広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

ワシントン大学での研修を終えて

松村 有起さん(第5学年次)

今回、ワシントン大学での海外研修に応募したことには強い理由がありました。2年前の夏、私はオックスフォード大学でのサマースクールに2週間参加しました。そのサマースクールは今回の海外研修とよく似たもので、生命倫理についての講義を受け、講義後に先生方とオックスフォード大学の学生、日本の他大学の医学生とでディスカッションを行うというものでした。当時3年生だった私は医学英単語も今ほど知らず、また日常英会話についても準備をせずにそのサマースクールに臨んでしまいました。その結果、サマースクール期間中、私は英語で発言することに対して抵抗や恥じらいがあり、自分の意見を英語で伝えることに苦しむだけでなく、些細な日常会話でさえもままならず、むなしい2週間を送ることになり、後悔の気持ちがずっと残っていました。その時の反省を踏まえて、今回は事前準備としての英語の学習に励み、研修に臨みました。
研修は日曜日のウェルカムパーティーで始まりました。これからお世話になる先生方と英語できちんと会話できるだろうか、私の思いが通じるだろうか、と不安や緊張で胸が押しつぶされそうでしたが、いざお会いして話し始めると先生方やワシントン大学の学生さんの温かい雰囲気に包まれ、自然に不安と緊張は解けました。英語で自分の考えを伝えることが難しいと感じても、自信がなくても、思いきってトライしてみようというチャレンジ精神が生まれました。月曜日から4日間は、朝から夕方まで、様々な分野における講義を受けました。講義は4 box method、臓器移植、Chaplain、オバマケアなど多岐にわたっており、それぞれの分野において著明な先生方が貴重な講義をしてくださいました。講義後にはグループディスカッションを行ったり、先生に自由に質問したりしました。アメリカでの生命倫理に対する考え方やアメリカの医療制度については日本とは異なる部分が多く、アメリカの医療をお手本にしたいと思う部分もあれば、改めて日本の医療の良さを感じることもありました。その中でも特に印象的だった講義について述べさせていただきます。  まずMcCormick先生の授業で教わった4 box methodについて、私はこの講義で初めて知り、今後私が医師として働き倫理的問題に直面したときに、とても役立つものだと実感しました。4 box methodとは、ある倫理的問題に対する様々な情報を、医学的適応(Medical Indications)・患者の意向(Patient Preference)・生命の質(Quality of Life)・周囲の状況(Contextual Features)の4つに分けて考察することで、その問題を体系的に整理することが出来るという方法です。4つのボックスのうちどのボックスを重んじるかで、患者さんに対する治療法が変わります。患者さんやその家族、また患者さんに関わる全ての医療従事者がこの4 box methodを理解していれば、患者さんと医療従事者の間に厚い信頼関係が生まれ、患者さんにとって納得のいくより良い選択を寄り添い支えることができると思いました。
2つ目に、Stephen King先生の授業で教わったChaplainという職業についても私は初めて知り、その役割や職務内容にたいへん感銘を受けました。医療におけるChaplainと”Spiritual Care”の担い手で、アメリカでは終末期医療、救急医療、小児科など幅広い分野で行われており、その対象は患者さん本人とその家族だけでなく、医療従事者にまで及びます。日本にはChaplainのような”Spiritual Care”を担う職種が病院には明らかには存在しません。日本の病院や施設においても少しずつストレスチェックを行う義務付けや、産業医によるメンタルサポートなども普及しつつありますが、ひとつの職種として存在することはなく、他職種と兼ねていることが多いように感じられます。患者や医療従事者が”Spiritual Care”によってさらに力を発揮できると考えられ、日本にもChaplainのような職種が必要であると感じました。ChaplainについてはSean Doll O’Mahoney先生からも講義を受けました。私が将来医師として働いた時に、Chaplainのように質の高い”Spiritual Care”を行えないにしても、近づくことはできないかという質問に対して、「病気の身体を治すということだけでなく、感情的な苦痛に対しても耳を傾ける。」、「折りたたみ椅子を持ち運び、まずは座る。座って話を聞いてもらうと患者さんは実際よりも長く話を聞いてもらえたように感じることができるからだ。」というアドバイスをいただきました。日本にはChaplainのような職種こそは存在しませんが、東日本大震災以降、地震で大きなSpiritual Painを受けた人が多かったことから、東北大学では臨床宗教師という職業も生まれつつあるということでした。まだ日本中に普及はしていないそうですが、この事実を知り、勉強していきたいと思いました。
また、講義だけでなく、ワシントン大学のキャンバスやワシントン大学と関連のある病院、施設をいくつか見学しました。その広大で緑の多いキャンパスには圧倒され、また清潔感があり、患者さんに寄り添うように作られた病院は優しく、癒しの空間であると同時に、自然と元気をもらえるように感じました。
施設内見学の中で最も感銘を受けたのは、Seattle Children’s Hospitalでした。この病院内にはアメリカの各地からだけでなく、世界各国からも小児患者を受け入れるために、空港から病院へ直接患者さんを搬送するためのヘリポートがありました。また病気を持つ子供が一般の健康な子供と変わりなく遊べるように、プレイルームやプールが設置されていたり、エレベーター内のライトも階によって色が変化したり、また廊下には"Forest"や”River”などの名前が付いており、その壁には活気のある可愛らしい絵が全面に描かれていました。一部の壁は子供たちの心に安心感を与えるような手触り、肌触りに工夫されていました。またこの病院内にある全てのものには理由があり、それらは全て子供達が病気であるという苦痛を自覚させるような意識を持たせないため、子供達の居心地を良くするための工夫である、そんな心のこもった環境に感動しました。
また施設見学でもう1つ驚いたことがありました。Northwest Kidney CenterのCEOであるJoyce Jacksonさんが自らセンター内を案内してくださり、彼女の話によるとアメリカでは在宅血液透析が普及しているということでした。日本では自分の生活リズムに合わせて透析を行いたい患者さんは主に腹膜透析を選択することが多い、ということを大学で教わりました。日本でも在宅血液透析を受ける人はいるそうですが、そのリスクや金銭的な問題からアメリカに比べるとその数は少ないようです。生活の質の向上や患者さんの負担を考えると、透析導入患者数が増え続ける日本でも在宅血液透析を普及させるべきではないかと考えますが、医療費の高騰や自己負担額を考えると思うようには進まないかもしれません。
このような日本では学ぶことのできない貴重な達成体験をたくさんさせていただき、最後は木曜日の夜のフェアウェルディナーにて幕を閉じました。フェアウェルディナーではお世話になったMcCormick先生、King先生をはじめとする全ての先生方に感謝の気持ちを英語のスピーチで伝えました。正直にこの研修が始まるまでは、楽しみだという気持ちよりも不安やプレッシャーの方が大きかったですが、1日1日を過ごす毎に「大丈夫、私ならできる、いよいよ面白くなってきた、希望に満ちている」と自信に変わっていきました。まだまだ医学知識は十分でなく、英語力も未熟ではありますが、もっと勉強して将来につなげたいと強く思っています。この研修が私の意志を強くし、モチベーションを上げてくれたことは間違いなく、これからの人生にも大きな影響を与えてくれるであろうと思います。
最後になりましたが、このような素晴らしい機会を私たちに与えてくださった古山先生、山西先生を始めとする枚方療育園のスタッフの方々、古瀬先生、蒲生先生、この研修に携わってくださった皆様に深く感謝申し上げると同時に、今後もさらに研鑽を積み努力することを誓います。

研修中の様子

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