広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

クロアチア留学を終えて

● 李 紘一郎さん(第5学年次)

01.jpg今回、私はクロアチアのリエカ大学産婦人科に1ヶ月間、留学に行かせて頂きました。もともとは留学などに興味は無かったのですが、大学3年次でカナダに語学留学に行った事と、産婦人科に興味があった事から今回の留学プログラムに応募しました。1ヶ月の長期留学は経験した事がなく、不安も多かったのですが、海外での医療現場を経験できる事への期待も大きいものでした。クロアチアではたくさんの方々に非常に良くして頂き、この留学をより良いものとして頂きました。日本とは異なる箇所の多かった現場でしたが、患者をより良い方法で助けるという、その意志はどこの国でも同じなのだな、と感じた事が印象的でした。
私は1ヶ月間、産婦人科で実習していたわけですが、私は主に産科の分娩フロアと妊婦検査室、産科・婦人科の手術室で実習をしていました。まずクロアチアの病院に訪れて驚いた事は、各科ごとに病院が分立している事です。きっちり1つの科につき一病院というわけではありませんが、産婦人科の場合はそれ専用の病院でした。6階建てのその病院の中に、分娩室、婦人科の診察室、そして婦人科・産科のそれぞれの病室のフロアなどに分かれています。さらにリエカでは産婦人科疾患を診る病院がここにしか無いらしく、近隣も含めてほとんどの患者が集まるそうです。
基本的な1日の流れは、朝8時の全体カンファレンスから始まります。全体カンファレンスは20分ほどで終わります。その後、婦人科・産科のそれぞれのフロアに移動してミニカンファレンス室でコーヒータイムと談笑、そして1日の行動確認が行われます。これが9時頃まで続き、そこから私は基本的にフリーになります。すぐに分娩が始まりそうなら、それを見学し、そうでなければ手術室に移動して手術見学をしていました。これを3時まで(場合によっては5時頃まで)過ごすと1日平均2〜3件ずつの分娩と手術を見学することができました。
初日に1人の医師から各フロアの説明をされ、その翌日からは基本的に【1人でしたい事を探す】というスタンスでした。どの方もとても親切で、質問すれば何でも答えてくれる優しい方々ばかりでしたが、この【1人でしたいことを探す】スタンスは、日本の実習ではあまり経験しなかったものなので非常に戸惑いました。さらに、先生方の基本的な会話は母国語(クロアチア語)です。国民全員に幼稚園から英語教育が実施されているため、どの方も高いレベルの英語を話すことができます。しかし、やはり日常会話やカンファレンスで英語は使いません。そのため、私自身英語でさえも十分なレベルでは無かったし、クロアチア語の知識など皆無でしたから言葉の壁が非常に高く感じました。その中で【1人でしたい事を探す】ことは困難でした。しかし、せっかく経験したかった海外の現場に来ているのだから、と考え、とにかく動き回り、先生の後ろに付いて行き続けました。また、先生から説明してもらった中で、わからない単語があればそれを書き出して勉強して、少しだけですがクロアチア語の勉強もしました。そうすることで、クロアチアに来て2週間が経つぐらいの頃にようやく、生活にも慣れてきました。クロアチア語で挨拶などをする事で親しみ易くなったとも思います。自分の英語に自信がなくてもとにかく何でも言ってみる、伝えようと努力することは大事であることがよく分かりました。何に興味を持っているのか伝えるだけでも実習の充実度が全く変わってくると思います。そしてそれは、程度の差こそあれ、日本でも同じなのではないかと思います。
実習は日本では経験したことのないこともあり、非常に印象的でした。挙げるとすれば、経膣触診で胎児頭蓋と胎向を確認させてもらえたこと、双子の緊急帝王切開とあまりにも巨大な子宮筋腫、子宮脱の縫縮術、人工中絶のための子宮内搔爬術、そしてポッター症候群と思われる胎児の流産でした。特に触診と中絶・流産には大きな衝撃を受けました。
触診では、恐る恐る指を膣内に入れて児頭の確認を行いました。勉強した診察の仕方を自分が実際に行い、児頭と小泉門を確認できた時の感触と感動はおそらく忘れることは無いと思います。日本でよりも早く、異国の地で先にそんな経験をした事は、少し面白くも感じ、それがこの留学の醍醐味だとも思えました。中絶では、搔爬術による流産件数はそれほど多く無いとのことでしたが、それでも必ずいると先生方はおっしゃっていました。 兵庫医科大学での実習でまだ見たことがなかった中絶術ですが、術後、先生が苦痛な表情をされていた事が印象的であったし、私もそういう気分になりました。流産に関しては、その胎児を間近で見ることもできたため、さらに衝撃は大きなものでした。産婦人科は、治療と死だけではなく、全科の中で唯一生命の誕生に関わる科だと私は思います。リエカでも赤ちゃんが誕生すれば先生、助産師、看護師までみんなで喜びます。旦那さんが付き添いに来ていれば臍帯を切断させたりもします。この点において、日本でも似ていると思えたし、そういうことに対する考えや気持ちはどこでも同じだということに気付いて嬉しく思いました。この留学で、多くの誕生と死を、その手と目で感じることが出来たことは非常に自分にとってプラスになると思います。手術に関してはほぼ毎日2件程度の子宮脱に対する縫縮術が行われていました。基本的にマンチェスター手術というものが行われていたのですが、この術式を私はまだ見たことがなく、何度も繰り返し見学しました。子宮筋腫に関しては信じられないぐらい大きなものばかりで、なぜこんなに大きいものばかりなのか質問したかったのですが、残念ながら聞けず終いであったことが悔やまれます。腹腔鏡手術も盛んに行われており、手術環境以外は特に日本と変わらないように思われました。帝王切開に関しては、15%ぐらいの割合で行われているらしく、予定帝王切開もあまり行わないとのことで、日本との違いを感じました。帝王切開に関する日本との違いで、先生方と激しく会話したことを覚えています。この手術室でも多くの先生方が親切に今行っている処置や、術後どれくらいで退院出来るかなどを解説してくださいました。
病院が分立していることは先ほど述べましたが、他にも日本と異なる点は多く存在します。例えば病室に関して、基本的にカーテンなどのベッド間を遮るものはありません。出産を終えた方達は生まれた子供と一緒にいながら、みんなで交流して過ごしています。分娩室は6つもあり、本学と比べると狭いです。手術室では患者にかける覆布や術者のガウンは使い回しします。さらにこれは、今挙げた全てに該当することなのですが、基本的に部屋のドアを閉めることは無いそうです。手術室に関してもそうです。実習当初、私はこの点について質問すると、【逆になぜ閉める必要があるのか】と質問を返されてしまいました。プライバシーについてもドアを開けていても問題無いそうで、これは単純に日本との物事に対する考え方の違いなんだ、と納得しました。前述したポッター症候群での流産の際はドアを閉めていたので、プライベートを配慮していないということは無さそうです。
留学中は、リエカ大学の医学部生も産婦人科に実習に来ていたため、その度ごとに色々な学生と交流を持つことも出来ました。彼らが最初に興味を示したのは、【なぜわざわざ日本から来たのか】ということでした。彼らにとって日本は進んだ国で、しかもとても遠いところだから、日本人がこの国に実習生として留学してくることは珍しいそうです。確かにクロアチアにはいくつものリゾート地があります。有名なアドリア海に面していて、治安もとても良く、旅行としても最高の国の1つでは無いかと思います。彼らは全く物怖じすることなく積極的に話しかけてくれました。先生による学生へのミニレクチャーを見学していても、皆自分の考えをしっかり述べます。その点は見ていて、クロアチアに来た当初、クロアチア語は全く分からず、自分の英語に自信が無いことで会話に割って入ることも出来ず、自然と無口になりかけていた私を見直させてくれる出来事であったと思います。
産婦人科に興味があったことから応募したクロアチア留学でしたが、非常に有意義な実習となりました。日本で経験していなかった内容や、自分から発言して積極的に人と関わっていくことの重要性を学びました。実習以外の場でも多くの人と関わることができたおかげで、クロアチアの歴史や文化を知ることができ、自分のことについて、違った視点から見ることができる貴重な経験をすることが出来ました。この留学の経験を今後の学生生活や、将来医師になった時に活かしていけるように勉学に励んでいきたいと思います。
最後となりましたが、このような貴重な機会を与えてくださった先生方、国際交流センターの鳥井さん、クロアチアでお世話になった方々、本当にありがとうございました。

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