受賞

「兵庫県公衆衛生協会中央研究会優秀賞」を受賞しました(歯科口腔外科 安田 恵理子)

「兵庫県公衆衛生協会中央研究会優秀賞」を歯科口腔外科 安田 恵理子 歯科医師が受賞しました。

授与団体名

兵庫県公衆衛生協会

概要

今回、優秀賞を受賞した第22回兵庫県公衆衛生協会中央研究会(主催 兵庫県公衆衛生協会 共催 兵庫県、後援 神戸市・兵庫県医師会)は、日本公衆衛生学会の母体である一般財団法人日本公衆衛生協会の活動のひとつで、各都道府県で毎年行われます。本会は、大学、研究所のみならず、広く都道府県、保健所などにおいての衛生行政や公衆衛生に関わる研究・活動報告と討議の場で、今年は平成26年11月29日(土)に兵庫県医師会館で開催されました。母子保健、学校保健、歯科保健、成人保健、老人保健、難病、感染症、結核、健康づくりというテーマで演題発表が行われ、「吹奏楽部中学生における管楽器演奏と顎関節症との関連について」という演題で発表をしました。なお、この研究は兵庫医科大学歯科口腔外科学教室において、岸本裕充主任教授、本田公亮教授の御指導下で2年間行ってきたものです。

研究の背景

管楽器演奏者に顎関節や筋肉の痛み、開口障害といった顎関節症状の発現がみられるという報告は多く、学校教育の一環として中学の部活動に吹奏楽を取り入れ、全国の中学校10557校中、全日本吹奏楽連盟に加入している中学は7192校に上り(兵庫県では391校中310校が加入)、非常に活発に活動している学校も多い現状です(平成26年9月現在)。しかし、学校歯科健診や過去の歯科関連の文献において、顎関節症と管楽器演奏の関連を調査した報告はほとんどないことから、中学吹奏楽部における実態を調査し、管楽器演奏と顎関節症の関連について検証することを目的として本研究を行いました。

研究手法と成果

 対象は、神戸市内4校の吹奏楽部に所属する中学生210名(男35名、女175名)。演奏する楽器の種類、演奏歴、練習時間、練習時の顎関節症状の自覚等についてアンケート調査を行い、顎関節症(以下TMD)と非顎関節症(以下non-TMD)との有意差を統計分析しました。更に全被験者の中から、48名(TMD24名、non-TMD24名)を対象とし、無線式筋電図測定装置(テレマイオG2 ノラクソン社 米国製)を用いて、演奏時の咬筋、側頭筋、胸鎖乳突筋、僧帽筋の表面筋電図測定を行い、解析しました。

 TMD有症率は管楽器演奏者(34.8%)が打楽器演奏者(3.8%)より有意に高い結果となりました。また管楽器の中では、リード有りの木管楽器(R+)の有症率が一番高く、続いてリード無しの木管楽器(R-)、マウスピースが小さい金管楽器(M-S)、マウスピースが大きい金管楽器(M-L)の順に、有症率が有意に高くみられましたた(χ2検定)。管楽器演奏者を対象としたTMDとnon-TMD間の比較では、女子は男子より、また練習時間の長い方が短い方より、有症率が高くオッズ比も高いことがわかりました(ロジステイック回帰分析)。また練習時における顎関節および筋症状の発現率は管楽器演奏者(42.4%)が打楽器演奏者(3.8%)より有意に高い結果がでました(χ2検定)。演奏時における各筋肉の筋電位(%MVC)を楽器間で比較すると、咬筋、側頭筋、僧帽筋、胸鎖乳突筋の全ての筋肉において、楽器間の有意差がみられました。特にM-S金管楽器の%MVCは有意に高くみられました(Kruskal-Wallis 検定およびMann-Whitney U検定)。以上のことより、中学生の管楽器演奏者のTMD有症率は高く、管楽器演奏が影響を与えている傾向が明らかとなりました。また、練習時間の長い方がTMD有症率は高く、今後、練習時間の参考になると考えられました。

 今回の結果では、特にマウスピースのリム内径が小さいM-S金管楽器は、演奏時の筋負荷が高く、また楽器の構え方から、咬筋、側頭筋だけでなく、僧帽筋、胸鎖乳突筋などの筋電位も有意に高く、顎関節症状の発現に影響していることが示唆されました。リム内径の大きいM-L金管楽器は、M-S金管楽器より筋負荷が低いことがわかりました。R+木管楽器やR-木管楽器については、有症率の高い要因が、練習時間や演奏時の筋負荷以外にもあるのか、今後、探究する必要があると考えられました。

今後の課題

管楽器はその重さ、大きさ、形状、演奏の仕方等、多種多様です。管楽器の種類による特徴や性差によるTMD発症の違いの要因について更に検証し、中学生等若年者の成長発育を考慮し、学校保健、歯科保健の観点から研究を深め、部活動等の教育にも活かせることが、今後の課題として考えられます。

掲載誌

兵庫県公衆衛生協会機関誌 「ひょうごの公衆衛生 第30号」掲載予定

表彰状