広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

シアトル研修に参加して

● 望月 嘉人さん (第5学年次)

kanemoto01.jpg私がこの研修に応募した理由の一つには、アメリカの有名な大学で授業を受けてみたい、生命倫理の発祥の地でプロフェッショナルな先生方の講義を聞いてみたいという単純な好奇心ももちろんあった。また5年生で病院実習をするようになり、患者さんと実際に接することで1つの判断をするだけでも本当に難しいことだと実感した。治療や研究などの観点から見ても、患者や医師は常に迷い、いろんな選択しなければならないと思う。将来自分が医師になり、そういう場面に直面した時に、患者さんにとって最高の選択ができるようになるヒントを少しでも発見できたらという思いで今回の研修にチャレンジした。

シアトルで、ワシントン大学で過ごした1週間は、私のこれからの人生に大きな影響をもたらすと確信している。そう言い切れるほど、何もかもに感動し、大きなインパクトを受けた。広大できれいなキャンパス、のびのびとしたUWの雰囲気、興味がそそられワクワクするような講義など、すべてが自分の想像をはるかに超えていた。そしてなにより兵庫医科大学と枚方療育園の最高の仲間と先生方と一緒にこの研修に行けたことを感謝したい。

この研修を通して、今まで自分の中になかった全く新しい考え方を得ることができたと同時に、アメリカと日本の考えや制度の違いに疑問に思う点も発見できた。そしてなにより今まで苦手意識のあった遺伝子の分野に興味が湧いた。
Dr.Malia FullertonやDr.Gail Jarvikによる遺伝子の講義は大変興味が湧き、色々考えさせられるものであった。アメリカでは日本と比べ、はるかに遺伝子検査が普及していて、より精度の高い検査が開発されている。それにより多くの人は将来自分がなりうる病気を知り、予防し、対処することができるようになった。しかし自分の遺伝子を検査することで自分の子供や親戚などにも同じ病気になるという、知りたくなかった事実が判明するという危険性をもっているし、もしその治療法が確立されていない疾患であった場合、とてつもなくショックを受けるだろう。医師はこのようなデメリットもあるということをきちんと患者さんに伝えた上で、遺伝子検査をするかしないかの選択肢を与えなければならないと思う。アメリカでは手軽にインターネット上で自分の遺伝子について調べる人が増えているが、私は実際に医師がいないところで検査結果を知ることは非常に怖いことだと思う。大きなショックを受けた患者さんの心のケアは、インターネット上でどうなされるのだろうか。このような点から、遺伝子検査の費用が安くなりたくさんの人に普及することは悪くないことだと思うが、検査の結果を伝えるのは医師であるべきだと考えた。
またもし自分の遺伝子に異常があると判明した場合多くの人は、これ以上子供は産まない、養子をもらおう、着床前診断をして子供に異常が発生するのか確認しようと考える。事前に子供の遺伝子に異常があるとわかった上で、「この子を産んでしっかりと育てよう」とするには相当な覚悟が必要であり、このことはすごく自然な流れだと理解できる。こうすることで遺伝子に異常があって発症する病気は確実に減るだろう。では現在に実際にその病気を患っている人の立場はどうなるのだろうか。例えば着床前診断により21トリソミーになる可能性があると判明し、着床させないようにすれば確実にその疾患の患者さんは減る。しかし現在21トリソミーの方はたくさんおり、家族の助けを受けながらもしっかりと社会の中で自立されている。もし21トリソミーの患者がどんどん減り珍しい疾患となったとき、その患者に対する偏見が生まれ、立場が弱くなってしまわないだろうか。アメリカには病気の人に対して差別をしてはならないというGINAという制度があるが、あまり力を発揮していない。このことから医学の進歩や技術の革新はメリットがすごく大きいが、常に生命倫理の問題がつきまとうことを覚えておかなければならないと思った。
"Genatics"の講義のなかで、全員が筋肉質の家族の遺伝子を調べ、変異を発見しそれを筋ジストロフィーの治療に役立てようとする研究についての話を聞いたが、大変興味深いものであった。この変異遺伝子はSCN4Aであり、ナトリウムチャネル開口後の不活性化機構が破綻するため、骨格筋おける静止膜電位が上昇し、脱分極しやすくなり少しの動作で頻繁に筋肉が強縮することが原因であると考えられている。この原理を筋ジストロフィーの患者に応用できれば革新的な治療になるだろう。そして私はこのようなことをほかの疾患にも応用できないのかと考えた。例えば常に直射日光ももとで生活しているようなアフリカ人の遺伝子から日光過敏症の患者の治療に生かし、南米の高地で生活している人の遺伝子から重症な貧血の患者に対する根治療法のヒントを得ることはできないだろうか。この分野を研究することは非常に価値があり、無限の可能性が広がっているように思える。ただし、このような考えを実行に移す前に、たくさんの生命倫理の問題について考え、多くのステップを確実に踏んでいくことが必要であることを忘れてはいけないと感じた。

suzuki02.jpg最後になりますが、この研修のプログラムを組んでいただいた古川先生やMcCormick先生をはじめ、すばらしい講義をしてくださった先生方、本当にありがとうございました。よしこさん、いずみさん、古瀬先生、蒲生先生に通訳をしていただき、講義内容をより深く理解することができました。本当にありがとうございました。そして枚方療育園のスタッフの方々、一緒に研修に参加した友達など、この研修に関わった全ての方に感謝します。今回の研修に参加して、生命倫理に関する知識を得ただけでなく、英語や医学に対するモチベーションもすごく上がりました。なかなかできないような体験ができ、大変濃い時間を過ごすことができました。本当に行ってよかったという感覚を言葉で表現するのは難しく、実際に行ってみないとわからないと思います。この研修のことを後輩に聞かれたときは是非参加するように勧めたいと思います。
ありがとうございました。

兵庫医科大学 〒663-8501 兵庫県西宮市武庫川町1番1号 TEL:0798-45-6111 (代)

Copyright(c) Hyogo College Of Medicine.All Rights Reserved.