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兵庫県医師会「医学研究賞」を受賞しました (生物学 池田啓子 主任教授)

兵庫県医師会「医学研究賞」を生物学 池田啓子 主任教授が受賞しました。


ikeda.jpg 生物学 池田啓子 主任教授

授与団体名

兵庫県医師会

概要

 ナトリウムポンプはほ乳類のほぼすべての細胞に発現し、細胞内のナトリウムイオンおよびカリウムイオン濃度を調節する生命活動に必須な能動輸送酵素である。本酵素はαおよびβのサブユニットからなる。近年次世代シークエンサー等を用いた解析の進歩により、ヒトナトリウムポンプα3サブユニット遺伝子(ATP1A3)の変異が、小児交互性片麻痺(AHC)と急性発症性ジストニアパーキンソニズム(RDP)で見つかり、原因遺伝子として同定された。AHCは孤発性で生後2-18ヶ月に発症し、片麻痺や四肢麻痺がくりかえし出現する。日本でも同遺伝子変異に基づくAHC患者がごく最近報告された。しかし脳全体の神経細胞に発現するナトリウムポンプα3サブユニットが、なぜAHCやRDPの症状(脳幹が原発の麻痺症状、ジストニア、等)をひきおこすのか等、病態基盤については、未解明のままであった。この点を明らかにするために、申請者は以下を行った。1. ナトリウムポンプα3サブユニットの特異的抗体を作成し、マウスの脳を使い、in situハイブリダイゼーション法と蛍光免疫組織法により、発現パターンを詳細に観察した。発達段階(幼少時)では、小脳や脳幹に高発現していること、興奮性細胞ではなく抑制性神経細胞に特異的に発現していることを明らかにした。2.α3サブユニット遺伝子の欠損へテロマウスを作製し、小脳のスライス標本を用いて電気生理学的解析を行った。興奮性神経伝達には変化が観察されなかったが、抑制性神経伝達が野生型に比べて有意に亢進していることが、プルキンエ細胞のパッチクランプ法を用いて秋赤になった。3. マウス個体を用いて小脳の神経回路を外的に刺激した状態にし、行動実験を行った。α3サブユニット遺伝子の欠損へテロマウスでは、小脳が原発巣であるジストニア症状が有意に多く観察された。以上の結果より、ATP1A3変異による症状は小脳・脳幹を原発巣とし、発達段階における抑制性神経回路の構築・形成異常が、ATP1A3変異による病態基盤の1つであることが明らかになった。

研究の背景

ナトリウムポンプは、1957年にskou博士が発見して以来、50年以上にわたる膨大な研究報告を有すタンパク質である。しかし最近10年間で、大きな研究の進展があった。そのうちの一つは次世代シークエンサーによる種々の神経疾患の原因遺伝子として、ナトリウムポンプのαサブユニットが同定されたことである。申請者はこれまでNaポンプα2サブユニット遺伝子のノックアウトマウスを作製し、発生異常や神経系異常の分子病態を明らかにしてきた。今回、この経験をいかし、Naポンプα3サブユニット遺伝子の欠損マウスを作成、解析を行い、α3 サブユニット遺伝子に変異がはいることにより発症する病態生理についての分子的解明を目指した。

研究手法と成果

  1. ナトリウムポンプα3サブユニットの特異的リボプローブと特異的抗体を作成した。野生型マウスの脳を用いて、in situハイブリダイゼーション法と蛍光免疫組織法により、発現パターンを詳細に観察した。発達段階(幼少時)では、小脳や脳幹に、mRNAが高発現していること、興奮性神経細胞ではなく抑制性神経細胞に特異的に発現していることを見いだした。免疫組織法にて、小脳のピンスー構造にα3サブユニットが集積しており、抑制性シナプスのマーカーである、GATと共染することがわかった。
  2. ナトリウムポンプα3サブユニット遺伝子欠損ヘテロマウス(Atp1a3+/-)を作製し、小脳のスライス標本を用いて電気生理学的解析(パッチクランプ法)を行った。平行繊維とプルキンエ細胞間、登上繊維とプルキンエ細胞間の興奮性神経伝達には、変化が観察されなかった。一方、分子層の籠細胞・星状細胞とプルキンエ細胞間の抑制性神経伝達は、野生型に比べて有意に亢進していた。
  3. 通常の飼育下や種々の行動実験下では、Atp1a3+/-にはジストニアや麻痺は観察されなかった。そのため、マウス個体を用いて小脳の神経回路を外的に刺激した状態にし、行動実験を行った。ノックアウトマウスでは、小脳が原発巣であるジストニア症状が増強していた。現在までAHCやRDP罹患者に観察される運動障害が、どこにあるのか不明であったが、モデルマウスを用いて、小脳に原発巣がある可能性を強く示唆できた。

今後の課題

モデルマウスを用いた実験として、小脳からのアウトプット、すなわち小脳核での回路の異常を、電気生理学的に詳細に解析し、さらなる病態解明を目指す。免疫電顕法にて、α3サブユニットの細胞内局在を明らかにする予定にしている。新規治療薬としての候補となる薬剤を、作成したモデルマウスを使って検証する予定もある。一方、医療従事者にむけて、AHCやRDPでは小脳症状が出ている可能性があることを周知させていただければ、と考えている。

 

研究費等の出処

加藤記念難病、科研費、等

 

掲載誌

Ikeda, K.(Corresponding Author), Satake, S., Onaka, T., Sugimoto, H., Takeda, N., Imoto, K., Kawakami, K. Enhanced inhibitory neurotransmission in the cerebellar cortex of Atp1a3-deficient heterozygous mice.
J. Physiol. 591・ 3433-3449・2013.

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