広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

ワシントン大学医学部での生命倫理プログラムに参加して

● 原田 朋佳さん (第5学年次)

kanemoto01.jpg私はこの度、8月9日から8月16日の8日間にわたって、シアトル・ワシントン大学医学部における生命倫理プログラムに参加させて頂きました。実際にこのプログラムに参加し、印象に残った講義についていくつか述べたいと思います。

まず、最も印象に残っているのはChaplain Miaによる’’Spiritual Support for Cancer’’という講義です。Chaplainという職業の存在は、今回の研修を通して初めて知りました。Chaplainとは、終末期患者さんに対してそれぞれの宗教を尊重しながら、死に対する恐怖感や絶望感、怒り、悔しさなどの感情を、対話を通して和らげ、個々の人間が生きていく意味や価値について考え、生きる喜びを与えることでスピリチュアル・ケアを行うことを専門とする職業です。Chaplainはspiritual supportを行う上で、まず患者さんの環境に目を向け、終末期の過ごし方や治療法の希望を尋ねます。患者さんは、終末期における意思決定が困難な状況でも、Chaplainがいることで重要な意思決定を行いやすくなるそうです。また、患者さんが安心した気持になることで、自然治癒力も高まっていくそうです。Chaplainとして最も重要なことは、個々を1人の人間として扱い、尊厳をもった対処を行うことであり、決して病気の人として接しているのではないと、マイヤーさんは教えて下さいました。そのような心のケアは、患者さんだけではなく患者さんの家族や医療スタッフに対しても行っているそうで、医療スタッフに対しても行っていることは驚きでした。医療スタッフも患者さんと接する上で様々なストレスを抱えるため、そのストレスにより燃え尽きてしまったり、うつ病になる人も多いからです。日本では宗教を信仰している人の数が少ないため、Chaplainとして働いている人はごくわずかであり、またChaplain制度についてほとんど認知されていません。私はこの講義を通して、Chaplainの存在をもっと日本に広めることが出来れば、患者さんやそのご家族、医療スタッフのスピリチュアル・ケアを重視した、より良い医療を提供することが可能となるのではないかと考えました。また、自分が将来医師となった際もしっかりと患者さんの話を傾聴し、尊厳を持って接していきたいと思いました。

 そして2つ目は、James Green教授による講義’’Death with Dignity Act’’です。ワシントン州では尊厳死法が認められており、私は尊厳死が実際にどのように行われているのか、非常に興味がありました。私はこの研修に参加する前は、米国における尊厳死は、単純に日本における積極的安楽死を意味しているものであると考えていましたが、実際に講義を受けて、ワシントン州における尊厳死は、患者の意思決定を一番に考えた上で行われている神聖な医療行為の1つであり、尊厳死は決して積極的安楽死と同義ではないということを理解しました。また私は、実際に尊厳死法に基づいて致死量の薬物を処方している医師は、一体どのような気持ちで処方を行っているのかについて興味がありました。James Green教授によると、実際に尊厳死に立ち会った医師は、2回目の尊厳死は行いたくないという意見を述べる者が多いそうです。それは、尊厳死には多くの時間を要すること、尊厳死法の適応の有無について何度も考える必要があること、その経験は決して楽しい経験ではないということ、などの理由によるそうです。しかし中には、患者の苦痛を取り除けたという面では役に立てたと述べる医師も存在している、とGreen教授は話していました。このように、同じ尊厳死という呼び方でも、米国と日本では全く別の概念を意味していることを理解しました。

suzuki02.jpgさらに3つ目に、Dr. McCormickによる’’Tool for Ethical Decision Making’’の講義について述べたいと思います。私たちはこの講義を通して、「4box法」というものを学びました。4box法とは倫理的な意思決定を行う際に用いられる方法で、(1)Medical Indications:医療の情報 (2)Patient Preferences:患者さんの希望 (3)Quality of life:生命の質(4)Contextual Features:患者さんを取り巻く環境(ワシントン州の法律、文化、宗教など)の4つの項目に分けて症例について考えます。また、この4box法の内容は、治療の段階により変わってきます。私たちは、この4box法を実際に用いて実際にケーススタディを行いました。すると、患者さんにその状況下でいま何が最も必要とされているかを考えることが可能となり、患者さんのQOLを最大限に高めることの出来るケアの方法を見出すことが出来ました。この4box法は、これから実際にどんどん活用していきたいと考えました。また、日本でも今後4box法を取り入れることで、無駄な治療を減らし、患者さんのQOLを高めることの出来る医療を提供することが出来るのではないかと感じました。

他にも今回の研修では先生方によるレクチャー以外に、様々な施設見学もさせて頂きました。

Northwest Kidney Centersは、世界で初めて人工透析が行われた場所であり、人工透析の歴史について教えて頂きました。実際に透析が行われている場所を見学させて頂いたのですが、そこで驚いたことは、その場に医師が1人も常在していないことでした。このNorthwest Kidney Centerでは、緊急時は看護師が判断をし、処置が必要と判断した場合のみERに要請するそうです。そのため、Northwest Kidney Centersでは、看護師の役割の重要性が日本に比べて大きい状況にあると看護師の方が話していました。

また、もうひとつ驚いたことは、米国では、透析患者に対する治療費は全額国が負担しているということでした。私はそれにより患者側に甘えが出てしまい、腎臓病を患っている人は積極的に治療しなくなるのではないかと考えました。特に、米国では糖尿病患者数が非常に多く、糖尿病性腎症の発症も非常に多いと考えます。また、米国では薬物依存を合併した腎不全患者の割合が多いことを教わり、その透析療法の無償制度には多くの問題が存在していると考えました。

4日間の研修を通して、ワシントン州では日本に比べて、患者さんやそのご家族のスピリチュアル・サポートをより重視した医療を行っている印象を受けました。日本には存在しないChaplain制度や尊厳死法、透析療法の無償制度などについても実際に目にすることで、自分の視野を広げることが出来ました。また、米国には国民皆保険制度は存在せず、病気にかかってもすぐに診察や治療を受けられる状況にはないので、日本の国民皆保険制度は素晴らしいものだということを再認識することが出来ました

また、ワシントン大学の講義の中では常にディスカッションを行うことで、普段知ることの出来ない他人の考え方を知ることが出来、自分だったらどう考えるだろうか、と生命倫理の問題について深く考える良い機会となりました。同時に、自分の英会話力の無さを痛感する良い機会でもありました。これから頑張って英語を勉強していきたいと強く感じました。将来、患者さんの心に寄り添える立派な医師となるために、この研修で学んだことを活かして日々励んでいきたいと思います。

最後になりましたが、今回このような貴重な機会を与えて下さった枚方療育園の山西先生、引率して下さった古山先生、蒲生先生、古瀬先生、井窪先生、山下さん、石上さん、通訳のいずみさん、ガイドのよしこさん、そして私達を温かく迎えて下さったMcCormick先生をはじめとするワシントン大学の先生方に心から感謝申し上げます。本当に有難うございました。

 

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