グルテンフリー食とメンタルヘルスに関する研究
情報更新日 2019年12月16日
シーズ情報
キーワード
統合失調症 うつ病 グルテン グルテンフリー食 免疫
分野
中枢
概要
精神障害と栄養との関連性は以前より知られている。中でも近年、グルテン感受性と、統合失調症、うつ病や双極性障害等の気分障害、自閉スペクトラム症や注意欠如・多動性障害等の発達障害の発症機序との関連が示唆されている。グルテンとは、小麦などから生成されるタンパク質であり、うどんやパンなどの小麦加工品を作る上で重要な役割を果たしている。グルテンへの過剰な感受性は、腹痛、下痢、頭痛、頭がぼんやりする、倦怠感、抑うつ、不安等の様々な身体症状や精神症状を引き起こすことがある。今回我々は、グルテン感受性と精神疾患、身体症状の関連に着目した。
統合失調症は人口の約1%に発生する精神疾患であるが、欧米では、統合失調症患者の中にグルテン感受性を持つ者の割合が、健常対照群に比べて有意に高いことが報告されているが、それらの患者の特徴や臨床経過は明らかになっていない。我々は既に統合失調症患者の治療抵抗性とグルテン感受性が関連していることを論文報告しており、グルテンフリー食で症状の改善が見られた症例について学会報告を行っている。また、現在うつ病患者でのグルテン感受性と治療反応性について研究を始めており、治療抵抗性との関連を調査している。さらに2019年11月よりグルテン専門外来を開設し、グルテン感受性に対する診療を行っている。いずれの疾患に対しても免疫学的にグルテン感受性がある対象者に2週間のグルテンフリー食を行い、症状の変化と免疫学的変化を観察する。この結果により、薬物療法以外の安全な治療を確立することを目標としている。
何が新しいか?
- “グルテン感受性を持たない統合失調症患者”に比べて、“グルテン感受性を持つ統合失調症患者”は、抗精神病薬の投与量が多く、治療抵抗性(クロザピン以外での従来の治療では十分な効果が得られない状態)を持つ割合が高いことが明らかになった
- グルテン制限食による食事療法をグルテン感受性を持つ治療抵抗性統合失調症患者1名に行ったところ、精神症状、身体症状の改善が認められた
他の研究に対する優位性は何か?
日本での精神疾患のグルテン感受性を調べる初めての研究である。更に、グルテン感受性を持つ統合失調症、うつ病患者と臨床的背景との関連や、グルテンフリー食の精神症状に対する効果を検証する初めての試みである。統合失調症、うつ病の新たなサブタイプの同定を試みるとともに、その病理・病態の発生機序について、従来とは異なる観点から知見を加えることかが期待される。また従来の薬物を中心とした定型的な治療とは異なる、新たな治療アプローチの可能性を検証するものである。
どのような課題の解決に役立つか?
グルテン感受性を持つ統合失調症、うつ病患者の精神症状に対する、グルテンフリー食による治療効果が確立されれば、従来とは全く異なる新規治療法が明らかになる可能性がある。グルテンフリー食は、小麦関連食品を使用せずに、米飯、魚、肉や野菜といった和食で使われる食品が中心であり、安全性が確立されており、臨床応用も容易なものである。また、ハイリスク群に対する栄養指導など、統合失調症、うつ病の発症予防の点からも、極めて有益なものとなる。さらに、グルテン感受性を調べるための抗体の測定が簡便化されれば、より効率的にグルテン感受性を持つ統合失調症、うつ病患者を早期に発見することができ、グルテンフリー食という介入により、長期にわたる患者の苦痛を早期に軽減し、更に医療費も抑制することにつながると考える。
他への応用・展開の可能性
統合失調症患者以外にも、知らない間にグルテンにより身体症状や精神症状が出現している人に対する有効な治療手段の提供
関連する論文
- Elevated anti-gliadin IgG antibodies are related to treatment resistance in schizophrenia.
Motoyama M, Yamada H, Motonishi M, Matsunaga H. Compr Psychiatry. 2019 Aug;93:1-6. doi: 10.1016 - グルテン制限食が有効であった治療抵抗性統合失調症の一例. 本山美久仁,山田恒ら. 第48回日本神経精神薬理学会, 2018
研究者情報
氏名 | 山田 恒(ヤマダ ヒサシ) |
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所属 | 兵庫医科大学 精神科神経科学講座 |
専門分野 | 精神神経科学 |
リンク | 研究室HP |
学内共同研究者 | 松永寿人、本山美久仁 |
企業との協業に何を期待するか?
・血中抗グルテン抗体測定系の確立と臨床使用を目指した共同開発
・グルテン感受性と精神症状の関連に関する研究を基盤とした新規精神疾患治療薬創製での協業
本研究の問い合わせ先
兵庫医科大学 学務部 研究協力課
E-mail: chizai@hyo-med.ac.jp
Tel: 0798-45-6488