男性不妊症・機能障害

そもそも不妊症とは?

結婚後の夫婦が通常頻度で避妊をせずに夫婦生活をしながら1年間妊娠に至らない場合が、「不妊症」であり、妊娠希望夫婦の10〜15%を占めます。少なくとも男性側に原因が考えられる時に男性不妊症といいます。男性側の原因とは「精液所見の異常」であることが多くを占めますが、性交障害に代表されるようにそれ以外の場合もあります。精液に異常がある場合は治療の目標も精液所見の正常化になります。

精液所見の基準値

精液所見はWHOが基準を示しており、

●精液1mlあたり精子数
:2000万以上
●運動している精子が
:50%以上
●正常形態精子が
:30%以上

必要としています。
これに準じて日本では以下のような基準値を設けています。

精液検査の基準値
精液量 2.0ml 以上
pH 702 以上
精子濃度 20×106/ml 以上
総精子量 40×106/ml 以上
精子運動率 50% 以上
精子正常形態率 15% 以上
精子生存率 75% 以上
白血球数 1×106/ml 以上

男性不妊症の原因疾患と治療法

大きな分類としては
●精子形成障害
●精路通過障害
●副性器機能異常
●性機能障害
に分けられます。

(1)精子形成障害

精子が生産されにくい状態であり精巣の機能異常といえます。
残念ながら現在においても特発性、すなわち「原因不明」の場合が最多です。
その他に以下のような場合があります。

視床下部、下垂体障害
男性ホルモン分泌の上位中枢の障害から男性ホルモンの低下をきたし精子形成に影響を与えます。

精索静脈瘤
男性不妊症の約3割を占める代表的疾患です。
左側に多く明らかなものは陰嚢内にコブ状の腫瘤を触れますが、時に疼痛で見つかることもあります。
原因は静脈弁の機能異常や左腎静脈が他の血管に挟まれたりすることで起こる
腎静脈血の左内精索静脈への逆流です。
結果として精巣温度が上昇するなどの理由で精子形成に支障をきたします。
治療法は手術(健康保険可)により逆流する血管を結紮することです。
部位によって高位結紮術、低位結紮術に分けられ、さらに腹腔鏡下にも行います。
手術後約30%に自然妊娠が期待できます。

停留精巣
片側あるいは両側の精巣が陰嚢内に下降しきっていない状態です。
やはり温度上昇などのため不妊の原因になります。
時には次に述べる無精子症となることがあります。

無精子症
精液中に全く精子が認められない状態です。
精液そのものが出ない無精液症とは異なりますので専門医の検査でしか判らないことであり、挙児のためには必ず何らかの治療が必要です。
原因は、精子形成障害と精路(精子が通る道)の閉塞に大別できます。
前者の場合には精巣内で精子が作られているかの確認のため手術を行い、精子を採取して体外受精に提供します(精巣内精子採取術,TESE)。当施設では、顕微鏡を使用した最新の手法を採用しています。
後者の場合には手術で精路の閉塞部を取り去り、精路を再開通させます(精路再建術)。
広義には、いわゆるパイプカット後の状態も無精子症であり、必要時には同様の手術で再開通させます。
これらの治療は一部健康保険対象外です。

染色体異常
代表的な疾患は、性染色体異常であるクラインフェルター症候群です。
精巣の高度の萎縮が認められることが大半です。
前述のTESEなどにより精子が確認される場合も増えており、治療法のない絶対不妊と言われていた時代は過ぎたともいえます。

(2)精路通過障害

大半の場合には前述のように無精子症となります(閉塞性無精子症)。
まれに精路の狭窄や機能的閉塞のために乏精子症(精液中の精子数が基準に満たない)を呈することもあります。
無精子症の場合には精管精管あるいは精管精巣上体吻合術などの再建術を行います。
手術が奏効すれば、精液所見は正常化し自然妊娠が期待できます。

(3)副性器機能異常

精巣上体、前立腺、精嚢などの臓器の機能不全のことであり、炎症によるものが代表的です。各々の病態に合わせた薬物療法が必要です。

(4)性機能障害

バイアグラなどの登場により最近注目されている原因です。
すなわち、精液所見に異常はないが、精子が配偶者の生殖器管に到達できない場合であり、勃起障害などの性交障害や射精障害、性欲障害があります。
当施設では、カウンセリング、薬物療法などにより個々のケースに応じた診療を実施しています。

産婦人科との連携

不妊症特に重症男性不妊症の治療には産婦人科との密接な連携が必須です。
当施設では開設初期から、原則的には自然妊娠を1次目標として、個々のケースに応じて産婦人科スタッフとの連携で顕微受精をはじめとした最先端の生殖補助医療を行っています。

男性機能障害 男性機能とは?

ヒトは、他の動物とは異なり、生殖活動以外にも性行為を行います。
この場合に基本的に性行為に必要な機能を狭義の男性機能といいます。
具体的には、
●「勃起」
●「射精」
●「性欲を中心としたリビドー」
の3者が必要となると考えられます。
したがって、それぞれに支障をきたしたときが、
◎勃起障害
◎射精障害
◎性欲障害
となります。

勃起障害

最初に、当施設で使用している問診票をご紹介します。
設問1〜5の総得点が21点以下の方は勃起障害とされていますので
希望に応じてさらにお読み下さい

1.
勃起するごとに勃起を維持する自身はどれくらいですか?
- ない

1
あまりない

2
まあまあ
ある
3
ほぼ
大丈夫
4

全く
問題ない

5

2.
性的刺激により挿入可能な勃起の硬さに常になりましたか?
性的刺激
一度もなし
全くなし
又は
ほとんどなし
1
たまに
(半分よりかなり下回る回数)
2
時々
(半分ぐらい)
3
おおかた
毎回
(半分よりかなり上回る回数)
4
毎回
又は
ほぼ毎回
5
3.
性交をするたびに常に勃起を維持することができましたか?
性交の試み
一度もなし
0
全くなし
又は
ほとんどなし
1
たまに
(半分よりかなり下回る回数)
2
時々
(半分ぐらい)
3
おおかた毎回
(半分よりかなり上回る回数)
4
毎回
又は
ほぼ毎回
5
4.
挿入して勃起を維持できた時に、勃起を維持し続けるのは困難でしたか?
性交の試み
一度もなし
0
ほとんど
困難
1
かなり
困難
2
困難
3
やや困難
4
困難でない
5
5.
いつも満足に性交できましたか?
性交の試み
一度もなし
0
全くなし
又は
ほとんどなし
1
たまに
(半分よりかなり下回る回数)
2
時々
(半分ぐらい)
3
おおかた毎回
(半分よりかなり上回る回数)
4
毎回
又は
ほぼ毎回
5
最近6ヶ月で        合計点数_____点

Erectile Dysfunctionの略すなわちEDという言葉もかなり市民権を得てきましたが、
狭義には勃起のみの障害のことです。
バイアグラなどの経口薬が発売されて以来、
それまで潜在化していた多くの患者様が受診するようになりました。
当専門外来では、バイアグラなどの薬物治療を中心に、
内服薬無効な場合や投与不可能な場合も含めて更なる治療法を行っています。

(1)勃起障害の原因

心因性、器質性に大別できます。
器質性はさらに血管性、神経性、解剖性、内分泌性に分けられます。
勃起障害の危険因子としては、

●加齢

●慢性疾患
糖尿病、心疾患、末梢血管障害、高血圧、
高脂血症、肝機能障害、うつ病、腎不全など)

●手術・外傷

●嗜好品(タバコ、酒)

●薬剤

などが考えられています。

(2)勃起障害の治療法

バイアグラやレビトラの内服が90%の有効率です。 10%の無効例には希望に応じて、プロスタグランディン製剤の陰茎海綿体注射法や それによるトレーニングを行います。 また薬物無効の原因として重症糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病が考えられますので内科との連携も必要となります。

射精障害

射精は勃起とは異なる生理現象であり、射精のみが障害される場合やEDに合併していることもあります。最も多いのが、射精時間の異常であり特に早漏が多いようです。
射出精液の量が減ってくる場合には、逆行性射精と射出障害が考えられます。
いずれも糖尿病などに合併することが知られていますし、生殖年齢では不妊症の原因になりますので治療が必要です。
逆行性射精には薬物療法に一定の効果がありますが、射出障害の治療は困難な場合があります。

性欲障害

リビドーの低下による現象です。
リビドーの低下をおこす仕組みがまだほとんど判っていないため、確立した治療法がないのが現状です。男性ホルモンの低下を認める場合にはホルモン補充が有効です。

男性更年期障害

加齢に伴う男性ホルモン低下に基づく種々の症状を呈する症候群に対して日本で用いられた名称であり、現在では「加齢男性性腺機能低下症候群」といわれています。
症状は、
●身体症状(関節・筋肉痛、発汗、睡眠障害、行動力減退など)、
●精神症状(いらいら、神経質、憂うつなど)、
●性機能症状(ヒゲの伸びの遅れ、性的能力の衰えなど)  
に分けられ、日本人に合った症状評価の質問紙として、AMSスコアがよく用いられます。
男性ホルモンの低下例ではホルモン補充が非常に有効です。

ページトップへ