患者さんへ | IBDの外科治療について

はじめに

Inflammatory Bowel Diseaseとは炎症性腸疾患(IBD)のことであり、一般的には潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis 以下UCと略記)とクローン病(Crohn's Disease 以下CDと略記)の2つの病気を指します。
以前は、IBDは欧米諸国に多く、日本人にはきわめてまれな病気と考えられていました。しかし、日本人の患者さんの数は年々増えており、2013年の医療受給者数はUCが155,116人( 図1 )、CDが38,271人となっています。( 図2

当科ホームページでは、炎症性腸疾患の外科治療を中心に述べさせていただきますので、検査や内科治療の詳細は当院 炎症性腸疾患内科のホームページ をご参照ください。

潰瘍性大腸炎(UC)

UCは、大腸の粘膜に慢性的な炎症が生じる原因不明の病気です。炎症が強くなると、びらんや潰瘍が出来ます。炎症は直腸から始まって口側の大腸に連続して拡がることが特徴の一つであり、病気の範囲は直腸だけに炎症が留まる直腸炎型から、大腸全体に炎症が拡がる全大腸炎型まで患者さんによってさまざまです。
症状は下痢、粘血便、腹痛、発熱などが挙げられ、炎症の程度や範囲によって異なります。経過中に症状が落ち着いた良い状態(寛解)と、悪い状態(再燃)を繰り返すことが多く、腸以外にも皮膚や関節などに合併症を伴うことがあります。 また、長期間かつ広範囲に大腸に炎症がある場合には、大腸がんが出来やすくなります。この病気は厚生労働省により特定疾患に指定されています。

UCの外科治療
手術適応

絶対的手術適応は、1: 大腸穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症 2: 重症型もしくは劇症型で強力な内科治療が無効な例 3: 大腸がんおよび、高度異型上皮、前がん病変であり、相対的手術適応は、1: 内科治療(ステロイド、免疫調節剤、血球成分除去療法など)で十分な効果がなく、日常生活が困難になるなどQOLが低下した難治例、内科的治療(ステロイド、免疫調節剤)で重症の副作用が発現、または発現する可能性のある例 2: 内科治療に抵抗する壊疽性膿皮症、小児の成長障害などの腸管外合併症例: 3: 狭窄、瘻孔、low-grade dysplasiaのうちがん合併の可能性が高い例が挙げられます。

手術術式
図3:主な術式

全結腸切除、直腸粘膜切除、J型回腸嚢肛門吻合術(Ileal J-pouch anal anastomosis :以下IPAA)と、大腸亜全摘、J型回腸嚢肛門管吻合術(Ileal J-pouch analcanal anastomosis :以下IACA)が標準術式となっています( 図3 )。一般的には、施設ごとに得意な術式を選択しているのが現状であり、どちらを選択しても大差はありませんが、発がん症例については、粘膜切除部にもがんの合併や、dysplasiaの合併の報告が増加しているため、IPAAを選択すべきであるというコンセンサスは得られています。

図4:手術計画

手術計画を、 図4 に示します。待機手術では、一般的には2期分割手術が主流ですが、条件を満たせば、1期的な手術も行っています。それぞれメリット、デメリットがあり、重要なポイントは、1期手術にこだわらず、術前と術中の状態を正確に判断し、安全な術式を選択することです。緊急手術を要する症例で、大腸穿孔を生じて腹腔内の汚染が強度の症例、著しい低栄養症例、高齢者症例などに対しては、結腸全摘術にとどめ、骨盤操作は行っていません。

術後の問題点
図5:累積Pouch機能率

肛門温存手術を行った場合、そのpouch機能率がどの程度であるかが問題となります。我々の検討ではIPAA、またはIACAを行った944例の累積10年のpouch機能率は97%、20年では89%でした。Pouchが機能しなくなった主な要因は、肛門周囲の瘻孔形成でありますが、その原因は確定診断がCrohn(クローン)病であった症例が多い。 図5 の累積Pouch機能率が現状です。

また術後に作製したpouchに炎症を生じる回腸嚢炎があります。( 図6 )発症頻度は欧米の報告よりも本邦は低く、累積10年で10~35%とされていますが、最近の問題点として、慢性持続する症例や、再燃と寛解を繰り返す、難治症例が増加しています。
その他に、術後に胃・十二指腸に潰瘍性大腸炎の病変を認め、大出血を生じる報告が増加しており、病因の解明も今後の課題です。


PAGE TOP

クローン病(CD)

CDは、消化管に慢性的な炎症が生じる原因不明の病気です。病気が起こる部位は主に小腸と大腸ですが、口から肛門まで消化管のあらゆる部位に炎症を起こす可能性があります。炎症によって腸の粘膜が腫れたり、縦長の潰瘍(縦走潰瘍)や不整型の潰瘍ができたりするのが特徴です。潰瘍性大腸炎と異なり腸の深くまで炎症が起こるために、腸が破れたり(穿孔)、腸と腸や腸と皮膚の間にトンネル(瘻孔)を作ったり、腸の外側に膿のたまりを作ったり(膿瘍)、腸が狭くなったり(狭窄)する合併症を生じる場合があります。10~20歳代の若年者に発症することが多く、良くなったり悪くなったりしながら慢性に経過します。主な症状として腹痛、下痢、発熱、体重減少、肛門病変などがありますが、消化管以外にも皮膚や関節などに合併症を伴うことがあります。長期に炎症が続く部位、特に直腸や肛門を中心にがんが出来やすくなります。この病気も厚生労働省により特定疾患に指定されています。

CDの外科治療
手術適応

狭窄で手術となる症例が最も多く、瘻孔、膿瘍、穿孔と続きます。一般的に狭窄で手術となる症例は、非穿孔型と呼ばれ、瘻孔、膿瘍、狭窄で手術となる穿孔型と比べて病気の勢いは弱いとされています。

手術術式

基本術式は、病変部腸管の切除と再建でありますが、CDは術後再発するため、最小限の切除や狭窄形成術の併用を行い、短腸症候群を防止することが重要です。肛門病変に対しては、肛門括約筋機能の温存が必要であり、seton法を活用します。

再発部位と再手術率
図7:術後1年目のCD症例の吻合部内視鏡所見

当院初回手術例の累積5年再手術率は、15%と良好です。これは手術のみならず、術後の十分な内科的治療の結果でもあります。CD症例の最も再燃・再発しやすい部位は吻合部で、多くの症例が、吻合部の口側に再燃してきます。 図7 に術後1年目のCD症例の吻合部内視鏡所見を示しました。吻合部の口側に縦走潰瘍が確認できます。このような症例でも臨床的な症状を伴うことは、ほとんどなく、炎症反応も多くの症例で陰性であります。吻合部狭窄は再手術の原因として重要ですが、最近は内視鏡的バルーン拡張も進歩しており、吻合部狭窄による再手術率は減少傾向です。

CDと発がん
図8:CD発がん症例の手術数の推移

本邦でもUCの長期経過例に発がん症例が多いことは以前より知られており、CDの発がん症例はまれであると思われていましたが、近年CDの発がん症例が増加しています。 図8 に当科での発がん症例の推移を示しました。2005年以降急激な増加を示していることがわかります。CDの発がん症例の好発部位は、欧米の報告では、右側結腸に多いと報告されていますが、本邦では難治性の直腸肛門病変に合併する発がん症例が多数を占めます。瘻孔部位の発がん症例も少数は存在しますが、20/26(77%)の症例は直腸肛門病変に合併しています。問題はCDに合併する肛門病変は、長期に渡る炎症を繰り返しているため、狭窄や、炎症性腫瘤を形成しているため、早期診断がほとんどできないことであります。また複雑痔瘻を合併している症例が多く、手術の病理検査でも断端陽性となることが多く、そのためUCに比べてCDに合併する発がん症例の予後は極めて不良で、当科の症例でも累積5年の生存率は32%です。

PAGE TOP

手術センター入り口
サイトマップ