広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

シアトル研修を終えて

● 寺崎 英佑さん (第5学年次)

今回8月10日から17日までシアトルのワシントン大学の研修に参加させていたただきました。研修内容は主に医療における生命倫理を学ぶというものでした。また生命倫理だけではなく、マラリアについて、アメリカの医療制度を学び、さらにワシントン大学医学部に附属する病院の見学や世界で初めて透析が行われたNW Kidney Centerの見学もさせていただきました。それぞれの講義、見学はとても興味深く考えさせられることが多かったですが、その中で特に印象に残ったものについて報告させていただきたいと思います。

 まず初めに、Fred Hutchinson Cancer Research Centerの見学についてですが、この病院はワシントン州では一番の癌センターであり、外来のみを行っており入院はワシントン大学附属病院で行っているとのことでした。とにかく施設が広大で、例えば1フロアすべて婦人科癌を専門にしているぐらいの大きさで日本との違いに驚かされました。外来にのみ集中することで外来での治療の奏効率を上昇させ、またオンコロジー(腫瘍や癌を研究する学問分野)の研究も行っており臨床への治療の実現も外来と隣合わせであることによって、より進歩しやすいと思いました。この見学の中でチャプラン制度について講義がありました。アメリカではスピリチュアリティが大事であり、これは宗教を持っていなくても個人がそれぞれ持っており生きる意味、目的、自分と周りとの関わりなどのことです。この意識は病気になることで変わってくるものでありその変化に対する患者さんの心の苦闘をケアするのがチャプランです。主な仕事として患者に寄り添い、宗教的な葛藤を支え、価値観を理解し、病気による生活の変化をケアするというものでした。精神的サポートや患者さんの価値観を見直すことは治療を行ううえで重要なことであり大きなメリットであると思いました。このようにアメリカでは患者さんの精神的サポートを専門とする職業が存在し、いかに個人を尊重しているかとういうことに気づきました。日本にはチャプランのような職業はまだ広くは普及しておらず、アメリカと比べて“患者さんを診るというより疾患を診る”ことに重点が置かれているように思え、日本にもチャプランというような職業が広く知られて欲しいと思いました。

次にホスピスを行っている施設の見学に行きました。ここのホスピスの特徴として家族の悲しみを癒すプログラムというのが存在することに驚きました。患者さんが亡くなった3週間後に家族に連絡をし、1年以上かけて家族の悲しみの心のケアを行うとういうものでした。患者さんが安らかに亡くなって終了するのではなく、残された側のケアを行うことに驚かされました。緩和ケア、ホスピスと聞くとどうしても暗いイメージになってしまいます。これは施設の方がおっしゃったのですが「ホスピス制度がなかったら死に向かってゆく患者さんはもっと暗かったはず。だからホスピスに対して暗いイメージなんてなく、患者さんや私たちにとってはむしろ明るいものなのだ。」とのことでした。これには大きな感銘を受けました。この講義と同時に緩和ケアにおけるコミュニケーションの重要性についても講義がありました。実際にアメリカの緩和ケアのプロの先生の話を聞くと、会話は奥深く、話されている内容もかなり複雑なものでした。会話には医師が主体である場合と患者が主体である場合があり、それを医師が上手くコントロールすることで医師―患者間のコミュニケーションの向上をはかるというものでした。改めて医師になるうえで医療技術のみではなく会話能力の必要性に気付かされ、この能力は自然に得るものではなく、能動的に練習し習得しなければならないと思いました。

最後に尊厳死の講義についてですが、アメリカではワシントン州を含め4州のみで州の法律によって末期患者さんに対する患者自らの服薬による安楽死が許されていました。これは日本ではありえないことであり殺人に値します。しかし、講義を聞いていくとこの州における尊厳死は神聖なものであり患者個人の精神、心情を一番尊重している医療行為の一つであると感じました。患者が尊厳死をする前は医師と患者との関係は今までで最上のものとなり、死を受け入れた患者は心穏やかで怒りも全くないとのことでした。医療はあくまでも患者の命を救うのであり能動的に死に至らしめてはならないですが、末期患者においての尊厳死は自分の意思を最大限に尊重されたものであってとても尊いことであると思いました。今日、日本では尊厳死は法律で禁止されており反対派も多いようですが、末期患者さんのことを考えると、アメリカの尊厳死の実態と末期患者さんの意見とを交えて改めて話し合うべきなのではないかと思いました。

この研修を通して今まで目をそむけがちであった生命倫理について深く学ぶことができました。マコーミック先生の講義で、実際医療の現場でこのようなケースに出くわしたとき、あなたはどうしますか?といったケーススタディは深く考えさせられなかなか答えを出すのが難しかったです。また医療的処置を行うだけでなく会話、コミュニケーションの重要性と会話能力の向上も強く感じました。今回このような機会を与えてくださった山西先生を初め古山先生、マコーミック先生、蒲生先生、引率していただいた野口先生、古瀬先生、さまざまな面倒をみていただいた事務の方々や通訳の方すべてに心から感謝します。この経験を将来の糧にしようと思います。本当にありがとうございました。

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