受賞

「平成24年度兵庫医科大学教員学術賞」を授与されました

「平成24年度兵庫医科大学教員学術賞」が病原微生物学 内山 良介 講師に授与されました。

概要

細胞死誘導の受容体Fasを介したアポトーシスの機序は著しく解明されてきたが、細菌感染後のFasを介した炎症性サイトカインIL-18やIL-1bの産生機序とその役割は不明である。私たちは、リステリア菌感染後に、caspase-1インフラマソーム非依存性に産生されるFas介在性のIL-18・IL-1bの重要性を証明した。Fas欠損マクロファージでは、野生型のそれに比べて、リステリア菌感染によるIL-18・IL-1b産生が低かった。リステリア菌に感染するとNK細胞がFasリガンドを発現するようになり、このFasリガンドの作用でFas発現マクロファージからのIL-18・IL-1b産生に至ることがわかった。これは、caspase-1、caspase-11に依存せず、細胞質内センサーであるNLR、特にNLRP3やNLRC4にも依存しなかった。しかし、ASCに一部依存することが判明した。リステリア菌感染後、野生型細胞ではcaspase-8の活性化が観察されたが、Fas欠損細胞では認められなかった。以上のことから、Fasシグナルはリステリア菌感染による炎症性サイトカインに関与することが証明された。

研究の背景

IL-18は、IL-12同様、病原体の感染を契機に産生・分泌される炎症性サイトカインで、病原体の早期排除で重要な役割を果たす。しかし、IL-18はIL-12と異なり、産生細胞内で翻訳されたままでは生理活性がなく、生理活性のあるIL-18として細胞外に分泌されるには、適正な酵素による切断を必要とする。エンドトキシン刺激をはじめ多くの場合、caspase-1がプロセシング酵素として重要である。共同研究者の筒井らは、1999年に、Fasを介したシグナルが、caspase-1に依存せずにマクロファージからのIL-18産生を誘導し、このIL-18が肝障害に寄与することを細胞・個体レベルで証明した (Tsutsui H.他 Immunity 1999)。しかし、細菌感染排除にこの仕組みが必要であるか、また、どのような機序でこのcaspase-1非依存性のIL-18プロセシングが起こるのか不明であった。

研究手法と成果

野生型マウス、Fas、caspase-1、NLRC4、NLRP3、ASC欠損マウス並びに、これらのマウスから分離した腹腔マクロファージを用いてリステリア菌感染実験を行った。血清並びに培養液中のサイトカイン濃度はELISA法で、細胞の遺伝子発現レベルはq-RT-PCR法で測定した。成果を列挙する。

1)Fas欠損マウスやFas欠損マクロファージは、野生型のそれと比較して、リステリア菌感染におけるIL-18/IL-b産生が低かった。
2)NK細胞がFasリガンドを発現し、Fasを発現するマクロファージからのIL-18/IL-b産生を誘導した。
3)このIL-18/IL-b産生には、caspase-1、caspase-11、NLRP3、NLRC4は不要で、ASCが部分的に必要であった。
4)リステリア菌感染で誘導されるcaspase-8活性化にはFasが必要だった。
5)リステリア菌感染によるIL-18 mRNA発現誘導には、内因性Type-I IFNが必要であった。

今後の課題

ほぼ同時期に、Fasを介したIL-1bの産生に、caspase-8が必須であることが、caspase-8欠損マウスを用いて他の研究者により証明された。この報告は私たちの今回の研究成果を補強するものである。一方、Fasを介した細胞のアポトーシスには、Fas下流のDISCを介したcaspase-8の活性化が必要である。この細胞死経路とIL-18/IL-1b産生経路がどこで分岐するのか、今後の課題である。また、caspase-1インフラマソームの構成分子であるASCが「caspase-8インフラマソーム」の活性化にどのように関与するのか、今後の研究課題となろう。

研究費等の出処

文科省科研費20790334
兵庫医科大学教員研究費(内山良介)

掲載誌

J Immunol. 2013;190:4245-4254.