広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

シアトルワシントン大学研修を終えて

● 横山 浩子さん (第5学年次)

8月10日から17日の一週間、シアトルワシントン大学で生命倫理について勉強させて頂きました。勉強も観光もしっかりでき、密度の濃い時間を過ごすことができたと思います。倫理という分野は漠然としていてとても難しく感じますが、今回の研修では多方面からアプローチすることができ、考えるプロセスを学ぶことができました。同時にワシントン大学はキャンパスや図書館がとても広く、その規模に日本との違いを感じる部分もありました。講義を毎日受け、どれも興味深い内容ばかりでした。中でも印象に残ったことを二つ挙げます。

 一つは、death of dignityの講義です。アメリカの4州では尊厳死が認められています。その講義の中で患者は自ら薬を飲んで死に至るというお話に私は興味を持ちました。まず、これは日本での積極的安楽死に当たりますが、条件を満たす患者であればそれが認められていることに驚きました。そして患者自身が自らの手で死に至るというのはどのような感覚なのか疑問に思いました。苦しみから解放される喜びなのか、苦しみから解放されるとは言え人生を終えることに対する悲しみなのか、これを質問したところ、「患者は薬を飲む直前は幸せである。家族に囲まれ好きな音楽をかけ、痛みや苦痛から解放される。」と教えて頂きました。自ら死んでいく人間に寄り添うことは想像を超えた状況であり、共感という気持ちを持つことはできないと思っていましたが、実際はどのような現場であり患者はどのような心境なのか知ることができました。ここでは、死に対する恐れや悲しみよりも、今の苦痛から解放される事の方が重視されているのです。では尊厳死の判断をした医師はどうなるのでしょう。医師は苦しむと思います。本来助ける立場にあるはずなのに、患者のためを以ってすることであっても命を奪うことに変わりないからです。医師の役割、患者の尊重、倫理学の概念を考えるとどこかで矛盾が生じていると思います。この判断にはおそらく正解など無いのでしょう。ただ、他者と向き合い、自己と向き合い、時には苦しみ、結果を受け入れる、これを繰り返すことでその状況にふさわしい判断とするしかないと思います。積極的安楽死が認められているからこそ考えさせられました。

二つ目は、Children’s Hospitalの見学です。アメリカでは小児の緩和ケアを専門に行っているホスピスがあります。ホスピスは、末期の患者を扱いなんとなく暗いイメージを持っていましたが、実際に訪れてみてその環境は全く異なるものでした。施設の中は明るい雰囲気で、子供たちの喜びそうなオブジェがあり開けた空間でした。楽しそうでありながら落ち着くことのできる雰囲気でした。緩和ケアを行う病気は4つのタイプに分けられます。治療はできるが成功するかわからないもの、治らないが治療により余命を伸ばしQOLを高めることができるもの、初期から緩和ケアを必要とするもの、慢性的に進行するものです。患者との向き合い方はそれぞれの場合において異なります。ここでは、その状況に対応するツールであるDecision-Making Communicate Toolを学びました。この方法はワシントン大学で発祥したそうです。Medical indications、Patient preferences、QOL、Contextual featuresという4つの項目に分けて患者に質問し情報の収集を行います。これを基にして、緩和ケアを必要とする患者やその家族と接する時、状況を細かく分析しながら患者の気持ちにアプローチしていきます。症例をもとに解説してもらいましたが、患者や家族の心境の変化だけでなく、治療の効果から方針の移り変わりも分かり易くなり、医療者側の情報の整理にもとても役立つと感じました。子供は年齢によって理解度が異なり、そのたびに意思疎通の取り方も異なります。小児科は成長に合わせて病気を伝えることや予後の予測は難しいのが特徴です。先生は、子供は大人以上に感じる能力がある、前向きに病気と向き合うことができるので決してごまかしはしないと仰っていました。私は小児科に興味があり、この見学を楽しみにしていました。日本では小児専門の緩和ケアホスピスはまだ多くありません。日本でもこのような施設が増えて欲しいです。

4日間の講義ではspiritualをテーマに考える機会が何度かありました。私たちが習慣としている行動は外国人から見るととてもspiritualなものだと感じる、と聞いた時日本人という国民性を客観的にみることができました。教育として教えられた訳ではなく先祖から自然に受け継がれてきた習慣について普段考える機会はあまりありませんが、それは実は当たり前のことではなく日本人という国民を形作っていると改めて感じまして。他にも患者のspiritual careを行うchaplainという存在や、アメリカでは透析が無料で受けられること、医療をビジネスとして捉える考えがあること、在宅ケアにおける多職種からなる医療チームのことなど、この研修に参加したからこそ新しく学んだことがたくさんあります。生命倫理の考えの根底にあるものは日本もアメリカも同じであるが、提供される医療やその制度には違いがあると分かりました。文化の違いも感じました。常に日本と比較しながら、日本でまだ取り入れられていないものが取り入れられるようになり、日本の医療がよりよくなるよう貢献したいと思いました。そして国を超えて勉強することの大切さを感じました。

最後になりましたが、このような研修の機会を与えてくださった山西先生、引率して下さった古山先生、蒲生先生ご夫妻、野口先生、古瀬先生、スタッフの方々、そして私たちを迎えて下さったMcCormick先生をはじめとするワシントン大学の先生方、施設の先生方に感謝の気持ちでいっぱいです。この経験を活かせるよう日々励んでまいります。

 

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