広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

シアトル研修を終えて

● 夏秋 愛さん (第5学年次)

今回、8/10~8/17までの8日間にわたって、シアトルのワシントン大学にてDr. McCormickをはじめとする多くの先生方から講義をしていただきました。また、Fred Hutchinson Cancer Research Center、Harborview Medical Center、NW Kidney Center、Children’s Hospitalなどたくさんの施設を見学し、それぞれの施設でもミニレクチャーを受けていく中で、アメリカの医療制度から医療及び生命倫理に対する考え方まで、多くの問題を考えるきっかけとなりました。

 まず印象的だったのは、NW Kidney Center を訪れた時のCenterのPresidentであるJoyce Jackson氏と、Dr. Kellyから講義を受けた時のことです。透析が世界で初めて行われたのは今から約50年前の1962年です。そして、透析医療の第一人者であるDr. Scribnerが透析医療を無料にするよう議会に懇願し法案が通ったところから透析医療無償化の歴史が始まりした。現在もアメリカでは透析医療は無料です。日本と違い、国民皆保険制度ではなく、医療は権利ではなくビジネスであるといった考え方のアメリカで人工透析という高度な医療が無料であることに対して私は非常に驚きました。そして、もう一つ驚いたことはBioethicsという概念がここから生まれたということです。透析が無償化された当時は人工透析器がたった9台しかなかったそうです。慢性腎不全で透析医療を受けたい患者がたくさんいる中で、そこで、いったい誰が透析を受けることができ、誰が受けられずに死ぬのか、命の価値は誰にも決めることができないのにどうすれば良いのかといった思想からBioethicsという概念が広がっていったのです。

次に印象に残ったのは、Harborview Medical Centerを訪れ、Julie Hanada氏の“Spiritual Care”の話を聞いたことです。みんなで輪になってお互いの顔が見えるように座りHanada氏は一人ひとりに話しかけるようにお話してくださいました。彼女はChaplainという宗教的な支えを必要とする患者や家族への精神的サポート行う牧師に準じた資格を持っており、Chaplainはベッドサイドで患者の話を傾聴したり病院で亡くなった人の家族に付き添ったり、痛みや不安に苦しむ人のために祈ることや様々なSpiritual Careを行っています。彼女は、日本人の心遣いはとてもSpiritualなことだと言っていました。私たちが、彼女がすごいと思った気遣いを、して当然と思っていると言うと「当たり前と思えていることが本当にspiritualだ。自分を褒めてあげて。そしてその精神をぜひ大事にしてほしい。」と言われました。日本の文化、精神性、思想が海外とはやはり違うのだと感じました。しかし、私はその気遣い、心遣いこそ医療に不可欠ではないかと考えていますし、また、これからもこの心を忘れず医療に携わろうと思いました。

もう一つ、私の心に残った講義はDr. Jim Greenの“Washington’s Death With Dignity”です。Death With Dignityを日本語に訳すと尊厳死となりますが、アメリカでの尊厳死とはいわゆる積極的安楽死(本人の自発的意志を前提として一定の条件を満たした場合、医師が薬物などを投与し死に至らしめること) であり、日本では法律で認められていません。また、アメリカでもすべての州で尊厳死が認められているわけではなく、1994年にオレゴン州で尊厳死法が成立して以来、モンタナ州、バーモント州そしてワシントン州のたった4州でしか認められていないのです。そして、①18歳以上であること、②その疾患が終末期であるという診断書の存在、③余命6か月以下であること、④口頭での申請2回と書面申請1回の計3回申請したこと、⑤うつ病でないかどうかを主治医でない医師がスクリーニングしていること、⑥薬物を自ら経口摂取できること、⑦尊厳死が認められている4州に居住していること、以上の7つの条件を満たして初めて尊厳死は成り立ちます。もちろん、途中で考えが変わり中断することは可能です。ワシントン州では毎年120人が申請しますが、1/3の人々が既存の疾患で亡くなるかもしくは自分の意志で尊厳死を中断します。尊厳死は難しい問題であるがゆえに賛否両論様々な見解がある問題です。反対意見としては、医師は本来患者を癒し助ける立場にあるはずにも関わらず患者を死に至らしめるという行為そのものに対する反論や、宗教的考え方から「神の御手にあるものを勝手に死なせてはならない」といった考え方があります。一方で賛成意見としては、患者の苦痛を取り除くことが医師の仕事なら、「穏やかに死なせてあげることで患者の苦痛を取り除くこと」も医師の役割であるという意見や、尊厳死という選択をした患者の自律性を守る事につながるという考え方があり、どちらが正解でどちらが間違っているとは決めることができません。まだ日本では認められていない制度ですが、今後もしかしたら日本でも行われるかもしれません。自分が医師で目の前に尊厳死を望む患者がいたら、果たして私にその想いを受け止めることができるのだろうか、受け止めてそして見とどけてあげることができるのだろうか。今回この講義を受けて、私自身も尊厳死に対してもう一度深く考える機会を得ることができました。まだまだ私の中でも答えが出ていない問題なので、これからじっくり考えていきたいと思っています。

4日間たくさんの講義を受け色々な施設を見学しました。講義の内容は難しかったのですがどれも考え深く、アメリカと日本における医療という概念の違いや日本にない制度(尊厳死法やChaplain制度など)を知ることができました。講義によっては、学生同士でお互いの意見をDiscussionする場面も多々あり、普段友だちの医療に対する考え方や思ったことを聞く機会がなかったのでとても新鮮でした。また、私は将来小児科医を目指しているのでChildren’s Hospitalを訪れる機会があったこと、そしてそこで小児科における終末期医療の話を聞くことができた事は本当に勉強になりました。今回の研修では勉強だけではなく、ワシントン大学の方々によるWelcome Partyが開催されたり、シアトルのたくさんの名所を観光したりと、とても充実した素晴らしい8日間を過ごすことができました。

最後になりましたが、このような素晴らしい機会を作ってくださった山西先生をはじめ引率してくださった古山先生、野口先生、蒲生先生と奥様、古瀬先生、通訳のいずみさん、ガイドのよしこさん、そして枚方療育園と播磨サナトリウムのスタッフの皆さん、McCormick先生と講義してくださったすべての先生方に心から感謝いたします。本当にありがとうございました。

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