研究業績
European Journal of Cancer誌 に論文が掲載されました。(外科学 下部消化管外科 講師 山野 智基)
論題
Influence of age and comorbidity on prognosis and application of adjuvant chemotherapy in elderly Japanese patients with colorectal cancer: a retrospective multicenter study
論文著者名
Tomoki Yamano, Shinichi Yamauchi, Kei Kimura, Akihito Babaya, Michiko Hamanaka, Masayoshi Kobayashi, Miki Fukumoto, Kiyoshi Tsukamoto, Masafumi Noda, Naohiro Tomita, Kenichi Sugihara; Japanese Study Group for Postoperative Follow-up of Colorectal Cancer
概要
(方法)
大腸癌フォローアップ研究会で症例登録している4598人の大腸癌患者(StageⅠ~Ⅲ、2004年~2006年)において、年齢と併存疾患の予後に与える影響を検討した。
(結果)
64歳未満:2007人(44%)、65歳~74歳:1614人(35%)、75歳以上:977人(21%)であった。年齢層により、腫瘍部位、腫瘍マーカー陽性率、臨床病期、補助療法実施率、併存疾患の重篤さを評価するチャールソンスコア、全生存率は有意な差が見られた。75歳以上のStageⅢ患者では結腸癌で35%、直腸癌で21%が補助療法を受けていたが、この割合は若年群に比べて有意に低かった。74歳以下では補助療法の実施はチャールソンスコアと相関していたが、75歳以上ではチャールソンスコアと関係していなかった。高齢者StageⅢ患者では性別、CEA値、補助療法の有無が全生存率と相関していた。
研究の背景
大腸癌患者において75歳以上の高齢者は年々増加している。大腸癌治療に関するこれまでの臨床試験では、これらの高齢者は除外されており、高齢者に関するエビデンスは乏しい。 欧米では患者の併存疾患をチャールソンスコアなどで評価して、がん患者に対する治療法選択に用いているが、本邦ではチャールソンスコアに対する認知度は低い。
そこで今回、当科も所属している大腸癌フォローアップ研究会の症例を用いて年齢・併存疾患と予後、治療法選択の関係を検討した。
研究手法と成果
レトロスペクティブな研究ではあるものの、高齢者では併存症の評価を行わずに補助療法の選択を行い、若年者では併存症の評価を行って補助療法の選択を行っていることが分かった。
これまで本邦では単施設からの併存疾患と大腸癌患者の予後を検討した報告はあるものの、多施設からの報告は本論文が最初のものである。 大腸癌治癒切除後においては、年齢・併存疾患は癌による死亡率には影響していないものの、全生存率には大きく影響していることが分かった。大腸癌治癒切除後においては併存疾患に対する加療がより重要と考えられた。
今後の課題
1.プロスペクティブに高齢大腸癌患者の併存疾患、認知度、運動能などを評価して、予後との関係を調べる研究が必要である。
2.各国によって疾患の頻度・予後に与える影響は異なっており、チャールソンスコアに代わる本邦独自の併存疾患評価法を作成する必要がある。
3.高齢者に対する補助療法の有効性を確認する臨床試験が必要である。
掲載誌
※雑誌(紙)の発行は2017年8月予定です。