広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

ワシントン大学医学研修

● 三林 聡子さん (第5学年次)

kanemoto01.jpg今回、8月9日~8月16日の日程でシアトルでのワシントン大学医学研修に参加させていただきました。ワシントン大学では、McCormick先生をはじめとする先生方から生命倫理に関する講義を受け、またSeattle Cancer Care Alliance、North West Kidney Center、Harborview Hospital、Children’s Hospital、Providence Hospice of Seattleなどの施設を見学し、1週間という日程の中で密度の濃い充実した時間を過ごすことができました。どの内容もとても興味深いものばかりだったのですが、その中でも特に心に残ったことについていくつか書かせていただきます。

まずは、Chaplain制度についてです。全人的苦痛には、身体的苦痛・精神的苦痛・社会的苦痛・霊的苦痛がありますが、その中で霊的苦痛に対処するのがChaplainの役割です。Chaplainは、緩和ケアを必要とする患者さんの声に耳を傾け、話をすることでspiritualなケアを行います。これは日本にはない制度です。このような制度が日本にないのは宗教的な基盤の違いによるものなのかと考えていたのですが、実際にChaplainの方から話をきくと、Chaplain自身は患者さんと話をするときには自分の宗教観は出さないし、また病院内にあるspiritual careの部屋も宗教色を出さないようにつくられているとのことでした。患者さんの話を聞く際には、その患者さんが持つ宗教観に合わせて対応するのだそうです。日本では自分の宗教を意識している人は少ないかもしれませんが、spiritualな部分についての認識は高いと感じます。だから日本でも、Chaplainのような存在は必要だと思うし、このような制度が広がればよいと思います。そのためには、まず、Chaplainという職業があること、そしてChaplainがどのようなことをしているのかなどを広く知ってもらうことが必要だと感じました。

 次に、アメリカでの人工透析についてです。今回研修させていただいたワシントン大学があるシアトルは、慢性腎不全患者に対する人工透析治療の発祥の地です。今回施設見学させていただいたNorth West Kidney Centerでは、人工透析の歴史や人工透析を通して生じた問題点について学ぶことができました。慢性腎不全患者に対する長期の透析は、Scribnerがシャントを開発したことで可能になりました。施設では、Scribnerが開発した透析器や、Scribner自身による最初の透析治療の説明の映像など、貴重な資料を拝見することができました。人工透析が可能になって生じた問題に、透析を必要とする人に対して設備が十分でないということがありました。このため、透析を受けることができる人を決めるための委員会が設けられましたが、これは「誰が生き残るべきか、誰が死ぬべきか」を決めるものとしても捉えることができ、このことがアメリカにおいて生命倫理が注目されるきっかけともなりました。1972年以降、透析にかかる費用は無料となり、透析を必要とする人は誰でも治療が受けることができるようになりましたが、現在では透析患者数の増加やそれに伴う医療費の増加が問題となっています。アメリカでは、日本のような皆保険制度はなく、国民は民間保険に入るか、低所得者や高齢者に対してはMedicareやMedicaidのような保険が提供されます。しかしそれでも保険料が払えない場合には、医療が受けられないこともあります。適切な時期に適切な治療を受けていれば慢性腎不全にならなかった人が、治療を受けることができず症状が進行して、その結果人工透析が必要な状態にまでなってしまったという患者さんが多くいるのではないかと考えると、より良い保険制度の見直しなどが必要なのではないかと感じられました。また、透析が必要となる患者さんには糖尿病や高血圧などの基礎疾患を持つ人や薬物中毒の人も多く、医学的な治療だけでなく疾患に対する知識などを広めることも大切なのではないかと感じました。

suzuki02.jpgEthical Issues in Pediatricsの授業では、2つのテーマについてディスカッションが行われました。ひとつは4回の予防接種が必要と言われた子どもの母親が、2回目以降の予防接種を受けさせたくないと言い出したのはなぜか、もし自分が担当医だとしたらこの母親に何を訊くか、というものであり、もうひとつは、重症の障害を抱えた新生児の両親に対して、どのような治療をすすめるか、積極的な治療は行うべきか、というものでした。ひとつめのテーマでは、母親の態度が変化したのは医学的な理由以外の問題があるのではないかということが考えられ、ふたつめのテーマでは、子どもの疾患だけでなく両親がどういう状況にあるかを認識したうえで治療方針を提示していく必要があるということが考えられました。この2つのテーマについてのディスカッションを通して学んだことは、患者さんやその家族の立場にたって考えることの大切さです。授業で取り上げられたのは小児科でのケースでしたが、これは全ての場合にあてはまることだと思います。医療者側から一方的に考えるのではなく、患者さんやその家族の気持ちになって考えることは、患者さんに最善の医療を提供するためにとても重要なのではないかと思いました。

また、今回の研修ではいくつかの施設を見学させていただきましたが、どの施設もきれいで明るく開放感があるということに驚きました。多くの施設で絵画などのアート作品が展示されており、これは日本でも同じことですが、日本でみるものよりも色調が明るく、わかりやすいテーマのものが多いという印象を受けました。より良い医療を提供するためには多方面からのアプローチが大切なのではないかということを改めて感じました。

私にとって生命倫理とは、はっきりした答えのない曖昧なものというイメージでした。だからこそ、生命倫理とは何なのかを理解したくて今回の研修に応募しました。1週間の研修でその全てを理解するのは不可能だと思いますが、今回の研修を通して、患者さんにとって最もよい選択肢を提供するためにどうすればよいのかを考えるという過程がとても重要なのではないかと感じるようになりました。今回の研修では、本当に充実した時間を過ごすことができました。この研修で得たこと、感じたことを忘れずに、これからの人生にも活かしていきたいと思います。

最後になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださった山西先生、引率してくださった古山先生、蒲生先生、古瀬先生、井窪先生、私たちをあたたかく迎えてくださったMcCormick先生をはじめとするワシントン大学の先生方、見学させていただいた施設の先生方、私たちのお世話をしてくださった山下さん、石上さん、ガイドのよしこさん、通訳のいずみさん、この研修に関わってくださった全ての方に心より感謝申し上げます。

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