広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

ワシントン大学の研修を終えて

● 松崎 三徳さん (第5学年次)

kanemoto01.jpg倫理とは、少し前の私の考えでは、誰もが納得し、それを基に治療を行えば我々は訴えられることは無く安全で、患者やその家族は仕方が無いと思ってくれる、漠然とした基準。というものでした。常識≒倫理観というイメージがあり、正直、この研修のテーマが医療倫理と聞いた時は、あまり参加したいと思いませんでした。「私を含め倫理観は皆持っているだろう(常識が無いとはよく言われますが・・・)」と考えていました。

そんな私が、ある先生に、ある治療法が倫理的に許されるのか尋ねた際に先生は「倫理的で無いという理由で、患者さんから最後の治療法を奪うことの方が僕は倫理的ではないと思う」と仰られました。その時、長い間、私が倫理観と呼んでいたものは実は私の主観でしかなかったのだと感じました。将来、入学した制度の関係で、僻地で働くことになるのですが、高齢者が多く、ターミナルケアなども必要となる中で、私は何を基準に医療を提供すべきなのか、何をどこまですべきであり、するべきではないのか、知りたいと思い、このプログラムに参加させて頂くこととなりました。

 医療を提供するに当たり、漠然とした感覚では無く、合理的な考え方が無いものかという疑問に、いきなり答えてくれたのはMcCormick先生が紹介された4box法でした。①医学的な情報 ②患者さんが何を望んでいるか ③QOL ④患者さんを取り巻く状況 という4つの項目を考慮し、患者さんの思いに沿ったケアを行うというものでした。症例として提示された少女の4つの箱の中は症状に合わせ刻々と変化し、医療を提供する者は、その時々にベストな選択をするのはとても難しいことなのだと痛感させられました。また、この4box法によって患者さんも自身を客観的にとらえることが出来るということでした。将来、判断に迷う症例に合った際に、患者さんとこの方法で情報を共有し合うことで必ずより良い結果を生むことが出来ると思います。

suzuki02.jpg先生方の授業はどれも印象的でしたが、特に、尊厳死と心のケアについての講義は特に興味深かったので、紹介させて頂きたいと思います。

ワシントンでは医師の監視の下、余命六カ月といった幾つかの基準を満たした患者さんは薬剤を用いた積極的安楽死を選択することが許されているといいます。ボートの上で、日が沈むのと同時に死にたいと望む患者さんに医師が手助けをするといった話はとても衝撃的でした。尊厳死を選択するのは白人が多く、アジア人にとても少ないと教えて頂いたため、その理由を質問したところ、アジア人は家族とのつながりが強いとのことが理由でした。それと比較して白人、特に裕福な方は自身の権利を主張する傾向があるため、安楽死も権利であると考えるとのことでした。誰かが無くなる際に、家族だけでなく、伯父さん、叔母さん、祖父母といった一族が集まり、○○が到着するまで持たせて下さい、と言った会話がなされることがあることを考えると、自身の意思に家族の考えが強く影響する日本では安楽死は定着しにくいなと納得がいきました。

また、病院にはChaplainという人々が働いており、自身の宗教とは関係なく、ホスピスなどで患者さんやその家族、また、終末期の医療を提供する医療者の心のケアを行います。それに加えて、患者さんの死後、その悲しみを癒すGrief support serviceといったプログラムあります。アメリカでは日本以上に心のケアをとても大切にしていることがよくわかりました。個人的には、医療を受けられない人が多くいるので、そちらにまず力を注ぐべきだと考えましたが、先生方は心のケアは身体のケアと同等に大切なものであると仰っていました。尊厳死の授業をして頂いたグリーン先生と最後の夕食会でお話することができ、この心のケアが日本であまり定着していないのも、尊厳死が定着していない理由である家族のつながりの強さにあるのではないかと言うお話をして頂きました。確かに、私達日本人は家族で最後の時間を大切にする傾向があり、アメリカの方と比較して、他人の介入を好まない、患者さんの死後も、お葬式、初七日、四十九日、など一族が集まり、悲しみを分け合うことで少しずつ悲しみを癒していくシステムが存在しています。しかし、今後、核家族化、高齢者の独居が増加していくことを考えると近い将来、日本でも心のケアは今まで以上に必要とされることになるかもしれません。また、自身の考えのみで、最後を選択する、尊厳死を選択するといったことも多くなるかもしれないと思いました。

その他のレクチャーも遺伝子診断や人工透析の問題など、興味深い生命倫理の問題について多く学ぶことが出来ました。普段深く倫理について考える機会が少ないため、とても貴重な経験となったと思います。今後、価値観の多様化や高齢化などから日本でも人々の最後のあり方やどの様な医療を求めるかというのは変化していくと思いますが、自分の主観に基づいた善かれと思う医療を提供するのではなく、将来は4box法など学んだことを積極的に生かし、冷静に状況を把握することで患者さんやその家族にとってより良い医療を提供することを心がけて行きたいと思います。

今回のセミナーは生命倫理の他に英語を話す良い機会ともなり、また、観光もさせて頂き、アメリカのダイナミックな文化に触れることもできました。Bhatia先生にして頂いた研究のお話もとても興味深く、次はアメリカへ研究をしに留学してみたいと考えるようになり、自身の中でとても遠く、縁のない国というイメージを変化させる研修となりました。また、同時にこのようなスケールの大きい国と競い合って研究をしている日本にも誇りを感じるようになりました。

最後になりますが、このような素晴らしい機会を下さった山西先生、お忙しい中引率して下さった古山先生、私の稚拙な質問に常に適切な解答して下さった蒲生先生、多くのアドバイスをしてくれた古瀬先生、エントリーシートを半ば無理やり出させてワシントン行きを決めさせてくれた友人、また、温かく私達を迎え入れ、素晴らしい授業をして下さったMcCormick先生を初めとするワシントン大学の先生方、そして私達のためにこの素晴らしい研修に関わって下さった全ての方に、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

 

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