広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

ワシントン大学での研修を終えて

波多野 克さん(第5学年次)

私がこのワシントン大学での生命倫理についての研修に参加した理由は、日本とアメリカの文化の違いが医療における生命倫理にどのようにかかわってくるのか興味があり、是非実際に現地で講義を受けて学びたいと考えていたからです。5日間の講義を通じて、様々な倫理が関わってくる問題についてディスカッションをしました。アメリカの講義は日本のような先生の話を聞くだけのものではなく、学生からの発言、質問や、ディスカッションにより成り立っています。初めは皆発言が少なかったのですが、4 日間の終盤には積極的に発言することで講義がより活性化し、発言することで自分の考えを整理することができたと感じました。この発言の積極性は日本での生活でも重要だと思いました。
まず、実際にうけた講義のなかで特に印象に残ったテーマの一つにアメリカでの小児緩和ケアがあります。まず、緩和ケアを受ける4つのタイプの患者がいます。「治療があるが病状が不安定である患者。」例えば、癌です。2つ目に、「治療が無いが寿命は短くない患者。」筋ジストロフィーなどで、QOLを保つために緩和ケアをうけています。3つ目に、「出生時から治療が必要となる患者」18トリソミー、先天性疾患などです。最後に、「進行はしないが弱い立場の患者」。重度の脳疾患などがこれにあたります。前2つで年に2万6千人もの患者が緩和ケアを受け、後ろ2つが50万人もの患者が緩和ケアを受けています。
次に、緩和ケアの移り変わりについてです。最初に提唱されていたモデル断後、治療を行い、途中に緩和ケアに移行。患者が死を迎えた後、家族へのBereavementを行います。この方法では、治療から緩和ケアへの移行時期の決定が難しいとされていました。治療を長く続けることで緩和ケアが不十分になる可能性があるからです。その後、カナダから提唱されたモデルは、治療を開始した時点から緩和ケアも並行して行い、徐々に緩和ケアに移り変わるというものです。そして現在行なわれているモデルは、カナダのものをベースとし、家族へのBereavementも治療と緩和ケアを行っている間から並行して実施するというものです。これは、緩和ケアとは患者だけを対象とするのではなく、その家族も対象になることを表していると考えました。
アメリカでの終末期医療は主に自宅で行われます。これは病院や施設で看取られる日本での終末期医療との大きな違いです。アメリカでも日本でも自宅で看取ってもらいたいという気持ちは同じだと思います。しかし、アメリカではホスピス制度が確立しているために44%もの人がホスピスを利用し、多くの人が自宅で最期を迎えている。それに対して、日本は90%の人が病院や施設で最期を迎えているという。本人は自宅を望んでいるのに、病院で最期を迎えなければならない理由として、高齢化による老々介護の難しさ、症状の複雑化、家族が自宅で死を感じることを恐れていること、さらに、日本とアメリカでの死に対する意識の差、などが考えられた。また、日本の高齢者は施設に入所することが当たり前になっていて、自宅で暮らす老人の減少も理由としてあると考えた。自宅での看取りを本当に終末期に望むのなら、アメリカのような自宅での看取りを支援する仕組みが必要だが、日本の現状では難しいのではと感じた。
次に、今回の研修で最も疑問、ジレンマを感じたのが尊厳死についてです。アメリカでは尊厳死については州によって方が異なり、今回はワシントン州での尊厳死について学びました。ワシントン州では、尊厳死を望む患者がいると、3回にわたる面接の後に、医師からペントバルビタールまたはセコバルビタールという薬剤を手渡され、それを実際に服薬するかどうかは患者に委ねられます。アメリカ国内でも週によって考えが異なっています。また、実際に患者へ薬を手渡したある医師は、患者が亡くなった次の日、病院へは行かず、遠くへ出かけ、何をするでもなく1日を過ごしたという。「自分がなにをしたか」を考えるためにです。日本では尊厳死は法的には認められていません。これから尊厳死が法で認められるかはわかりませんが、実際に施行した医師に対するケアも必要になってくるのではないかと感じました。
Affordable Care Act、通称オバマケア、について、実際医療を専門とする弁護士が講師を務めてくださり、現地で学べたことは意味が大きかったです。アメリカには日本での国民皆保険のようなものは存在せず、民間の保険会社に国民が自主的に加入する形式と、貧困層へは国が運営するメディケアという保険制度で成り立っていました。しかし、これでは富裕層と貧困層の間の人々が無保険として存在するという問題が残っていました。そこでオバマケアは全ての国民が保健へ加入することを義務づけました。さらに、保険加入をサポートするホームページや支援などを行いました。これでほぼすべての国民が保健へ加入することができるとされます。しかし、保険自体はまだ民間による運営であるため、保険会社の間で補償内容の差は未だ大きく開いたままです。日本では、年齢によって負担割合は変わりますが、大まかには貧困層と裕福層では補償内容は同じです。アメリカでこのような差が開いてしまったのは、貧富の差が激しいからだと考えました。
未成年の意思表示、決定についてもワシントン州での仕組みに感心しました。あるケースについてディスカッションしました。あるエホバの証人の信者である両親の未成年の娘が輸血を必要とする事態になった。両親は輸血を拒否したが、しないと娘の命は危ない状態になります。両親はもちろん娘を助けたいが、エホバの証人であるために輸血を許可することが出来ません。ここで出てきたのが、ワシントン州での未成年(自己決定権を持たない存在)の意思決定を代わりに行うという法律です。親の意思決定により未成年が命にかかわる状態のとき、裁判所を通じて代わりに意思決定を行うという法律です。これにより、エホバの証人の娘は助かることが出来ました。このストーリーを聞いて、最期に印象に残ったことが、両親は輸血によって娘が助かったことを本当に喜んでいたことです。 彼らは、輸血を拒否していたのではなく、輸血を決定することを拒否していたのだと思いました。このような、自己決定権を持たない人の決定権を裁判所が公平に判断するという仕組みは素晴らしいと感じました。
このように、ここに書きつくせないほどの有意義な講義、ディスカッションを経験することが出来ました。すべてを通じて感じたことは、宗教の有無や人種の違いはありますが、医療に対する考え、患者への向き合い方は日本もアメリカもさほど差がないということです。
最後になりましたが、このような素晴らしい研修の機会を与えてくださった枚方療育園の山西先生、団長の古山先生、McCormick先生、King先生をはじめ、すばらしい講義をしてくださった先生方に心から感謝を申し上げます。今回のワシントン大学での研修は私の人生の中で忘れられない経験となりました、本当にありがとうございました。

研修中の様子

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