食処理される。
しかし、処理能力を超える過剰な残骸が蓄積すると、脳組織の修復遅延し、神経変性疾患や認知症、眠障害など発症にも関与することが知られている。
そのため、傷害脳において老廃物を適切に処理する機構「老廃物クリアランス機構」は重要であり、脳の恒常性維持(ホメオスタシス)に不可欠である。
当部門では、この老廃物処理機構に関与する新たな分子経路として、リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)–プロスタグランジンD2(PGD2)軸に注目した。
L-PGDS-PDG2は、老廃物に対してスカベンジャー作用を有することが知られているが、そのカスケードが脳の老廃物クリアランスにいかなる作用を有するかは不明であった。
解析の結果、L-PGDSが脳虚血領域の髄膜およびペリサイトに強く発現し、PGD2産生が亢進していることを見出した。
さらに、PGD2がミクログリア/マクロファージにおけるスカベンジャー受容体CD36の発現を著明に増強させ、CD36陽性細胞が傷害領域に集積して老廃物を効率的に除去することを明らかにした(Cells, 13, 1737, 2024)。
これらの結果は、L-PGDS–PGD₂軸が脳内の老廃物クリアランスを促進する新しい分子機構であることを示すものである。本知見は、脳梗塞や認知症などの新規治療戦略の構築につながる可能性がある。
何が新しいか?
本研究では、
① L-PGDSが脳虚血領域の髄膜およびペリサイトに強発現し、PGD2産生が亢進すること、
② PGD2がミクログリア/マクロファージにおいてスカベンジャー受容体CD36の発現を著明に誘導すること、
③ CD36陽性MG/MΦが虚血領域に集積し、老廃物を効率的に貪食すること、
を明らかにした。
これらの成果により、脳梗塞後の老廃物処理と組織修復を制御する新たな分子経路として、L-PGDS–PGD₂(–CD36)軸を提唱した。
他の研究に対する優位性は何か?
ペリサイトを用いた独自のL-PGDS発現を指標としたin vitro評価系と、脳梗塞モデルマウスによるin vivo評価系を確立しており、L-PGDS–PGD2(–CD36)軸の動態を多層的に解析可能である。
また、L-PGDS作動性を示すツール化合物を取得済みで、L-PGDS活性化の生理的意義の検証に活用できる。
これらにより、脳梗塞後の修復促進や神経変性疾患治療を目指した創薬・再生医療応用への展開が可能である。
どのような課題の解決に役立つか?
脳梗塞や認知症は、高齢化社会において患者数が急増しており、QOLに深刻な影響を及ぼす疾患である。
一方、脳梗塞後の組織修復や神経回復を促す根本的治療は確立されておらず、認知症においても病態進行を抑制する有効な治療薬は限られていることから、未充足医療ニーズ(Unmet medical needs)は非常に大きい。
こうした背景のもと、老廃物クリアランスを活性化する新規分子標的に基づく治療薬の開発は、これらの課題解決に繋がる可能性がある。
他への応用・展開の可能性
L-PGDS–PGD2軸を治療標的とした新たな創薬展開が期待される。脳梗塞後の老廃物クリアランスや組織修復に関与することから、脳虚血・脳梗塞に対する新規治療標的となり得る。
また、老廃物蓄積や神経炎症に関連することから、認知症やアルツハイマー病、さらには睡眠障害などの神経疾患領域にも応用可能である。
関連する特許
発明の名称 「リポカリン型プロスタグランジンD2合成酵素産生促進剤」(JP6607655, November 1, 2019; JP7411175, December 27, 2023; TWI814760, September 11, 2023; AU2018394182, November 21, 2024);
発明者 松山知弘、中込隆之、福田有;出願人 学校法人兵庫医科大学、日本臓器製薬株式会社
研究者情報
| 氏名 | 中込 隆之 |
|---|---|
| 所属 | 医学部 先端医学研究所 神経再生研究部門 |
| 専門分野 | |
| 学内共同研究者 | 土居 亜紀子、松山 知弘 |
| 関連リンク | 講座紹介HP |
企業との協業に何を期待するか?
企業との協業により、脳虚血・脳梗塞を対象とした化合物スクリーニングや最適化、疾患モデルを用いたin vivo評価など、創薬戦略の具体化を期待している。 また、共同研究を通じて、L-PGDS軸に関わる新規機構の検証や知的財産の創出を進め、学術的・産業的価値のさらなる向上に貢献したい。
本研究の問い合わせ先
兵庫医科大学 大学事務部 研究推進課
E-mail: chizai@hyo-med.ac.jp
Tel: 0798-45-6488
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