受賞

「平成24年度兵庫医科大学大学院生学術賞」を授与されました

「平成24年度兵庫医科大学大学院生学術賞」が内科学 上部消化管科 山崎 尊久 助教に授与されました。

概要

我々は食道知覚閾値が年齢によって異なるかどうかを酸による化学刺激及びBarostatによる機械的刺激を用いて検討した。またBMI、喫煙、飲酒の有無と食道知覚閾値の相関と、化学刺激と機械的刺激の両者の相関についても検討を行った。その結果、健常者における酸刺激あるいは機械的伸展刺激による食道知覚閾値は年齢とともに有意に低下し、化学感受性と機械感受性の食道知覚閾値は有意な相関を示した。

研究の背景

機能性消化管障害の解明が進むにつれ、胸やけ症状発現に深く関与している食道知覚過敏への注目が高まっている。これまで海外の報告では健常人に比べて胃食道逆流症 (GERD)患者や非びらん性逆流性食道炎 (NERD)患者は酸刺激に対して食道知覚閾値が有意に低いとの報告や機能性胸やけ (FH)患者はGERD患者やNERD患者より機械刺激に対する食道知覚閾値は有意に低いとの報告があった。さらにGERD患者の若年群は老年群より酸刺激に対して食道知覚閾値は有意に低いとの報告もある。しかし、日本人における食道知覚に関する基礎的検討は少なく、それが年齢によってどのように異なるかどうかの検討はない。

研究手法と成果

対象は、20歳から79歳の健常人30例(男/女:15/15、平均年齢49.1±16.7歳)、自己記入式アンケート(FSSG)が0~2点の者とした。また手術歴や糖尿病、高血圧もなく酸分泌抑制薬やNSAIDsなどの常用薬もないことを確認した。喫煙は本数に関係なく毎日喫煙している者を喫煙者とし、飲酒者は量に関係なく週に3日以上飲酒している者を飲酒ありとした。化学刺激は食道内圧検査で下部食道括約筋(LES)を同定し、LESより口側10cmに経鼻的にカテーテルを挿入後留置した。同部位よりまず生理食塩水を10mL/分で2分間注入し、その後、酸 (pH1.0)を10mL/分で10分間滴下し酸還流試験を行った。検査中は被験者にはヘッドフォンで音楽を聞いてもらい酸が滴下するタイミングがわからないように行った。評価方法としては、最初に胸やけや呑酸などの定型症状を自覚した時間から試験終了までの時間(T)と、試験終了時のVerbal descriptor scaleを用いた強度(I)を算出し知覚スコア:APSS (Acid Perfusion Sensitivity Score = 強度 (I) × 時間 (T)/100)を用いて評価した。APSSが高値であるほど酸に対して知覚過敏であると判断できる。

また機械的刺激に対しては食道Barostatを用いてLESより口側10cmに経鼻的に挿入、留置したバルーンを加圧していき、初めてバルーンの存在を感じる閾値:IPT (Initial Perception Threshold)、痛みを感じる閾値:PT (Pain Threshold)、不快感を伴う閾値(maximal pain)を記録し圧閾値を検討した。IPT、PT、maximal painの値が低いほど圧刺激に対して過敏であると判断した。酸刺激により影響を受けないように酸還流試験と食道Barostat試験はそれぞれ別の日に施行した。その結果、我々はAPSS、つまり酸刺激に対する知覚閾値は男女ともに年齢とともに有意に減少することを見いだした。また、圧刺激に対する知覚閾値である、IPT、PT、maximal painもそれぞれ年齢とともに有意に増大することを証明できた。さらにAPSSとIPT、APSSとPT、APSSとmaximal painも各々有意な相関を得ることができた。BMI、飲酒、喫煙の有無と食道知覚閾値の間にはそれぞれ有意な相関は認めなかった。

今後の課題

健常者において、食道酸刺激に知覚過敏な者は機械刺激にも知覚過敏であると示唆された。また過敏性腸症候群 (IBS)患者において機械刺激に対する知覚閾値は年齢とともに有意に低下するとの既報もあり、今後消化管の知覚閾値を検討する場合、年齢による影響は必ず考慮する必要があると考えられた。

掲載誌

Journal of Gastroenterology Volume 48 Number 3