スタンフォード大学留学記

私は2011年8月から2013年8月までの2年間に海外での研究留学の機会を兵庫医科大学でいただきました。
この留学記が入局を考えておられる研修医の先生方やこれから留学を考えておられる先生方の
ご参考になればという思いで医局ホームページに掲載させていただきました。
あくまでも個人的な偏った意見が多数含まれておりますのでその点をご容赦いただければ幸いです。

大学の医局に長年いると海外留学に行かれた先輩方の体験話が耳に入ってきます。
その話はどれもこれも楽しそうなものばかりです。英語が根っから嫌いな私には留学云々の前にまず言葉の壁が立ちはだかります。
海外留学なんて自分とは無縁なことだろうと思っていた折に兵庫医科大学で勤務をしていた私に留学の機会が巡ってきました。
スタンフォード大学。聞いたことはあるけれどどこにあるのか分からない。
海外留学は誰もができる経験ではないので非常にありがたいお話である一方、立ちはだかる英語の壁、そして2年間の臨床放棄。
迷っていた私の背中を垣淵教授が大きな手で優しく押してくれました
(本当はもっと多くの方々に背中を押していただいたのですが割愛させていただいております)。
大学に所属したまま長期出張という形での海外留学は本当に感謝してもしつくせない破格の待遇でした。そしていざ留学へ。

アンテロープキャニオン

私の留学先であるスタンフォード大学はアメリカの西海岸に位置し、
サンフランシスコという町から南に車で40分ほど南下したところにあります。
当大学の河合准教授が以前留学していたところでもあります。
日本の福島県と同じくらいの緯度ですが、夏は涼しく、冬は比較的暖かく、
しかも空気はいい感じで常に乾燥しており、汗かきの私には楽園のような環境でした。
またグランドサークルなど多くの国立公園やロサンゼルス、
ラスベガスなどの大都市に車でアクセスできるというのも大きな魅力です。
西海岸はアメリカの中でも多種多様な人種が生活しているためか日本人として
差別を感じたことは一度もなく、片言の英語でも何とか聞いてくれようとします。
このことは生活のセットアップや職場での働きやすさに加え、
留学についてきてくれた妻や子供にとっても非常に重要な事でした。

ブライスキャニオン国立公園 モニュメントバレー

さてスタンフォード大学形成外科についてですが、臨床班と基礎研究班が完全に分かれており、それぞれが業務を兼任することはありません。
形成外科の基礎研究部門だけで独立した2階建ての建物を所有しており、基礎研究班には4人の研究責任者(うち3人が教授)がいて、
それぞれ独立した研究室を持っております。
全ての基礎研究班を合わせると40人近くになるのではないでしょうか。私が所属するGurtnerラボには当時10人以上の研究員がいました。
研究員の出身地はアメリカ以外にドイツやオーストリア、オーストラリア、中国、インド、マレーシア、イギリス、そして日本と多国籍であり
国際色豊かなメンバーで構成されていました。
アメリカで研究留学をするためには基礎的な研究の知識や手技を身に着けているか、もしくはNativeレベルで英語が話せる必要があります。
ちなみに私以外の英語圏外から来ている研究員は全員英語ペラペラでした。

Stanford大学形成外科の研究所

英語ペラペラで研究経験ゼロの人達でも数か月でそれらしいプレゼンができるようになるのが悔しいところです。やはり言葉の壁は大きい。
ボスのGurtner教授は週一回1時間ほどのラボミーティングで研究の方向性を指示する以外は臨床業務をされております。
日本の組織構造とは異なり、Gurtner教授以下の研究員はお互いに上下関係がありません。
ピラミッド型の組織構造ではなく、トップが一人で残りは全員平社員といったところでしょうか。
Gurtnerラボに来る研究員は2~4年研究をしてから臨床に進んだり、別のラボに移ることがほとんどで不思議なことに途切れることなく
研究のバトンが受け継がれていきます。
Gurtner教授は個人の実験ペースや研究内容について細かい指示はせず、基本的に放任主義です
(英語での意思疎通がもっとできていたならばまた話は別かもしれませんが…)。
毎月1回くらいのペースで回ってくるラボミーティングでの進捗報告も何とか2年間続けることができ、
与えられたテーマである程度の区切りをつけて留学を終えることができました。
研究留学に関して言えば1年間と2年間では研究の進展に大きな差がでると思います。
大きなテーマの場合は4年以上留学される方もおられましたが、医学系のラボで研究される多くの方は2~3年の研究期間だと思います。
最初の半年は生活環境を整えたり、研究の準備などであっという間に過ぎるのでそれ以降でやっと腰を据えて研究を始めることができた印象です。
留学の受け入れ体制についてはその時の研究員の数や獲得している研究助成金によって左右されるので行きたいところに
留学に行くというのはなかなか難しいです。私の場合は非常にいいタイミングでアプライできたのだと思います。

スタンフォード大学やその界隈の企業に日本から多くの留学生やその家族が来られているので近所付き合いもほぼ日本人同士でした。
またサンフランシスコ周辺には日本語補習校や日本人街があり有用な情報を集めるのに苦労はありませんでした。
私のラボは休暇に対して比較的柔軟に対応してくれるので皆から得た有用な情報を元に2年間のアメリカ留学中に多くの国立公園や
他の都市に家族で遊びに行くことができました。
また4月のイースターや7月の独立記念日、10月のハロウィン、11月のサンクスギビングなど日本では味わえない季節行事も家族にとって
はいい生活の刺激になりました。恐らくこの家族との旅行やイベントでの体験は研究と同じくらい貴重なものであり、
日本で医者をしている限り味わえなかったと思います。家族との共有時間が日本と比べ非常に長く、
そして充実していることも留学の大きな醍醐味だと思います。
そのためには留学先の仕事の状況と留学時の家族構成は留学生活を楽しくエンジョイするための重要な因子になると思います。

San Franciscoで行われるFleet WeekでのBlue Angelsの曲芸飛行 USS Midway Museum アーチーズ国立公園 デスバレー国立公園

アメリカ留学に行く前の私は不安だらけで、自分にとって本当に留学が必要か、家族は連れて行くべきか、英語は大丈夫か、
臨床から離れて大丈夫かなどなど毎日自問自答を繰り返し、悩んでおりました。
しかし、日本と全く違う環境で生活ができたこと、日本人以外の知り合いが多くできたこと、多くの異業種の人と交流ができたこと、臨床生活から
一時的に離れることができ研究に専念できたこと、私だけでなく家族にも刺激のある人生を与えられたことは留学により得た人生の財産だと思います。
当ホームページの教授挨拶内で記載されている「私たちが目指すのはスタッフの皆さんの幸せです。」という内容にぴったりと当てはまるような
幸せで充実した2年間をいただき心より感謝しております。反省点として私の英語力が留学前とあまり変わらないことが挙げられます。
研究室の皆が僕のブロークンイングリッシュを理解し始め、僕が聞き取れるような単語を選び、ゆっくり話してくれるようになったのでその時点で
僕の英語能力は停滞してしまいました。ただ別の発想で考えるとそんな私でも2年間エンジョイできたということは
この文章を読んでおられる皆様ならもっとエンジョイできるのではないかと思います。

日本での研究内容や業績をより高めるために海外に飛び出すというのは海外留学の大義であると思いますが、
そんな大義は気にせず2年間エンジョイして、家族との留学生活を楽しんでくるようにと送り出していただいた
垣淵教授の懐の深さ、大きさによって私並びに家族の留学生活の充実がもたらされたと思います。
兵庫医科大学に入局された方が全員私と同じ経験を得られるかお約束はできませんが、
兵庫医科大学で勤務していたからこそこの貴重な経験につながったと思います。
拙文ではありますが、この留学記によって兵庫医科大学形成外科の雰囲気を少しでも感じ取っていただくことができれば、
また入局のきっかけになることがあれば幸いに思います。入局を検討されている先生方のご連絡を心よりお待ちしております。