広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

シアトル・ワシントン大学研修に参加して

● 金本 佑子さん (第5学年次)

kanemoto01.jpg 8日間のこのプログラムは生命倫理を学ぶことを目的に組み立てられています。
まず私がこの研修プログラムに応募しようかと思ったかというと、自分の夢をかなえるためのチャンスと思ったからです。1つ目はアメリカでアカデミックな授業をうけたいという夢をかなえるため、そして2つ目は、私が将来従事したいと夢みている緩和医療に関する勉強が凝集されているためです。

 この研修では生命倫理の起源から尊厳死、緩和ケアの実際、ホスピスケアからCancer Centerの見学など、大変充実したスケジュールでした。研修を終えた今、本当に行ってよかった、そしてもう一度現地に行きもっともっとじっくり勉強したい、そう思うような研修でした。

 私の中で何より楽しみにしていたのはCancer Care Allianceの見学、そしてChaplainさんのお話を聞くことでした。Cancer Care Allianceでは、がん患者さんの為の施設であり、すわり心地の良いソファが準備された待合室、ガラス張りの壁から見える景色、飾られたたくさんの絵、とても居心地のよさそうな空間でした。ある部屋では小児がんの患者さんがお母さんとウィッグを選んでいるような姿が見られました。抗がん剤治療によっておこる脱毛。仕方がないとわかっていても、病のつらさ・薬のつらさの上に、副作用によるいろんな苦しみが生まれてきます。その苦しみを少しでも和らげるための配慮が施設として大々的に取り組まれているのが印象的でした。またChaplainさんがいるというのも日本とは違った点です。Chaplainとは、病める人に‘Spiritual care’を施す仕事です。患者さんだけでなく、医療従事者をサポートすることも彼らの重要な役割であり、Chaplainになるためには何年も専門的な勉強を受ける必要があります。

 病気になったとき、特に完治が難しいような重い病にかかったとき、どういう感情が湧きあがってくるのでしょうか。 「何で私がこんな目に逢うんだ」「日頃の行いが悪いから病気にかかった」「仕方ない、諦めよう」「神様を怒らせてしまった」…一つの感情かもしれないし、多くの場合は複雑に絡み合っていると思います。人によってもそれぞれです。究極を言えば、当人以外にはわからない感情、言葉にするのも難しいでしょう。しかしそういった感情の持ち主を私たち医療者はケアの対象としているわけです。どうすれば少しでも苦しみを緩和できるか、支えになれるかは、心の扉を開く能力が必要です。

kanemoto02.jpg 今回複数人のChaplainの方にお話を伺うことができ、皆さんが揃って「聞くこと」 の大切さを仰っていました。「聞く」というのはとても難しいことだと思います。その人が何を思っているのか、どのようなバックグラウンドをもっているのか、心の中の声を聞くのはとても時間がかかるし、信頼関係が築けていないと難しいことです。アメリカでは、Chaplainさんが1ヶ月に300回患者さんのところへいって話を聞くこともあるそうです。それだけ時間がかかることを、日本では誰が担当して行っているのかな、と考えます。

また、「死の迎え方」の日本との文化の違いを感じました。ホスピスケアについてのお話をしていただいたのですが、ワシントン州では訪問ホスピスが盛んであり、無料で受けられるようです。1チーム7~8名程度で行動し、看護師を始め理学療法士、ソーシャルワーカー、Chaplain、グリーフケアプロバイダー、ボランティアなど、他職種で構成されています。日本でホスピスというと病院で滞在するイメージがあると思いますが、向こうでは基本的に自宅で過ごすことが多いようです。研修中には尊厳死の講義もあったのですが、ワシントン州では尊厳死が認められています。「18歳以上であり、余命6ヶ月未満と2人以上の医師から診断された人で、尊厳死を希望する人」がその対象となっています。ここでの「尊厳死」とは、「自らが決断し、医師から処方された致死性の薬を自らの手で口に入れ、命を終えること」を意味します。「対象となる条件はこれでいいのか」「医師に責任がかかりすぎでは」「そもそも、それってやっていいことなのだろうか」いろんな疑問も湧いてきました。

そんな中で、講義をしてくださった先生から、一つの症例を紹介していただきました。がんを患った男性、余命も残りわずかと診断され「夕日を背に死にたい」と 仰ったそうです。ある医師がそこに立ち会い、日が沈む30分前に男性は薬を口に含み、ちょうど夕日が沈むころに息を引き取ったそうです。ワシントン州では、そんな死の迎え方もあるのです。「死をどう迎えるか」医療が発達し、有る点で寿命をコントロールできる時代になっています。日本では行われていないことを聞けたのは、大変貴重な経験でした。

たくさんの事を考え、また自分がなぜ医師になりたいと思ったのか、医師として何を大切にしていくべきか、自分自身と向き合い改めてじっくり考える時間を過ごすことが出来ました。

 最後になりましたが、このような機会を与えてくださった山西先生をはじめ、古山先生、蒲生先生、素晴らしい授業を準備して下さったMcCormick先生をはじめとする先生方、枚方療育園の山下さん、石上さん、井窪先生、そして学内から厚いサポートをして下さった古瀬先生、鳥井さん、シアトルで素晴らしいガイドをして下さったヨシコさん、通訳のイズミさん、一緒に研修をうけたみなさん、その他この研修にご協力いただいたすべての方に心より感謝申し上げます。

 私は将来、病と共に生きる患者さん、特に完治する方法がなくいわゆる緩和ケアを中心にケアを受ける患者さんができる限り笑顔で、最期まで夢をみて過ごせるサポートがしたいと思っています。この研修で学んだことをきっかけに、新たな視点から今後も勉強を続けていく事ができると思います。本当にありがとうございました。

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