研究
性ステロイドホルモン標的組織のアポトーシス
マウス子宮でのエストロゲン刺激中止後の上皮のアポトー シスは、ミトコンドリア経路によりおこる事を明らかにした。しかし、アポトーシスの開始の機構は不明である。この機構の解明のため、間質の上皮アポトーシ ス抑制因子、アポトーシス誘導因子の同定とその分泌に及ぼすエストロゲンの作用を明らかにする。
浮腫における血管透過性の制御に関する研究
血管内皮細胞のtight junctionとadheres junctionを構成する蛋白質は、血管内皮細胞の血管透過性を制御している。エストロゲンで誘導される子宮の浮腫や鼻茸で見られる浮腫の形成におけるこれらの蛋白質の関与を明らかにする。
インターロイキン18(IL-18)のがん細胞転移抑制機構
我々は、NK細胞およびT細胞の殺細胞活 性の増強による腫瘍増殖抑制効果とは無関係に、IL-18がマウス骨肉腫細胞の肺転移を抑制する事および、IL-18の肺転移抑制作用は、腫瘍細胞に対す るIL-18の直接作用ではなく、宿主細胞を介するIL-18の作用である事を明らかにした。更に、IL-18投与マウスの血清が、骨肉腫細胞や他の転移 能をもつ腫瘍細胞の遊走を抑制する事を示した。血清中に含まれるこの因子は、蛋白質と予想される。現在この因子の同定を行っている。
インターロイキン18(IL-18)によるサイトカイン療法と手術・化学療法の併用によるがんの治療法の確立
IL- 18が、腫瘍の増殖抑制、転移抑制等の多彩な抗腫瘍効果を示す事を明らかにしてきた。しかしながら、IL-18は、がん病巣が微小な時のがんの増殖抑制、 又は転移の抑制には顕著な効果を示すが、がんが大きい時には、その抗腫瘍効果は著しく弱い。従って、手術や化学療法等によるがんの治療後残存する微小がん 病巣の撲滅や転移の抑制においてこそIL-18によるサイトカイン療法は、著明な効果を発揮すると思われる。この考えに基づき、IL-18と手術、化学療 法の併用によるがんの治療方法を確立するため、担がんマウスを用いて、基礎的な検討を行っている。
細胞性免疫応答の個体差を規定する遺伝的要因に関する研究
ハンセン病患者を対象とした免疫遺伝学的研 究から、IL-12レセプターβ2鎖遺伝子(IL12RB2)制御領域に存在する特定の一塩基多型(SNPs)が、IL-12レセプターβ2の発現レベ ル、さらにはIFN-γ産生量に影響することにより、各個体の細胞性免疫応答性の違いに関与する事及びこれら遺伝子多型が及ぼす影響は、T細胞とNK細胞 では、正反対となる事を明らかにした。今後、これらSNPsの有無と、Th1/Th2バランスが病態に関与する様々な疾患における疾患感受性との相関、更 には、これらSNPsの有無によるIL12RB2遺伝子転写活性の制御の分子機構を明らかにする予定である。
歯周病が種々の炎症性疾患に及ぼす負の影響についての病理学的解析
歯周病は歯槽骨を含めた歯周組織の 破壊を伴う感染性疾患である。近年の様々な研究の結果から、歯周病が様々な他臓器疾患の発症および進行に対して負の影響を及ぼすことが明らかとなってき た。現在、歯周病が様々な他臓器炎症性疾患に対して及ぼす負の影響について免疫学的観点からの解析を行っている。
低酸素状態ががん細胞に及ぼす影響
固形がんの腫瘍塊内部は低酸素状態になっている。低酸素状態ががん細胞の免疫細胞感受性を低下させることを、ヒト骨肉腫細胞を用いて明らかにした。その分子機構を明らかにし、免疫細胞感受性の低下防止におけるHDAC inhibitorの効果を検討している。
癌免疫療法奏効率の向上
HDAC inhibitorやDNA methylation inhibitorは、in vitroにおいてヒト骨肉腫細胞の細胞増殖を抑制するとともに、その細胞膜表面に発現するFasおよびMICを増加させ、更に遊離型のFasやMICの 放出を減少させることにより、免疫細胞の骨肉腫細胞障害作用を増強する事を明らかにした。また、両薬剤の併用は、これらの効果を更に増強する事を明らかに した。今後、これらの薬剤が、in vivoでもin vitroと同様に骨肉腫細胞の免疫療法感受性を亢進させることができるか検討する。
腫瘍新生血管の抑制
HDAC inhibitorによるヒト骨肉腫細胞における腫瘍血管新生の抑制効果をvascular endothelial growth inhibitor(VEGI)に着目し解析を行っている。HDAC inhibitorは腫瘍細胞のVEGIおよびその受容体DR3の発現を増加させ、腫瘍細胞死を誘導することを明らかにした。今後、HDAC inhibitorが、血管内皮細胞にも同様に作用するか又骨肉腫細胞が産生するVEGIが血管新生を抑制するかという問題について検討する。
肝胆膵領域を中心とした人体病理
肝胆膵領域の腫瘍性疾患および炎症性疾患の病理組織学的解析を行って いる。腫瘍性疾患については、組織発生、悪性度、組織学的予後因子に関しての病理組織学的解析を中心に行っている。炎症性疾患については、各種肝炎の病理 組織学的解析を行っている。また、肝nodular regenerative hyperplasia (NRH)の発生と肝内末梢循環異常との関連性について病理組織学的解析を行っている。今後も継続してこれらの研究を進展させる予定である。
肝細胞の胆管細胞への分化
ラット脾臓に移植したラット肝細胞の一部が胆管細胞に分化する事を示し、肝細胞が胆管細胞に分化する事を証明した。ヒト肝臓では、肝炎等の肝細胞障害時に偽胆管が形成される。ラットを用いた実験的肝障害の系を用いて、偽胆管の起源を明らかにする。