広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

ワシントン大学研修に参加して

● 木戸 麻理子さん(第5学年次)

01.jpgこの度、8月8日から8月15日までの一週間、シアトル・ワシントン大学医学部における生命倫理プログラムに参加させていただきました。UWでのMcCormick先生をはじめとする多くの専門の先生方によるBioethicsに関するレクチャー、Seattle Cancer Care Alliance , NW Kidney Center , Children’s Hospitalなど様々な施設の見学、素敵な先生方との会話などを通じて生命倫理に対する考え方からアメリカの医療制度まで様々なことを学び考えることのできた貴重な時間でした。どの内容にも感銘を受けましたが、その中でも特に印象に残った内容について述べさせていただきます。

まずは、Chaplainについてです。Chaplainという職種に以前から興味があり今回の研修の中でChaplainのお話を聞くことを何よりも楽しみにしていました。Chaplainは緩和ケアを必要とする患者さんの声に耳を傾け、対話することで死に対する恐怖や絶望感などの感情を和らげ、個々の生きていく意味や価値について考え生きる喜びを与えるというスピリチュアル・ケアを行うことを専門とする職業です。私が驚いたのは、そのケアを患者さんだけでなく、残された家族や医療従事者に対しても行っているということです。患者さんを一番に考えるのはもちろんですが、医療従事者も患者さんと接する上で様々なストレスを抱えています。Chaplainの存在によりより良い医療を提供でき相乗効果を期待できるのではないかと思いました。また、私は日本では無宗教の人が多いのでChaplain制度はなじみが薄いのだと思っていました。しかし、実際にChaplainの方のお話によると、Chaplain自身は患者さんと話す時には自分の宗教観を出さないとのことでした。お話の中で特に心に残ったのが、人間は誰しも病気になって初めてspiritualityが出てきます。それにより、生きる意味や目的、人との繋がりを意識するようになるというものです。無宗教の日本でもspiritualityに関しては万国共通していると思います。現に日本人が習慣としていることは外国人から見るとspiritualなものだと感じるそうです。日本ではまだChaplain制度が一般的なものでありません。普及するにおいても時間がかかると思われます。ですが、医師、看護師をはじめとする医療従事者がこのChaplainの要素を取り入れる必要があるのではないかと思いました。

次にChildren’s Hospitalの見学とそこで行われたRoss Hays先生による小児患者に対する緩和ケアについての講義です。アメリカには小児の緩和ケアを専門に行っているホスピスがあります。小児の緩和ケアやホスピスは日本ではなかなか聞いたことがなかったため非常に興味がありました。実際に訪れてみると、子供達の喜びそうな絵が壁一面に描かれていたり可愛らしいオブジェあり施設内は明るく温かく開放的な雰囲気をまとっていました。まず、緩和ケアをうけるにおいて4つのケースに分けられます。治療法があっても成功するかわからない場合、治らないが治療によりQOLを高めることができる場合、初期段階から緩和ケアを必要とする場合、慢性的に進行する場合です。そこで、それぞれの状況に応じてどのように患者さんと向き合うべきか知るために用いられているDMT(Decision-Making Communication Tool) を学びました。これはMcCormick先生の、(1)Medical indications : 医療の情報、(2)Patient Preferences : 患者の意向、(3)Quality of life : 生活の質、(4)Contextual features : 患者さんを取り巻く背景 という4つの項目を基にしてできています。この4 box methodを患者さんに記入してもらい、現段階で患者さんが何を臨んでいるか情報を細かく分析します。この4box法の内容は患者さんの症状や治療段階により刻々と変化します。緩和ケアを必要とする患者さんやその家族と接する際、その情報をもとに患者さんの気持ちにアプローチしながら治療方針を決定していきます。実際に4boxを用いた症例解説をしてもらいました。病気の進行に伴いその内容は変化していくのですが特に(3)QOLと(4)Contextual futuresの変化の具合がとても衝撃的でした。この4 box methodを用いることで病気の進行や治療方針、患者さんの感情の変化が整理された状態で共有できるため医療者だけでなく患者さん自身も自分のことを客観的にとらえることができ冷静に判断できます。よって、DMTによってQOLを考えることで例え治療できなくても余生を充実していきていくことが可能となります。日本でも今後4box法を取り入れることでより患者さんの満足のいくようなケアができるのではないかと思いました。また、患者さんが亡くなった後の家族へのケアを無償で心理カウンセラーやチャプランが行うbereavement supportも興味深かったです。患者さんだけでなく家族も含めて、生きている時だけでなく死後も含めて緩和ケアなのだとわかりました。

02.jpg改めてこの研修に参加できたことを本当に嬉しく思います。見るもの学ぶもの全てが刺激的で驚きの連続でした。講義の最中や講義後、毎回の昼食時などにUWの先生方や学生とお話できたことを嬉しく思うと同時に自分の英会話力のなさや日本の医療についての知識のなさを痛感しました。医学知識や英語力を鍛えてより多くの方とディスカッションをしたり、コミュニケーションをとれるようになりたいと思いました。また、この研修を通じて、アメリカと日本は文化の違いや医療制度の違いはあるものの生命倫理の考えや医師のあるべき理想像においては同じなのだとわかりました。日本のより良い医療の発展のためにも視野を広げ取り入れるべきものは取り入れ柔軟に対応していくことの大切さを感じました。生命倫理の問題についてはいまだ簡単に結論を出すことはできません。ですが、このことを深く考え続けるということが大切なのだと思います。この研修で学んだことや感じたことをこれからの人生に活かしていきたいです。

最後になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださった枚方療育園の山西先生、この研修プログラムを組んでくださり引率してくださった古山先生、杏林大学の蒲先生、不安でいっぱいだった私に多くのアドバイスをしてくださった古瀬先生、すばらしい講義を準備してくださり私達を温かく迎えてくださったMcCormick先生をはじめとする先生方、見学させていただいた施設の先生方、枚方療育園の山下さん、福田さん、シアトルですばらしいガイドをしてくださったヨシコさん、通訳の方、国際交流センターの鳥井さん、一緒に研修に参加した友達、そして私達のためにこのすばらしい研修に関わってくださった全ての方に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

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