受賞

学会奨励賞を受賞しました(リハビリテーション部 瀬戸川 啓 先生)

「学会奨励賞」をリハビリテーション部 瀬戸川 啓 先生が受賞しました。

授与団体名

一般社団法人 日本運動器科学会

概要

重度変形性膝関節症(膝OA)患者における自由快適速度歩行での膝周囲筋活動、伸筋・屈筋の同時収縮、床反力波形について、健常群と比較して解析を行った。重度膝OAでは、荷重応答期における膝関節伸展筋群(内側および外側広筋)の活動量および荷重率が低下していた。重度膝OA群では、荷重応答期における適切な膝関節伸展筋群の筋活動障害を荷重率の低下によって補っていることが示唆された。

研究の背景

我が国の変形性膝関節症(以下膝OA)患者数は2530万人にも上ると推定されており、高齢者が要介護になる原因の上位に位置づけられている。このため要介護者数の増加に伴う社会的、経済的負担を低減する観点からも膝OAの発症、進行の予防は重要な課題となっている。

 膝OAの進行の要因には、加齢による膝関節の関節軟骨変性と、これに伴う関節への力学的負荷変化がある。一般に、膝関節周囲筋はOA患者の関節保護、機能維持を実現する上で重要な役割を担っていると考えられている。特に、膝関節周囲筋の同時収縮は、膝OAにおける関節不安定性に対して、荷重応力を分散し、疼痛を緩和するための代償メカニズムと考えられている。

 しかし、重度膝OA患者における歩行時の膝周囲筋活動の特徴についてはいまだ不明な点も多い。 そこで本研究では、重度膝OA患者の歩行時膝関節周囲筋活動を測定し、各筋活動と拮抗筋同士の同時収縮の特徴を解析する。また、重度膝OA患者の歩行時の荷重外力の指標である床反力波形の特徴についても解析を行った。

研究手法と成果

人工膝関節全置換術目的で入院した膝OA患者7名を対象とした(膝OA群)。Kellgren / Lawrence分類による重症度は全例4度であった。また、健常成人女性3名を対象群とした(健常群)。自由快適速度での通常平地歩行を測定動作とし、ダートフィッシュ・ソフトウェア6を用いて重複歩距離と歩行速度を算出した。

 筋活動の測定には筋電計を用い、内側広筋(VM)、外側広筋(VL)、半腱様筋(ST)、大腿二頭筋(BF)の筋活動を測定した。各筋電図測定値は歩行立脚相の最大値で除して量的正規化を行った。さらに、これらの処理を行った波形をもとに伸筋屈筋の同時収縮を示すco-contraction-index(CCI)をZeniらによる計算式により求めた。

 また、床反力計を用いて歩行立脚相における垂直分力を算出し、垂直分力の出現時期から消失時期までを立脚相と定義した。立脚相の床反力波形は体重比で量的正規化を行うとともに筋電図波形と同様に時間正規化を行った。これらのデータからSchmitzの方法を参考に、荷重応答期、立脚中期の筋電図波形の平均値を算出した。床反力波形については垂直分力が体重の80%に至るまでの所要時間から荷重率を算出し分析に用いた。

 分析項目は立脚相における荷重応答期と立脚中期の平均筋活動および平均内外側CCI、平均床反力垂直分力、歩行速度と立脚初期の荷重率とし、膝OA群と健常群とで比較した。統計学的分析は対応のないt検定を用いて比較した。 

 平均筋活動では荷重応答期において、膝OA群で有意にVMとVL筋活動の低下を認めた。一方、立脚中期では、VM、VL、ST、BFのいずれの筋活動も、OA群が有意に大きかった。

 CCIでは、荷重応答期においてOA群で低値となるものの有意差は認めなかった。これに対して、立脚中期にはOA群で有意に増大する結果となった。  床反力波形では、荷重応答期の垂直分力がOA群で有意に低値を示し、歩行速度、立脚初期の荷重率もOA群で有意に低値であった。

今後の課題

本研究では重度OA群を若年健常者と比較したが、今後、同年代の健常高齢者や軽度OA群との比較などを行う必要がある。また、関節角度や関節モーメントなどのデータも詳細に検討し、健常高齢者と軽度から重度OAとの比較を運動学および運動力学の面からも詳細に検討を行っていく必要があると考えられる。

研究費等の出処

科研費等の補助は得ておりません

掲載誌

運動器リハビリテーション26(1)、28-34、2015