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兵庫医科大学医学会

胸部腫瘍学(特定講座)

講座(部署)紹介

中皮腫は20世紀の大量のアスベスト消費の影響で、先進諸国においては総じて急増してきた。わが国では欧米の実感急増にやや遅れて現在疾患の発生が増え続けている状況である。21世紀初頭の疾患と呼ばれた本腫瘍の予後は極めて不良であり、早期診断法の樹立と標準的治療法の開発が世界的に求められている。本講座では、

  1. 中皮腫の早期診断に役立つ分子マーカーの開発
  2. アスベスト発癌の分子生物学的解明と発癌予防医学の確立
  3. 中皮腫細胞の発育・浸潤に対する分子生物学的解析
  4. 中皮腫の標準的治療法の確立

などの研究プロジェクトを展開している。また、肺癌や縦隔腫瘍などの他の胸部腫瘍に対しては、治療成績の向上につながる臨床的・基礎的研究を推進している。

研究の現状

概要

中皮腫および肺癌を中心とした胸部悪性腫瘍の発症・進展機構の解明とその制御を目的として、分子生物学的、細胞遺伝学的手法を用いた基礎研究に取り組んでいる。さらにトランスレーショナルリサーチを展開し、新しい分子標的の探索ならびにバイオマーカーの臨床開発を目指している。また難治性腫瘍である中皮腫に対する臨床応用可能な治療法の新規開発にも力を注いでいる。アスベスト関連疾患に関しては、アスベスト吸入による肺線維化および胸膜線維化の分子機構の解明と発症予防についての研究を行っている。

主題

  1. 文部科学省科学技術振興機構次世代がん研究(平成23年度採択、主研究機関)
  2. 悪性中皮腫のプロファイリングによる新規分子標的の同定:
    転移や再発を伴う進行がんの殆どは、依然として治療抵抗性があり、難治性がんである。また、膵癌に代表されるように、現在でも有効な治療法が無く、発見される患者の殆どが死に至る難治性癌が存在する。このような難治性癌のゲノム情報を網羅的に解析し、その情報から難治性癌と相関する新たなバイオマーカーや、難治病態を制御するための新規標的分子の同定を目的として、文部科学省科学技術振興機構推進により、次世代がん研究がなされている。具体的には、乳癌・消化器癌・肺癌・リンパ腫・卵巣癌等を対象に原発巣と転移/再発巣をペアで採取、バンキングし、全エクソンシークエンスや遺伝子発現解析等の分子プロファイリングを行い、得られた情報から転移/再発のバイオマーカー候補や分子標的薬耐性因子の探索を行うものである。当科では、悪性胸膜中皮腫を対象として、収集する検体を用いて、ゲノム全エクソンの網羅的な解析を実施することにより、悪性胸膜皮腫の発生、進展に関与するドライバー変異を明らかにし、新たな分子診断への応用を図ることを目的として研究を行っている。(愛知県がんセンターとの共同研究)
  3. 中皮腫の疾病罹患感受性規定因子の探索:
    アスベスト曝露と中皮腫発症との因果関係を解明する目的で、中皮腫未発症アスベスト曝露者を対照群として中皮腫患者との間で血液ゲノムDNAを用いた網羅的多型解析手法による遺伝子比較解析を行った。その結果ゲノムコピー数多型およびSNPsに関してそれぞれ候補遺伝子領域を抽出し得た。
  4. 中皮腫特異的バイオマーカーの探索:
    中皮腫の診断および予後予測に有用な新規バイオマーカーを探索している。現在までに血管新生因子Ang-1・VEGFおよび酸化還元に関与するチオレドキシンが、悪性胸膜中皮腫患者群の血清において、アスベスト・石綿曝露はある非中皮腫患者群や肺癌患者群と比べて有意に高値を示すこと、また診断時において血清高値の悪性胸膜中皮腫患者群は低値群と比較して有意に予後不良であることを実証した。さらに細胞実験においてAng-1が悪性胸膜中皮腫細胞の自己増殖および細胞遊走因子であることを初めて実証した。
  5. 悪性胸膜中皮腫におけるがん幹細胞の動態に関する研究:
    近年、tumor-initiating cellsとも呼ばれ自己複製能を有するがん幹細胞(Cancer stem cell, CSC)に関する報告が中皮腫を含め各がん種で相次いでおり、CSCは悪性腫揚の増殖、再発、転移に密接に関わっていると考えられている。CSCは、non-stem cancer cells(CSC 以外のがん細胞)に比べ薬剤抵抗性を示すため、CSCの存在が治療抵抗性の本質をなすものと認識されている。CSCを除去することができれば、がんの転移や再発の防止にも有用な根治的治療法の開発につながるものと期待されている。 一方、悪性中皮腫細胞の多くはInterleukin-6(IL-6)を産生し、IL-6が悪性中皮腫細胞の増殖を誘導すること及びIL-を6シグナル抑制することで増殖が阻害されることが報告されている。また、悪性中皮腫細胞には 、IL 6 経路の下流にある signal transducer and activator of transnscription 3(STAT3)が高発現していることも知られている。STAT3 シグナル伝達経路の異常発現又は活性化は多様ながん種で報告さ れており、大腸癌、 胃癌、頭頚部癌、 乳癌 、卵巣癌などではその発現状態と予後が有意に相関することが明らかになっている。また、遺伝子ターゲッティング等の手法によりSTAT3シグナル伝達経路を不活性化することでがんの増殖、生存、転移が阻害される。 以上を背景として、我々は、STAT3シグナル伝達経路を抑制することにより、CSCの自己複製及び生存が阻害されるか否かを研究している。
  6. 悪性胸膜中皮腫を対象としたAdenovirusを用いた遺伝子治療の導入:
    Adenovirusは、呼吸器疾患、胃腸炎、結膜炎、勝脱炎及び発疹の最も一般的な原因であることが知られているが、in vivoで安定であり 、伝達された遺伝子(タンパク質)の生産性が高いこと、また、Adenovirus vectorを効率よく産生出来ることからin situでのタンパク質輸送媒体として使用される。更に、Adenovirus DNA は宿主のゲノムに取り込まれないため、突然変異のリ ス ク が低い。2015 年3月時点、 世界で遺伝子治療の臨床試験が2000 件以上実施されているが、非増殖性のAdenovirusは最も広く使われているvectorである。悪性腫瘍治療の場合、Adenovirusをbaseとする遺伝子治療vectorは遺伝子導入platformとして最も広く使用され、悪性腫瘍治療に対するAdenovirus遺伝子治療は多数の臨床試験が行われており、優れた安全性が確認されている。 Ad5-SGE-REIC/Dkk-3は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」の規定に従い、 2015 年 3 月に第一種使用規程の承認を得た、ヒトREIC/Dkk-3タンパク質を発現する非増殖性遺伝子組換え5 型Adenovirusである。将来的に、悪性胸膜中皮腫に対しての承認申請が得られるであろうAd5-SGE-REIC/Dkk-3であるが、それに関連して、遺伝子治療の本学への安全な導入体制を、現在当科が構築している。
  7. 呼吸器悪性腫瘍におけるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)に関する研究:
    ヒトのがんの発症においては histone deacetylase(HDAC)活性の異常が関与していること明らかとなっており、HDAC 活性を阻害することにより、正常な遺伝子転写が回復し 腫瘍細胞の分化、アポトーシスを誘導する可能性がある。現在、肺癌、悪性胸膜中皮腫等の呼吸器疾患患者の血液や体腔液、腫瘍組織中のHDAC活性を測定し、呼吸器疾患におけるバイオマーカーとしての意義を検討する研究を行っている。

自己評価・点検及び将来の展望

希少癌である悪性胸膜中皮腫の症例が集積するため、臨床的な面では診断、治療の幅広い研究対象が豊富に存在する。同時に、基礎医学的なアプローチとして分子生物学、分子遺伝学、病理学など多角的な探索を行っている。得られた知見は専門学会および論文で多数発表している。これからも日常診療だけでなく、臨床研究・基礎研究の両面に生かし、evidence-based medicineに寄与しうる臨床研究、さらに疾患原因の解明に迫る質の高い研究を継続したい。

責任者| 長谷川 誠紀(主任教授(兼任))
専門分野:呼吸器腫瘍学(中皮腫・肺癌)、呼吸外科学、肺移植、胸腔鏡手術、呼吸器内視鏡
特任准教授| 横井 崇
TEL| 0798-45-6088
FAX| 0798-45-6783

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